473 獣人の村 5
「……というわけで、受けた依頼は終えたわけですが……」
そう言いながら、レーナ達の顔色を窺うマイル。
「馬鹿ね。決まってるでしょ!」
「ああ、こんな中途半端なところで終えて、スッキリするもんか!」
「大勢捕らえた方が、犯罪奴隷の売却益の取り分が増えますからね!」
そして勿論、マイルの望みを優先してくれるレーナ、メーヴィス、ポーリン。
今回捕らえた連中は、獣人達が人間側に引き渡してくれるかどうか、分からない。
もし引き渡さずに自分達で『処理』するつもりであれば、当然のことながら、犯罪奴隷の売却金は発生せず、勿論『赤き誓い』の取り分もない。なので、ポーリンの眼はマジであった。
「村長さんに聞いておきました。これが、最近姿が消えた子供達のリストです。
この3件の内の1件は連れ去られるところをふたりの村人が目撃して戦いになったそうですが、向こうの人数が多かったために逃げられたそうです。それで、他の2件と合わせて、誘拐事件だということが判明したそうです」
「もし目撃されていなければ、事故や迷子、あるいは魔物に襲われたとか思われて対処が遅れ、もっと多くの被害者を出していたかもしれないね……」
手回し良く調査結果を報告するポーリンと、それにコメントするメーヴィス。
確かにメーヴィスが言うとおり、下手をするとまだまだ被害者が増えていたであろうことはほぼ確実であった。何しろ、この連中は『こっそり攫うことができなければ、強攻策に出る』というつもりだったらしいのだから。
そしてその場合は、大人達にも被害が出たであろう。重傷、あるいは『死』という形で……。
「でも、誘拐する子供に村人を殺すところを見せるのはマズいと思ったのか、それとも子供を連れて逃げられればそれで良く、別に目撃者を殺す必要はないと考えたのか……。殺そうと思えば簡単に殺せただろうに、目撃した村人達は怪我はしたものの殺されることはなかったそうです。
殺しておけば情報が秘匿できたのにそうしなかったということは、そう悪い人達じゃなかったのかも……」
「馬鹿ね、大人を殺して子供が行方不明、ってことになれば、殺人誘拐事件確定じゃないの。それこそ領主を巻き込んだ大事件になっちゃうわよ!」
「あ……」
レーナにそう指摘され、自分の考えの甘さに、顔を赤くするポーリン。
「それに、そもそも『連続幼女誘拐犯である、そう悪くない人達』っていうのは、何となく矛盾した言葉のような気がするのだけど……」
そして、メーヴィスの追い打ち。
「うう、分かりましたから、そんなに苛めないでくださいよぉ……」
ふたりからの滅多打ちに、半泣きのポーリン。
(写真があるわけでもないこの世界では、多少顔を見られたからといって、大したことはないものねぇ。服装や髪型、髭の有無とかでイメージはがらりと変わるし、目撃者とまた顔を合わせる機会はないだろうし、目撃者が似顔絵の名人だという確率はほぼゼロ。
そしてもし万一似顔絵を描かれたとしても、それをコピーして配布されることも、テレビで流されることもない。……そりゃ、わざわざ殺して人間達が本気で介入するような危険は冒さないよねぇ……)
前世では人の顔を全く覚えられなかったマイルであるが、今は少しは覚えられる。しかし、明らかにそれは普通の者に大きく劣っていたため、マイルには『犯罪者が顔を隠す必要性』というものに、今ひとつ理解が足りないのであった。
そのあたりのことは捕らえた連中に直接聞けばいいのであるが、そんなことは聞いても聞かなくてもどうでもいいし、少しでも処罰を軽くして欲しくて適当なことを言うだろうから、喋らせても意味がない。後で真偽がはっきりすることでもないし、その程度の『殊勝なこと』を聞かされたところで、別に処罰が軽くなることはない。
「ま、とにかくそういうわけで、とりあえずは隣国へ行って、連中から聞き出した『受取手』というのに当たるわよ」
当然ながら、あんな連中が親玉と直接会って取引しているわけがない。汚い仕事、危険な仕事の実務は、『そういう者達』の担当である。
「でも、ギルドから受けた依頼はここまでの分だけですし、他国の者に勝手に手出しするとなれば、もしそのことが問題視された場合は……」
「この村からの自由依頼、というわけにもいかないよね。ギルドを通さない自由依頼だと、何かあった時にもギルドからの支援は得られないし、私達だけでなく、依頼を出した獣人側も立場が悪くなり、下手をすると大問題に発展する可能性も……」
「じゃあ、どうするのよ!」
ポーリンとメーヴィスがそれぞれ懸案事項を口にし、レーナが噛み付くが……。
「問題ありません!」
なぜか、やけに自信たっぷりにそう断言するマイル。
「仕事は、私達『赤き誓い』ではなく、他のパーティに依頼します。所属不明の、謎のパーティに!」
「「「え?」」」
「パーティの正体も、依頼人も不明。当然ながら、責任の所在も不明です」
そして、しばらく経って、徐々ににやにや笑いを浮かべ始めた3人。
「ああ、あのパーティか……」
「あのパーティに任せるなら、安心ですよね」
「そうね、いい選択よね」
そして……。
「「「「『赤き血がイイ!』、推参!!」」」」
……地獄の底から、鬼と悪魔がやってきた……。
* *
「……というわけで、あの連中から聞き出した『受取手』に会うために、隣国のこの街に来たわけですが……」
「まぁ、あいつらも、『何かあれば切り捨てられて、全ての罪を
「はい。ちゃんと
そんなことを言うマイルとレーナであるが……。
「本当に『遣り手』だったなら、あんなに簡単に捕らえられたり、そもそもあんなハイリスクの仕事を受けたりしませんよ! いくら多少実入りが良くても、1回の失敗で全てを失い破滅するような仕事、まともな者がやるわけないでしょう!」
ポーリンに、
「まぁ、そうだよねぇ……」
そして、メーヴィスによる駄目押し。
「……と、とにかく、その『受取手』とかいうのを締め上げに行くわよ!」
「「「おおっ!」」」
* *
「すみませ~ん! ここで、誘拐した違法奴隷を売っていただけると聞いたのですけど~!」
とある商店の軒先で、大声でそう叫ぶ4人の少女達。
「……ばっ! 大声で、何てこと叫びやがる!!」
大慌てで店から飛び出してきた店員が、少女達を怒鳴りつけた。
しかし、少女達はケロリとした顔で、大声でその店員に尋ねた。
「いえ、ここ、『エイラル商会』ですよね? ここの商会長さんが番頭さんに命じて雇っておられます、ヴェデルさんから御紹介いただきました。獣人の村を襲って、獣人の幼女を違法奴隷として攫い、売り捌いておられるということをお教えいただき……」
「なっ、ななな!」
少女の言葉を遮り、口を閉じさせるべきであった。
しかし、あまりのことに呆然としてしまい、全てを大声で喋られてしまった。夕方で多くの人々がいる、大通りに面した店の真ん前で。
ざわざわ……
とんでもない話を聞き、足を止めた通行人達。
そして、どんどん人が集まり始めた。
獣人の村への手出し。襲撃。誘拐。そして違法奴隷の売買。
全て、極悪非道にして、超重罪である。
「ちょ、ちょちょちょ!!」
一味のひとりなのか、何も知らないただの下っ端なのかは知らないが、
そして、微笑む4人の少女達。
((((にやり……))))
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