484 潰 す 2
「じゅ、獣人だと……」
「そ、それも、4人も……」
「た、ただ事じゃねぇ……」
「そんなの、最初の口上を聞いた時点で分かってたじゃねぇか……」
「誰か、警備隊詰所に知らせろ!」
ざわつく群衆達が色々なことを言っているが、マイル達はそれらを気にすることなく、スケジュールを進行させた。
既に宣戦布告、つまり戦闘開始は通告済みである。
そして、相手が凶悪犯罪者であるということ、これは
なので……。
「ウィンド・カッター!」
「クレイ・ピラー!」
「ウィンド・エッジ!」
「ウォーター・ランス!」
ばしゅどこんしゅばっずどどどど!
そして……。
「どうして俺達にじゃなくて、全部店に向けて叩き込むんだよおおおぉ~~!!」
店の者達が、悲鳴を上げた。
いや、決して、自分達に向けて攻撃魔法を撃って欲しいと思っているわけではない。皆、決してそのような怪しい性癖を持っているわけではなかった。
……しかし、4発の攻撃魔法を叩き込まれて、出入り口や
そして……。
「ウィンド・カッター!」
「クレイ・ピラー!」
「ウィンド・エッジ!」
「ウォーター・ランス!」
ばしゅどこんしゅばっずどどどど!
「ウィンド・カッター!」
「クレイ・ピラー!」
「ウィンド・エッジ!」
「ウォーター・ランス!」
ばしゅどこんしゅばっずどどどど!
「「「「「「や、やめろおおおおおぉ~~!!」」」」」」
「ウィンド・カッター!」
「クレイ・ピラー!」
「ウィンド・エッジ!」
「ウォーター・ランス!」
ばしゅどこんしゅばっずどどどど!
半泣き、いや、全泣きで『赤き血がイイ!』の4人に飛び掛かろうとした店員達は、全員、メーヴィスによって叩き伏せられた。マイルの、『ああっ、凶悪犯罪者達に襲い掛かられました! 身を守るため、仕方なく正当防衛で相手を取り押さえましょう!』との説明台詞と共に……。
……勿論、両刃の剣では峰打ちはできないため、メーヴィスは剣を剣帯から鞘ごと外して、抜かずにそのままで打ち据えたのである。『峰打ち』ならぬ、『鞘打ち』であった。
普通、鞘はそんなに
また、マイル達は
そのことをマイルが探索魔法で確認してからの攻撃であったため、その攻撃魔法の威力は何の遠慮もないものであった。
……勿論、売り場より奥には他の店員や使用人達がいたであろうが、今の魔法の炸裂音と破壊音を聞いて、全員裏口から逃げ出しているであろうから、以後の攻撃も安心である。
下っ端店員ではなく、もっと上位の者達、つまり商会主や番頭達の姿がないが、おそらく裏口から逃げ出して、大回りしてこちらへ向かう途中なのであろうか……。
そう考えながら、4人が攻撃魔法の連射を続けていると……。
「や、やめろ! 何をしている! ああ、あああ、私の店がああああぁっ!!」
数人の男達と共に、でっぷりと太った男がよたよたと駆け寄り、店の惨状を見て
「あんたが、獣人の少女を誘拐して奴隷にしている凶悪犯罪者ね?
「亜人大戦の再発を企んだ、邪神教徒でしょうか……」
「なっ!」
レーナとマイルに大声でとんでもないことを言われ、蒼白になった商会主。
もし今言われた罪状が事実であれば、関係者は全て打ち首獄門、商会はお取り潰しで私財没収は間違いない。それは、慌てるであろう。
ならば、なぜそのような馬鹿なことをやらかしたのか。
それは、普通であればバレることはない、と考えていたからであった。
人間の子供ならばともかく、獣人の子供である。
自分には全く関係のない、ヒト種ではない『一匹の、動物の仔』などのために、自分の命と家族、親族の命を危険に晒す従業員や使用人など、いるはずがない。
それが、商会主の考えであった。
また、獣人の子供を見せてやった客にしても、一応は相手を選んでいるし、互いに裏切るような間柄ではない。
……信頼しているというわけではない。互いの弱味を握っているから裏切れない。それだけのことであった。
また、密告されれば、その者も仲間であったと言い張って道連れにするであろうことは容易に察せられる。
いくら『自首すれば罪一等を減ずる』とは言っても、縛り首になるところを斬首刑にしてもらえるとか、その程度であろう。……大して変わらない。
とにかく、密告しても何もいいことはなく、そして確実に道連れにされる。
そう、ネガティヴな意味での、一蓮托生、運命共同体、そして強い仲間意識と強固な団結で結ばれた
そして、いくら獣人や魔族達、『亜人』は人間と同権とは言っても、それはあくまでも建前の話であり、あの亜人大戦の時に口出ししてきた
亜人は、あくまでも『ヒトに非ず』。
だから、『亜人』。『人に準ずるモノ』であり、決して人間には届かない、人間未満のモノ。
そういう、未だ古くさい昔の考えに染まったままの者は存在する。そしてそれらの者達は、他の者も腹の底では皆同じ考えであろうと思っているのであった。
亜人の一種である獣人の子供をまるでペットの動物のように飼い、来客に見せて自慢する、この商会主のように……。
そして、万一、従業員か使用人の誰かが警備隊に届けたところで、街の有力者であり領主と
それが分かっていて、自分達の身を滅ぼすような無謀な行動に出るような者は、この商会にはひとりもいなかった。
そういう者は、とっくに
ある者は首にされ、ある者は自分で辞め、またある者は身に覚えのない罪や失敗の責任を取らされて……。
淘汰圧。
それは、愚かな個体や種の存続に不適格な個体が排除されるための、自然による選別。
しかしこの商家においては、それは『まともな者』を排除するという、異常者の支配下における適応性を持つ者だけを生き残らせるという方向へと働いた。
……つまり、簡単に言えば、『現在残っている従業員は、全員がクズであり、同じ穴の
「店の人達は何も知らずに、なんてことがあるはずないですよね……」
「……それって、死なない程度であれば店の者を巻き込んでも構わない、ってことよね?」
念の為にそう確認したレーナに、マイルが慌てて訂正した。
「店の従業員は、ですよ! 奥の居住区にいるメイドさんや下働きの使用人達の中には普通の人もいるでしょうから、そっちの人を巻き込むのは駄目ですよ!」
「……チッ、面倒ね……」
マイルの忠告に、そう言って嫌そうに顔を歪めるレーナであるが、無関係の者を巻き込むようなレーナではないことは、仲間達はみんな知っている。
「じゃ、とにかく、作業を続けるわよ」
「「「おお!」」」
「ウィンド・カッター!」
「クレイ・ピラー!」
「ウィンド・エッジ!」
「ウォーター・ランス!」
ばしゅどこんしゅばっずどどどど!
「やめろおおおおおぉ~~!!」
そして、必死で止めようとする商会主や番頭、手代達を意にも介さず、警備兵達が現場に駆け付けるまでの間、『赤き血がイイ!』による破壊活動が続けられたのであった……。
9月12日(土)、『私、日常は平均値でって言ったよね!』(スピンオフコミックス 森貴夕貴先生)の第3巻、いよいよ発売です!(^^)/
可愛いマイル達が、日常生活の中で大活躍!!
レーナ「大活躍してたら、『日常』じゃないじゃないの!」
マイル「い~んですよ、細けぇこたー!!」