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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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472 獣人の村 4

「な、ななな……」

「何だ、テメェら!」

 つい先程まで怯えていたはずの、獣人の子供達。

 それが今は、不気味な顔で意味不明な言葉を呟いている。

 男達が不審に思うのは当たり前であった。


「誘拐犯であることの自供、戴きました……」

「私達の身体に対する、この上ない侮辱も、戴きました……」

「判決は?」

「「死刑!!」」


 何やら、物騒なことを言っている小娘達。

 しかし、気味が悪いものの、10歳前後(と思われる)の獣人ケダモノの子供など、荒事に慣れた自分達にとっては赤子同然。いくら人間の子供より素早くて力があるとはいっても、所詮は子供である。

 そう思って、捕まえて縛り上げようとしたら……。

「イデデデデデデ!」

 少女の腕を掴もうとして伸ばした右手を掴まれ、ねじ上げられた。

「放しやがれ! くそ、熊か何かの、馬鹿力系の獣人か! イテ、イテェってばよォ、や、やめ、放せエェ!!」

 無謀にもマイルを力尽くで捕らえようとした男が悲鳴を上げ……。


「くそっ、おとなしくしねぇと、このガキが……」

 そして、レーナの襟首を掴もうとした男が……。


 どすっ!


「ぎゃあああああああ!!」

 同じく、伸ばした右手の甲を貫かれた。

 ……小さな千枚通しのような暗器によって。


 別に、魔術師だからといって魔法でしか戦ってはいけない理由はない。

 それどころか、近接戦闘において身を護るために杖を持っているのであるから、対人戦を控えている時には、更に隠し武器として暗器の類いを忍ばせておくのは、肉体言語が苦手である後衛職の者にとってはごく当たり前のことであった。

 レーナが常に左手首と肘の間に装着しているそれを使う機会が今まで殆どなかったのは、ただ単に、それを必要とする程の危機に陥ることがなかったか、危機に陥った場合でも、そんなものを使ってもどうしようもない場合……相手が古竜とか……ばかりであったためである。

 なので、使うべき状況になれば、腕を少し捻るようにした特殊な振り方をして留め金を外し、一瞬の内にそれを掌に収めることができるのであった。


「て、テメェら……」

 様子がおかしい。

 ようやく、それに気付いたらしき男達。

 本来であれば恐怖で泣き出しているはずの子供達が、あり得ない反撃を行い、そして不気味な嗤いを浮かべている。これでおかしいと思わなければ、馬鹿であろう。


三途さんずの河原を引き回し……」

冥土めいどへ追放、」

「地獄へ遠島、」

「「申し渡す!!」」


 マイルのにほんフカシ話に毒されたレーナは、『いつか言ってみたい台詞、No.8』をこなすことができて、満足そうに、むふー、と鼻息を吹き出していた。

 ……ちなみに、レーナの『いつか言ってみたい台詞、No.1』は、『お願い、私のために争わないで!』である。

 以前、その台詞をマイルに先を越された時には、かなり荒れた。

 但し、マイルがその台詞を言った相手がレーナ達と『ワンダースリー』であり、共に女性であったため、事無きを得た。

 これが、男性相手の台詞であったなら、どうなっていたことか……。


「じゃかましいわっ! お前達、一斉に飛び掛かって取り押さえろ!」

「「「「「おおっ!」」」」」

 リーダーと、マイルとレーナに手出ししたふたりを除いた、残りの5人が一斉にマイルとレーナに襲い掛かった。

 そして、マイルが腕を捻って押さえ込んでいた男を連中の方へ突き飛ばして……。

「「ホット・トルネード!」」

「「「「「「「「ぎゃあああああああ~~!!」」」」」」」」


 ホット魔法をポーリンに伝授したのは、マイルである。

 そしてそれを見ていたレーナも、魔力消費が少なく、大勢の敵を殺すことなく一瞬で無力化することができるその魔法には興味津々(きょうみしんしん)であったため、勿論、ポーリンと一緒に学び、マスターしている。

 なので、攻撃は怒りに燃えたマイルとレーナのダブル・ホット・トルネードとなり、誘拐犯……というか、奴隷狩りの一味は、あっさりと無力化され、捕らえられたのであった。




「というわけで、コイツらが犯人なわけですが……」

 捕らえた8人の奴隷狩りの男達を村に連れ帰り、村人達に引き渡した『赤き誓い』。

 捕らえられる前に、自分達で奴隷狩りであることを白状したわけであるから、証拠も何も必要ない。そして、もし自供していなかったとしても、状況証拠だけで充分であった。

 ……何しろ、『赤き誓い』は、ギルドを通した正式な依頼によって指定された対象を捕らえ、依頼主に引き渡しただけなのであるから。あとのことは村人と男達の間でのことであり、『赤き誓い』が関与したり責任を負ったりする問題ではない。


 そして、人間の正式な司法機関……領主やその部下による判断か、王宮の司法部門等……によることなく、この村の者達が勝手に取り調べ、そして勝手に処罰しても、何の問題もない。獣人達は、『人間の法律に縛られる、「ヒト種」』ではないのだから。

 そう、獣人に殺されるのは、ゴブリンやオークに捕らえられ、殺されるのと同じ扱いである。

 そして、ゴブリンやオークと違い、獣人達はハンターや兵士達によって駆除されることはない。『亜人大戦』終結時に結ばれた、いにしえ約定やくじょうに従って……。

 ……つまり、『やり放題』であった。訊問も、拷問も、……そして処刑も。そこに、公正な裁判とかは必要なかった。

 そして当然、捕らえられた男達も、それくらいのことは知っている。


「御苦労じゃった。では、今までに攫われた者達のこと、買った者達のこと、そして親玉のことを喋ってもらおうかのぅ。

 お~い、油は煮立っておるか? 鉄串は真っ赤に焼けておるか?」

 笑顔で厨房の方に向かってそう声を掛ける村長。

 そして、『は~い!』と返ってきた返事に、男達は蒼白の顔を引き攣らせて……。


「ぎ」

「ぎ?」

「「「「「「「「ぎぃやああああああぁ~~!!」」」」」」」」




 そして、全てを吐いた奴隷狩りの男達の前で油淋鶏ユーリンチーとオーク肉の鉄串焼きを食べながら、これからのことを話し合う村長以下村の役員達と、『赤き誓い』。

 勿論、拷問などは行われていない。

 先程のアレは、村長が、食事の支度したくが進んでいるかどうかを厨房に確認しただけである。

 ……その後、なぜか男達がぺらぺらと簡単にさえずってくれたのは、不思議であった。


「ホント、不思議ですよね~」

 にやり

 マイルの言葉に、邪悪な笑みを浮かべるレーナ達であった……。



本日、6月2日に、『ポーション頼みで生き延びます!』の第6巻が発売です!(^^)/

先月末から早売りもあったようですが……。(^^ゞ

書き下ろし短編、『奮戦!「女神の眼」』、『マリアルと、「シルバー種、3つの誓い」』を収録しての、お勧め品です。(^^)/

カオルがいなくなった後の、孤児達の戦い。

エドの、未来に懸けた願いと仕込み。

そして、マリアルの想い……。


6月9日には、『ポーション頼みで生き延びます!』、『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』の、コミックス6巻が同時発売!!

よろしくお願い致します。(^^)/

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