475 殲 滅 2
「次は、何とかいう名前の、伯爵領ですね……」
「ああ。さすがに、王都に獣人幼女の奴隷を持ち込むほどの勇者はいないだろうからね。そういうのは、自分の領地の屋敷に置いておくものだ」
「王都だと、何かあっても
その点、自分の領地であれば、どうとでもできますからねぇ……」
メーヴィスとポーリンが言う通りであり、王都にそのような危険物を持ち込むというような、ダイナマイトを身体中に
なので、これからみんなが向かうのは、獣人の幼女を買った貴族の領地や、大商人が自分の出身地に持っている屋敷である。
そして勿論、マイル達には『相手と交渉する』とか、『幼女達を買い戻す』などという気は全くない。
何しろ、一部の国を除いて、借金や犯罪による『返済や懲罰のための、限定的な奴隷扱い』以外での奴隷、つまり人種的・種族的なもの、親が奴隷だったからその子供も、とかいう、『本人の自業自得によるもの』以外の奴隷は存在していないのである。
そして、『古の約定』により、亜人に対して手出しすることは禁じられている上、人間側が自分達だけの勝手な理由で獣人をどうこうすることも、当然のことながら厳禁である。
……勿論、獣人側が明らかな犯罪行為を犯したような場合は、『古の約定』によって定められた手順に従って捕縛され、処罰されるが……。
しかし、その中に『村で平和に暮らしていた幼女』が含まれるということは、あり得ない。
……絶対に。
なので、マイル達は何の遠慮も躊躇も心の
勿論、悪党を潰す際においては、嘘を吐いても構わない。
約束を守ったり、誠意を示したりするのは、『そうするに値する相手に対して』のみである。
脅迫や強制によって約束させられたことなど、守る必要はない。そして同じく、先にルールを破った相手に対して、こっちが
「じゃあ、行くわよ。『赤きちか……血がイイ!』、出撃!」
「「「おおっ!!」」」
そして、地獄の鬼たちが、再び旅立っていった。
……悪魔?
アイツらは、もっと温厚で、思慮深い。
* *
「……しかし、メッチャ分かりやすかったですねぇ、買った人達の名前のヒント……」
「まぁ、あれは『自分達は名前を教えたりはしなかった!』と言い張れるよう予防線を張っただけで、実際には、全て吐いたのと同じですからねぇ。そうすれば、自分達はそっとしておいてもらえるものと思い込んで……」
「そんなこと、あるはずがないですよねぇ……」
「「あっはっは!」」
街道を歩きながらのマイルとポーリンのそんな会話を、複雑そうな顔で聞いていたメーヴィス。
「まぁ、私達の目的は獣人の子供達を連れ戻すことであって、獣人入手の大元の依頼人でも実行犯でもないただの仲介役になんか興味はないだろう、と考えたのだろうねぇ。
……勿論、私達がそう受け取られてもおかしくないような言い回しをしたからだろうけど……」
確かに、マイル達が『依頼を受けて行動しているハンターパーティ』であれば、依頼されたことだけを行うであろう、余計なことなどせずに。
……依頼内容が『子供達の救出』であるならば、ただ、それだけを目的として。
勿論、そのために相手側が雇った者たちと戦う必要があればそうするであろうが、必要もないのに他国の商人と事を構えることはない。それも、得るべき情報を素直に提供し、一応は『それらしい言い訳』をしてきた、協力的な『善意の第三者』を主張している連中であれば。
それに、どうせ実行犯は捕らえられ、これから依頼元のところへねじ込むつもりであろうから、もうこのルートは潰れたも同然なのであるから……。
……しかし、形式上、この依頼は『マイルが、ギルドに加入していない無資格の野良パーティに依頼したもの』ということになっている。
無資格の者たちへの依頼なので、当然のことながら、ギルドを通さない
そのため、今の『赤き血がイイ!』を縛るものは、
「貴族さん、怖いよォ? 何か来るよ? 大勢で貴族さんを殺しに来るよぉ……」
「また、わけの分からないことを……」
「ヒロコちゃんですよ、デビュー作ですよっ! 証明しちゃいますよっ!!」
「だから、知らないわよっっ!!」
また、マイルが何かわけの分からないことを言っていたが、いつものことである。みんなに軽く流されて終わった。
仕方ない。
あまりにも
「もう! さっさと行くわよ!
この街で、私達が違法奴隷誘拐ルートを追っているということが多少広まったところで、まぁ、大きな影響はないだろうとは思うけど……。
あの商会の連中は自分達が助かるために取引先を売ったということを知られたくないだろうから、わざわざ自分から販売先に連絡することはないでしょうし、これから始まるであろう取り調べで、とてもそれどころじゃないでしょうけど……。
そもそも、そんな時に販売先と連絡を取るなんて、自殺行為だしね。
そして噂というものは、そんなに早くは伝わらない。
……少なくとも、私達が真っ直ぐ、全速で現地へと向かうのより早くはないはずよ。
噂というものは、一直線に全速で広まるものじゃないからね。誰かが目的を持って特定の相手に知らせようとでもしない限り。
そして私達の移動速度は、噂が他の街へと拡散される場合の主力である、商人達の荷馬車よりずっと速いからね。
つまり、『問題ない』ということだけど、それでも、少しでも早く移動した方がいいというのは変わらないからね」
レーナの言葉に、こくこくと頷くマイル達。
商店で確認した取引相手は、3件。村で確認した被害件数と合致する。おそらく、正直に喋ってくれたのであろう。
それはそうであろう。
民衆の前で『もし、私達がこのまま出てこなければ』などと大声で叫ばれた上、このパーティに依頼した者がいる以上、もしこのパーティが行方不明になった場合には新たなハンターパーティが雇われ、そして前任者がどの時点で消息を絶ったかはすぐに分かる。
そんなことになれば、美少女大量殺人事件の容疑者、そしてハンターギルドからの報復で、誘拐事件の取り調べが行われるまで待つことなく、確実にアウトである。
そして、適当な嘘を吐いて追い払ったところで、すぐに嘘だとバレて怒鳴り込まれ、今度は自分達のことも警備隊に届けられ、徹底的に追及されるだろう。
……完全にアウトである。
そう、あの商店主には、本当のことを喋る、という以外の選択肢はなかったのである。
だからこそ、ポーリンも相手が言うことを疑って何度もしつこく追及する、ということをしなかったのである。
もしそうでなかったなら、ポーリンとレーナによる『繰り返し、何度も何度も同じ質問を繰り返す』という取り調べ方法が実施されていたはずであった。そう、精神的に追い詰めることと、言っていることに矛盾が発生し、そこを追及するために……。
「……ま、私達は約束はきちんと守ったわよね。嘘は吐いていない。私達はただ、各部に出発の挨拶をしただけよ。
だから、何も気にする必要はない……、いえ、ちゃんと悪党が処罰されたかどうかを帰り道で確認することを忘れない、ということ以外は、気にする必要はない、ってことよ。
じゃ、まずは田舎領主のところね。チャキチャキいくわよ!」
「「「おお!!」」」
いくら荒くれ者や無法者が多いハンターとはいえ、一応、貴族に対してはきちんと礼儀を守る。
皆、必要もないのに命を危険に晒したり、わざわざ権力者を敵に回したりはしたくないであろうから……。
『赤き誓い』も勿論そうであり、普段口の悪いレーナでさえ、貴族相手には一応、丁寧な言葉遣いをする。
……但しそれは、『相手が普通の、常識の範囲内である貴族』であれば、の話であった。
怒らせれば、たとえ相手が王族であっても、躊躇なし。
……イカン。
面白い短編を見つけてしまった。
『引きこもり箱入令嬢の結婚』
いや、早く明日の更新原稿書かなきゃなんないのに……。(^^ゞ