482 キタキタ~!
「とにかく、夜に確認ね。マイル、今度は勝手な真似をしちゃ駄目よ! 状況を確認して、みんなで相談して、それから方針を立てるからね!
……あ、他の者にバレないようにサリシャちゃんに接触して、意思を確認するのはOKよ。
というか、それを確認しなきゃ方針の立てようがないわよね」
こくこく
そういうわけで、夜になるのを待って出撃した、マイル。
他の3人は、宿屋で待機である。
マイルがサリシャを見つけてふたりだけで話せる機会が、皆が寝静まってからとなるか、それより早く訪れるかによってマイルの帰還時刻は大きく変わるであろうが、相談は今夜中に終わらせなければならない。結果はどうあれ、実際に動くのは明日の朝以降、場合によっては夜になってからとなるので、時間は充分ある。
もし相談が長引いた上に明日の朝イチで動くことになっても、問題はない。
ハンターたるもの、一日や二日の徹夜など、さしたる問題ではない。何せ、不眠不休での危険な森の中や敵中突破とか、追い
マイル達は、そういった面では比較的『ヌルい依頼』ばかりを受けており、実際にそのような目に遭ったことはあまりないが、勿論、それに備えての訓練や心構えはしている。
……それに、ただ『マイル達にとっては、ヌルい依頼』であっても、他のパーティにとっては充分過酷なものもあったため、別に『赤き誓い』が過酷な依頼を避けていた、というわけではない。
他のパーティには、アイテムボックスも、携帯式要塞トイレも、携帯式要塞浴室も、警報機能付き夜営用
(不可視フィールドを展開して、と……)
問題の商店に近付いたマイルは、侵入のための準備を行った。
今回は、遮音フィールドは展開しない。それを使うと、マイルにも外部からの音や声が聞こえなくなるため、都合が悪いからである。
臭い対策も不必要であろう。
そう、人間は、生物の中ではかなり『チョロい』のであった……。
衣服は、前回と同じ理由(万一発見された時、他の店からの使いか何かだと思わせ、いきなり大声で叫ばれる確率を低下させるため)で、この店のものとは少し異なるものの、ありふれた、商店の使用人や使い走りが着ているようなものを着用。
こういうところは細かい気遣いをするのが、マイルである。
……そしてそんなところに気を回せるなら、もっと基本的なことに気を回した方がよいのではないのか、というメーヴィス達の思いがマイルに伝わることはなかった。
(よし、
そして、前回の子爵家侵入時と同じようなパターンで商家に侵入したマイルであるが……。
(いない……)
いや、探索魔法を使えば獣人らしい反応源の位置を局限できるが、マイルは最初からそれをやるのは『ちょっと違う』と思っていたのである。
勿論、ケモミミ幼女の危機とかであれば躊躇なく使うが、今はそれほど差し迫った状況ではない。
なのに何でもかんでもすぐにチート魔法に頼っていては、それは『ごく普通の、平凡な、どこにでもいる女の子』の枠から少しはみ出すかもしれないと考えたわけである。
そう、
それでも、じっくりと捜すとか、夕食の時に使用人達の食事場で、あるいは使用人用の賄いよりも粗末な、残飯同然の食事が一人前だけどこかへ運ばれるのの後をつけて、とかで捜し当てることができたかもしれない。
しかし……。
(もういいや。面倒だから、探索魔法を使おう……)
もしここにレーナ達がいたら、こう呟いたであろう。
『『『マイル……。意思、弱すぎ……』』』
そう、マイル、拘るところでは拘り過ぎるくせに、そうでない場合には、
(あれ? 距離は近い、……超至近距離なのに、見当たらない……、って、地下かっ!)
マイルは、ぐぬぬ、と顔を歪めた。
(金持ちや権力者の邸で、他者の眼から隠したいであろう獣人の幼女を地下に置くというのは、普通、常識的に考えて……)
マイル、激おこである。
(幼女を愛でるための豪華な部屋を造って、もふもふ天国を実現しているに違いない!!
くそっ、私の人生における最大の夢が……、って、そんなわきゃーないか……)
さすがのマイルも、そこまで常識知らずではなかったようである。
(床の隠し扉は……、と、あった、これですね……)
探索魔法により、床下の空洞部分は簡単に探知できる。ならば、それが一番床面に近い部分が入り口である。
そして、場所さえ分かれば、複雑な機械的機構や電子ロックシステムがあるわけでなし、マイルの
そして、
……いくらマイルの姿は見えなくても、隠し扉が勝手に開閉するのを見られるのはさすがにマズいので……。
(階段を下りたところは、何もない狭い部屋ですか……。そして、奥へと続く扉がひとつだけ、と。
まぁ、地下ダンジョンとかじゃないのですから、そんなに広いわきゃーないですよね。
碌な強度計算もせずに、あまり広く掘ると、地上の構造物の重さで崩落しそうですし……)
マイルであれば、壁面や天井部に固定化魔法や強化魔法を掛けたり、柱を造ったりして、ちゃんと対策するであろう。勿論、この世界の者でも、プロの設計者や建築家であれば、設計段階で構造強度の計算を行うであろうから、問題ない。
……しかし、ここはどうも、そういう雰囲気ではない。
でこぼこの壁や天井部、
そう、どう見ても、『適当に掘っただけ』、という地下室であった。おそらく、素人が人海戦術で掘ったものなのであろう。
なので、最初に掘り下げてから地下室部分のある建物を建てたわけではなく、完全に後付け、『建物の地下に後から穴を掘って部屋にした』というだけの
そんなことを考えながら、階段を降りたところの小部屋に唯一ある扉へと向かうマイル。
部屋の向こうにある虫やネズミ以外の生体反応は、ひとつだけ。ここの主は、閉じ込めた幼女に見張りを置く必要は感じていないらしかった。
そして、相手を驚かさないようにと不可視フィールドを解除したマイルが、そっと扉を開けると……。
幼女とはいえ獣人だけあって、扉が開いた気配か、もしくはマイル自身の気配を感じたのか、扉の方は見ていなかったはずなのに、その子は、ばっ、とマイルの方を向いた。
しかし、反射的にそうしたものの、その行動には何も意味がないと思ったのか、少女は再びマイルから視線を外して、黙ったまま俯いた。
(そこは、『どなた?』ですよっ! そう言ってくれないと、『泥棒です……』って言えないじゃありませんかあああぁっっ!!)
マイルの、心の中の血の叫びに気付くことなく……。
(いや、それは置いといて! うさ耳ですよ、うさ耳!! いやいや、それも一旦置いといて!
何ですか、これはっ!!)
マイルは、自分の煩悩は一旦保留して、……保留しただけであり、決して打ち払ったわけではないし、そもそも、打ち払うつもりもなかった……、くわっと両眼を見開き、怒りにぷるぷると震えていた。
自分とうさ耳幼女の間を隔てる、木製の格子。
その向こうには、幼女、古ぼけたベッド、食事用らしき小さなテーブルと1脚の椅子。
……そう、それは俗に、『座敷牢』と呼ばれるものであった。
そしてマイルは、小さな声で呟いた。
「…………許さん……」
休暇、終了!(^^)/
今回は、書籍化作業もなく、のんびりできた2週間でした。
休暇中に読んでいたのは、『聖女様は残業手当をご所望です ~王子はいらん、金をくれ~』
守銭奴ちっぱい聖女の物語。(完結済み。)
レーナ 「どうしてあんたが読むのはちっぱい少女の話ばかりなのよ?」
FUNA「うるさいわっ!」
ポーリン「なかなか、見どころがありそうですね……」