467 旅 路
「アイス・バレット!」
ぶしゅ!
「これで最後ですわね。見落としはありませんこと?」
「はい、付近に
「では、収納しますわよ」
探索魔法で周囲を確認したモニカの返事に頷くと、3人で倒したオーク4頭をアイテムボックスに収納するマルセラ。
誰が入れても収納先は同じなのであるが、一応、いつ誰に見られるか分からないため、アイテムボックスへの普段の出し入れはマルセラが行うことにしている。
先日皆で決めた通り、3人のうち収納魔法……ということにしている、アイテムボックス……が使えるのはマルセラのみ、ということになっているので、油断して、思わぬところでボロが出るのを防ぐため、普段からそうしておくのは賢明な考えである。
勿論、絶対に安全な場合や、万一の時でも何とか言い逃れることができる場合、たとえば街道を歩いており前後に人影がない時などは、モニカやオリアーナがアイテムボックスから替えの水筒や果物等を取り出すのは許容範囲内となっている。その他、緊急事態においては、状況に応じて規制が緩和、もしくは完全に解除される。
「では、引き揚げましょうか」
「はい。しかし、アイテム……、いえ、『収納魔法』のおかげで、稼ぎが激増ですよね。もう、万一の場合は王都のギルド口座から預金の取り寄せを、なんていう心配はしなくて済みますよね」
モニカが、『アイテムボックス』と言いかけて、慌てて『収納魔法』と言い直した。
そう、常日頃からそう言うようにしておかないと、いつポロリと余計なことを喋ってしまうかも分からないので、『アイテムボックス』という呼び方をするのは、3人だけで、かつ収納魔法と言い分ける必要がある場合のみ、と決めてあるのであった。
「はい。おかげで、送金手続きの流れを辿って、などという危険は回避できますからね。
……まぁ、ギルドがそう易々とハンターの秘密を漏らすようなことはないでしょうけど、安全策を重ねるに越したことはありませんからね」
オリアーナも、モニカの言葉に同意した。
そう、普通は、成体のオーク4頭丸々を森から街まで運ぶなど、屈強な男性ハンターが10人やそこらいたとしても到底不可能である。
オークを狩ることそのものはそう難度が高いわけではないが、いくらたくさんのオークを狩ったところで、討伐報酬はそう高くはない。そしてオーク狩りで一番収入になる食肉販売は、そのごく一部を担いで帰れるに過ぎないため、そう大きな稼ぎになるわけではなかった。
大勢で運べば収入は多くなるが、それを分配する人数が増えるのでは意味がない。
そう、『赤き誓い』が楽に稼げるタネを『ワンダースリー』も手に入れたわけである。
「アデルさんには、いつも与えられ、助けられてばかりですわね。学園の頃から、ずっと……。
今回も、何とか今までのお返しを、と思って会いに行きましたのに、清浄魔法、洗浄魔法、そしてアイテム……収納魔法まで……。次にお会いするまでに、何とかしなければなりませんわね……」
困ったような顔でそう言うマルセラに、オリアーナが口を挟んだ。
「で、魔法の威力の方は……」
「「…………」」
マルセラとモニカが黙り込むのも、無理はなかった。
マイルに教わった新魔法に、『魔法の威力を上げる』などというものはなかったのである。マイルからも、それについては何も説明されていない。
……しかし、このタイミングで、しかも『常識の枠を踏み外した現象』であるから、マルセラ達がこの現象をマイルとは関係ない全くの別件である、などと考えるわけがなかった。
「アデルさんの仕業。しかし、アデルさんは全くそれを認識していない。そんなところですわよね、おそらく……」
「アデルちゃんですからねぇ……」
「アデルだもんねぇ……」
「「「ハァ……」」」
* *
かららん
「『ワンダースリー』、修業の旅の途中ですわ。よろしくお願い致しますわ」
「「「「「「……」」」」」」
ドアベルの音と共に放たれた、会心の一撃!
室内は、静寂に包まれた。
とてもCランクパーティとは思えない、未成年の少女3人。
もし何かの事情で……天才魔術師だとか、剣聖の娘で幼児の頃から英才教育を施されていた、とか……スキップ登録したのだとしても、到底、修業の旅に出るような年齢ではなかった。
そして、その装備や見た目……可愛いとかではなく、体格や筋肉の付き具合、身のこなし等……から、3人共武術に関する才能があまりないということは、一目瞭然であった。
「「「「「「…………」」」」」」
室内の静寂が続いているが、マルセラ達はそれを気にした風もなく、すたすたと買い取り窓口の方へと歩いていった。
……こういう反応には、慣れた。ただ、それだけのことであった。
「常時依頼の納品、お願いしますわ」
薬草や食肉、毛皮等の納品であれば、どこのギルド支部でも大抵は常時依頼であり、事前の受注の必要はない。なので、移動の途中で狩ったり採取したものを次の到着地で納入するのは普通のことであるが、旅の途中は荷物も多く運ぶのが大変なため、そうするのは少量で高価な薬草や稀少な食材か、街のすぐ近くで狩った小動物くらいである。
「……お、おう……」
ここは建物の造りの関係で大物もギルド本館の受付窓口の隣で納入するようになっており、そこの裏口からそのまま裏手の解体場へと廻すようになっているが、勿論、薬草等も同じようにこの買い取り窓口で買い取られる。なので、『ワンダースリー』の人員構成に眼を剥きながらも、採取物を出すよう身振りで促した買い取り担当者であるが……。
どん!
どん!
どどん!!
「「「「「「………………」」」」」」
買い取り担当者も、そして他のギルド職員やハンター達も、虚空から出現した4頭のオークに、堪らず叫んだ。
「「「「「「『赤き誓い』の同類かっっ!!」」」」」」
そう、ブランデル王国の西隣、ヴァノラーク王国の主要街道沿いの街にあるギルド支部は、既にマイル達『赤き誓い』が荒らした後であった……。
「アデルさん達が通られた後ですと、『またか』で済むから、楽ちんですわね……」
そう、『赤き誓い』が立ち寄っていない街だと、『しゅ、収納魔法だと! それも、何て容量だ!』とか、『うちのパーティに入れ!』とか、色々と面倒なのであるが、『赤き誓い』が滞在したらしき街においては、非常にスムーズに事が進むのである。変なのに絡まれることも、殆どない。なぜか。
……そして皆の眼が、何だか少し怯えたように見えるのは、おそらく気のせいであろう……。
マルセラ達がギルド支部を去ったあと……。
「……なぁ、アイツら、『赤き誓い』と違って、全員がまだ未成年の子供で、世間知らずの甘ちゃん揃いじゃねぇか? うまく取り込めりゃ、あの馬鹿容量の収納持ちが手に入って、俺達の言いなりに……」
そんなことを言い出した男がいたが、同じパーティのメンバーらしき者が、ふるふると首を横に振っていた。
「あのな、『ワンダースリー』の連中には、収納使いの天然そうな未成年の女、善人そうな顔してて実は腹黒そうな巨乳女、そして元気そうなよく喋るちっぱい女がいただろう?」
「……あ、ああ……。それがどうかしたか?」
「『赤き誓い』とよく似た構成だけど、……『ワンダースリー』には、他のメンバーの歯止めとなるパーティの良心、『赤き誓い』のメーヴィスに相当する役割の者がいねぇ。ということは、つまり……」
「「「「「「大惨事が起こりそうになった時に、ブレーキ役を務めてくれる者がいねええぇ!!」」」」」」
皆、蒼白になり、静まり返ったギルド内。
そしてこの話が職員を通じてギルドマスターに伝わり、慌てたギルドマスターから『絶対に、あの連中に余計なちょっかいを出すな!!』との厳命が全ギルド関係者に通達されたのであった……。
「……しかし、アデルさん達、各地のギルド支部で、いったい何をされたのかしら……」
「「さぁ……」」