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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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481 逃 走

「で、どうすんのよ……」

「最初の計画では、領主をらしめるはずでしたよね?」

大見得おおみえを切る見せ場があるって言ってたよね?」

 星明かりの街道を歩きながら、みんなに責められるマイル。

「い、いえ、こちらにも色々と事情が……」

 マイルが必死で弁明するが、旗色は良くない。


「まぁ、無事救出できたのは良かったけど、領主に対する糾弾きゅうだんはどうするんだい?」

 あまりにもマイルが責められるため、助けてもらったシュラナが居心地悪そうな顔をしているのに気付いたメーヴィスが少し話題をずらした。

 確かに街から離れつつある今、それは早く決めなければならないことであり、自然かつ妥当な話題である。


「それなんですけどね……」

 そして、天の助けとばかりに、マイルがその話に飛び付いた。

「このままでいいんじゃないかと思うんですよ……」

「「え?」」

 レーナとポーリンは驚いて声を上げたが、メーヴィスは驚いた様子がない。マイルがそう言い出すと予想していたのか、それとも自分も同じように考えていたのか……。


「いえ、今回の私達の任務……私が出した依頼ではありますけど……は、『獣人の幼女達の救出』ですよね? わざわざ領主である貴族と真正面ましょうめんから事を構えて、領民が大迷惑をこうむる、というような被害を出す必要はないんじゃないかな、と……。

 誘拐の実行犯は捕らえたし、仲介役の商人は、まぁ、アレで潰せたでしょうし……。

 まぁ、念の為、帰りにあの街に寄って確認して、もし万が一うまく言い逃れて無事であった場合は、再度潰してとどめを刺しますし……。

 これで、少なくともこの犯罪ルートは完全に潰れますよね? 最終的な『購入者』以外が全て壊滅したのですから。

 購入者は、まぁ、事情を知っていて買ったであろうとは思いますけど、一応は『前払い分の給金としてのお金を払って手に入れた、住み込みの奉公人』という扱いで、別に虐待したり奴隷扱いしたりすることなく、普通の使用人達と同じ待遇だったわけですから……」

「善意の第三者、ってわけかい?」

「まぁ、そう言い張られれば、確かに否定はできませんよねぇ……」


 善意の第三者、というのは、別に『善意がある人』という意味ではない。『特定の事情を知らなかった者』という意味であり、盗品であるということを知らずに購入した人のような、その人自身は犯罪行為に関わっておらず、そういう事情を知らなかった者、という意味である。

 だから、本人が悪党だとか下衆な貴族だとかであっても関係なく、その件に関しては犯罪行為の存在を知らず、悪意のない普通の顧客として関わっただけであれば、『善意の』と言わざるを得ないのである。前回の、リリアを引き取った伯爵とかが、それに当たる。

 なので、メーヴィスとポーリンが言う通り、『お金を払って、年季奉公の子供を受け入れた』ということ自体には、何の違法性もない。


「でも、たまたま仲介者から、っていうんじゃなくて、そいつが仲介業者に事前に獣人の子供の入手を発注した、ってことならどうなのよ?」

「『誘拐してこい』と指示した場合は共犯になるでしょうけど、それを証明するのは難しいのではないかと……。『獣人の若い女の子で年季奉公を希望する者がいたら、紹介してくれ』と言っていただけで、攫ってくるなんて話は知らない、と言われれば、それまでですよ。

 実際、代価を払わずに無料で手に入れたのは実行犯だけで、仲介業者も貴族も、ちゃんとお金を払っているわけですからね、金額の大小や、それが明らかに相場からかけ離れた異常な金額であったとしても。

『事情を知らずに奉公人を斡旋した商人』、『数十年分の給金を払って引き取った貴族』、共に立派な『善意の第三者』と言い張れます。

 まぁ、現行犯で捕らえた誘拐の実行犯は言い逃れのしようもないですし、うちの国で捕まえましたから、問題ないです。

 でも、仲介業者がクロなのは実行犯からの聞き取り調査(じんもん)で明白ですから、うちの国に来た場合には捕まえられますけど、この国ではどうしようもありませんからねぇ。この国の司法機関とは関係ないし、犯罪者の引き渡し協定もありませんし……。

 まぁ、私達は仲介業者である商人がクロであることを『知っている』から、バレないように制裁する分には問題ありませんが……」


 レーナにそう答えるマイルであるが、それは『私的制裁』である。

 法的根拠のない、個人や私的グループによる勝手な報復行為。いわゆる、私刑リンチであった。それは、民衆の望みではあっても、明らかに違法であり、犯罪行為である。

「問題大ありのような気がするのだけど……」

「バレたら、ね」

 正義を曲げたくないメーヴィスがマイルの言い分に疑問をていするが、レーナは気にしないようであった。

 ……まぁ、マイルのことだから、『制裁』とは言ってもおそらく悪事を大々的に公開するとか、自業自得に持ち込むとかであり、理不尽な真似はしないと思っているのであろう。

「い~んですよ、細けぇこたー!」

「全然、細かくないよね! すごく重大だよね、それ!!」

 メーヴィスがそう指摘するが、マイルは気にした素振りもなかった。


 マイルは、普段はその国、その場所における規則ルールを守ろうとする。

 そしてレーナが暴走しそうになった時や、ポーリンが限度を超えた腹黒い企みをした時とかには、それらを制止する側に回る。

 また、この世界ではそのような必要がない時にも、『正当防衛の要件を満たす』とか、『交戦規定(R・O・E)をクリアする』とかいう、レーナ達にとっては意味の分からない、余計な手順を踏もうとする。

 ……そしてレーナ達は、意味が分からないながらも、それが大きな問題とはならない限り、なるべくマイルの希望に沿うように行動してやっている。

 そのマイルが、私的制裁をとすることなど、普通であれば、あり得ない。

 そう、普通であれば……。


「幼女だものねぇ……」

「はい、しかも、ケモミミですからねぇ……」

「あ~、仕方ないか……」

 しかし、それも無理はない。

 その理由が、嫌というほど分かっている、レーナ、ポーリン、そしてメーヴィスであった……。


「でも、そのマイルがあそこの領主は見逃す、って言うんだから、ま、私は別に構わないわよ」

「うん、私も異議はない」

「同じく、井坂十蔵!」

 仲間達がみんな自分の勝手な主張を認めてくれて、しかもポーリンは気を使って『フカシ話』における定番の台詞まで使って、自分があまり気にしないようにと冗談っぽい言い方をしてくれている。そう思い、仲間達の心遣いに感謝するマイル。


「じゃあ、今回はこのまま曖昧あいまいに、ということで……」

 キラ~ン!

 メーヴィスの締めの言葉に、マイルの眼が光った。

 ……『ネタ発見!』の印である。

 それに気付き、しまった、という顔のメーヴィス。

 そして……。

アイマイ!まいる! ひとりでれるもん!」

「「「ハイハイ……」」」

 そして、何のことだか全然分からない幼女シュラナが、ひとりポカンとしていた……。


「じゃあ、このまま次、三人目のサリシャちゃんを買った商人がいる街を目指しますよ?」

「「「おおっ!」」」

 ちゃんと、ハンターとしての流儀で、右腕を掲げて了承の返事をしてくれた3人であった。


     *     *


「そして、この街で宿を取り、問題の商家に関して調査を行ったわけですが……。結果は、」

「「「「まっくろくろすけ!!」」」」

 ……そう、街での評判も、普通の客の振りをしての店の偵察結果も、非常に典型的な『悪徳商人』以外の何ものでもなかった。

 マイル達は、今まで大勢の正直な商人、そして大勢の悪徳商人達に出会ってきた。

 ハンター養成学校を卒業した後すぐに出会った、岩トカゲの納入を依頼していた商人。

 その岩トカゲ狩りに行く途中、『赤き誓い』に寄生しようとしてきた商人。

 零細商店『アリトス』を陥れようとした商人。

 ……そして、レーナの仲間、『赤き稲妻』を裏切った商人に、ポーリンの父親を殺させ店を乗っ取った商人。

 それらと同じ、『アカン奴オーラ』が出まくりの商人であった。


「……で、マズいのは……」

「うん……」

「聞き込み調査の結果、獣人の少女の目撃情報が全くない、ということですよね……」

 そう、幼い獣人を買うのは『反抗しないよう、幼いうちから飼い慣らし、従順にさせる』ためであり、幼いうちに酷使してすぐ死なせるためではない。

 だから、幼いうちは『年季奉公』ということにして普通の下働きとして働かせる、と思っていたのである。ふたりめの、シュラナのように……。

 なのに、獣人の少女の目撃情報が、ひとつもない。


 幼い少女に、力仕事である倉庫の荷出しや、戦場同然である裏方仕事を担当させるとは思えない。

 洗濯とかも、力もなければ手も小さく、物干し竿に手が届かないような者にできるわけがない。せいぜい、掃除か賄いの下拵したごしらえ……芋の皮剥きとか、玉ねぎを刻む程度……くらいが関の山であろう。

 そして、そういう雑用仕事であれば、他の使用人達と一緒に行動するであろうから、使用人の間で、そして一部の客達にもその存在が認知されているはずであった。

 ……それが、それらしきものを見たという証言は、客からも、メーヴィスがたらし込んだ……話し掛けて聞いた……若い女性従業員達からも、一切得られなかったのである。


「ま、まさか、既に弄ばれた挙げ句、どこかの土の下に……」

 そう言って蒼くなるメーヴィスであるが、ポーリンが首を横に振った。

「マイルちゃんが落ち着いてるから、それはないですね。マイルちゃんはいつも、『余裕ぶっこいてて、僅かの差で間に合わないとか、馬鹿のやること』って言ってますからね。多分、探索魔法か何かで生体反応がしっかりしているのを確認して、怪我や病気で死にそうだとかいう状態じゃないことを確認してるんじゃないかと思います。

 なので、今すぐにどうこう、という状況じゃないのでしょうけど、……リリアちゃんやシュラナちゃんとは状況が違う確率がとても高い、と。

 そうなんでしょう、マイルちゃん?」

「…………」

 マイルは、ポーリンの言葉に、真剣そうな顔でこくりと頷いた。

 それを見て心配そうな顔のシュラナの頭を、ぽんぽんと優しく叩いてやるレーナ。

 そして、うるうるした眼でレーナの顔を見上げるシュラナ。


「ああっ、レーナさん、何、美味しいとこ取ってるんですかあぁっ!!」

「マイル、せっかくのシリアスシーンが、台無しだよ……」

 カッコいいシーンや名場面が大好きなメーヴィスが、がっくりと肩を落としていた。



すみません、夏休暇として、2週間(2回)、お休みをいただきます。

今回は、3冊分の書籍化作業をぶっ込まれることなく、ちゃんと休めると思います。(^^ゞ

休暇後も、引き続き、よろしくお願い致します。(^^)/

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