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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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『き、貴様、なぜそれを!』

 どうやら、爪や角の彫刻どころではなくなったらしく、激昂して怒鳴りつける長老らしき古竜。

 どうやら、そういうのは族長ではなく長老の役割のようであった。

『それは、我ら古竜の中でもごく一部の者しか知らぬ、裏口伝うらくでん。人間如きが知るはずが……』

 勿論、遺跡調査の方は、多くの者が知っているはずである。古竜の総意として、魔族や獣人達に下請け作業をさせているのだから……。

 なので、長老が言っているのは、その後の部分、『異世界からの侵略』のことであろう。

 いや、もしかすると、調査の方も皆には適当な理由で説明してあり、本当の理由は秘しているという可能性はあるが……。


「いえ、単なる観測的事実に過ぎませんよ。

 時空の裂け目らしきものを目撃したのが、邪神教団の儀式、ドワーフの村、そしてオーブラム王国の調査の時と、計3回。そして、何度も出会い、討伐した特異種。平和で円熟した文明であったはずの先史文明が後世のために残そうとしたものが、防衛戦のための機械、それもビーム兵器とかではなく、肉弾戦用の、頑丈さだけが取り柄のゴーレムとか……。

 あ、他のも色々とあったけど、長い年月を生き延びたのが、ゴツくて構造が簡単、頑丈なものだけだった、ということかな……」


 そう、ゴーレムは、身体の中央部にある球体が全ての機能を制御しているらしく、他の部分はごく簡単な構造であり、修理には大した技術も資材も必要としないように見えた。……特に、ロックゴーレムとかは……。

 そしてスカベンジャーは後方支援型であるため、その素早さもあり、戦いで全損するということは滅多にない。たまの故障くらいであれば、自分で、もしくは仲間の手により、大した資材を必要とすることもなく簡単に修理できるであろう。

 修理に特殊な素材が必要なものは、スカベンジャーの行動範囲に制約があり、制約の範囲内で無理に資材の調達をしようとすると人間の眼に触れてしまい討伐されるのでは、修理に稀少素材を必要とする防衛器材は次第に稼働率が落ち、最終的には機能を停止してしまうのも仕方あるまい。

 マイルにより制限が撤廃された今は、その心配もなくなっているであろうが……。


『なっ……』

 驚愕に固まる、長老。

 無理もない。代々、長老となる者と、万一の場合……長老職を引き継ぐ前にポックリと逝ってしまうような場合……に備えての知識保護のための『隠れ長老』とでもいうべき役目の者にしか伝えられていない、古竜の間でも裏口伝、秘匿伝承とされている知識。それを、短命であり大昔の伝承などとっくに失伝してしまったはずの人間に、さらっと語られてしまったのである。

 そして長老は、ぐぐぐ、と唸った後、マイルの問いに答えた。


『……ケモミミ幼女は、獣人の集落には大勢いるが、このあたりでは見掛けぬのぅ……』


「「「そっちか~い!!」」」

 思わず突っ込むレーナ達と、がっかりした様子のマイルであった……。


     *     *


 古竜にとり秘匿伝承は、ごく一部の者を除き、一般の古竜にも、勿論他の種族にも秘密であるが、秘密が漏れたわけではなく他のルートから広まったものであれば、別に口出ししたり秘密保持のため関係者を抹殺、とかいうことを考えたりはしないらしい。まぁ、大昔は結構知っている者もいたのであろうし。

 ……それを聞いて、ひと安心のマイル達であった……。


 そういうわけで、『既に概略を知っているならば、多少の補完知識を提供するのは問題ない。逆に、正解に近いものの微妙に間違った知識が広まることの方が、「その時」に大きな障害となる』という考えであるらしく、教えた方が得策、との判断のようであった。

 しかも、既に人間達の支配階級にその事実の一端が流れているとなっては、下手をすると大惨事、つまり『亜人大戦』の再発となりかねない。長老がある程度の情報開示を決断するのも、考えてみれば無理のない話であった。


『昔々、この世界には、優れた文明を持つ人間達が暮らしておったぞな……』


「どうして、いきなり昔話風になるんですかっ!」

『いや、昔話じゃから……』

「あ、ソウデスカ……」

 マイルの突っ込みは、簡単にかわされてしまった。


 そして、古竜の長老が話すには……。


 昔、優れた文明を持つ人間達がいた。

 ある出来事で大打撃。何とか凌いだものの、大被害。そしていつまた再びそれが起こるか分からない。

 なので人々は、天の浮舟に乗ってこの地を去った。一部の者達を残して……。

 残されし民のために自らもこの地に残られた、慈愛の方々、7賢人。

 備えを。

 守りを。

 新たなる力。新たなる仲間。

『そなた達に、知恵と力を与えよう』

『ペロちゃん、子供達を守ってね』

 いにしえの約定。

 恩義。誓い。存在意義。

 失われし知識。滅びし文明。消え去りし人々。

 そして、いつか再びこの地に現れるであろう災厄。

 ……敵。

『ペロちゃん、子供達を守ってね』

『ペロちゃん、子供達を守ってね』

『ペロちゃん、子供達を守ってね』




「ペロちゃん、っていうのは……」

『おそらく、「始まりの12頭」のうちの1頭、ペロ様のことであろう……。我らが始祖である』

 そう言って、マイルの質問に答えてくれた長老。

「「「「…………」」」」

 もし、それがただの伝説ではなく、事実であったなら。

 世界が崩壊しかねない危機。

 そして古竜が、自分達が危害を加えられた場合や、大規模な自然破壊、他種族の大量殺戮などが行われた場合を除き、あまり人間達を殺そうとはしないこと。


「始祖、ってことは、『それまではいなかった』ということですよね……」

『…………』

「まぁ、分からないですよねぇ。皆さんも、その場にいたわけじゃないんだから。ただ、伝承を伝えてきただけなのでしょうからね……」

『…………』


 レーナ達には分からなくとも、マイルには何となく理解できた。

 それに、あの『省資源タイプ自律型簡易防衛機構管理システム補助装置、第3バックアップシステム』から得た情報と、ほぼ一致する。

「『7分の1計画』とか、『スーパーソルジャー計画』とかいうのは、御存じですか?」

『いや、知らぬ』

「そうですか。まぁ、見当は付いているんですけどね……」

 そう、7分の1サイズとか、優れた戦闘能力を持っている者とかには、心当たりがある。


「……よかったのですか?」

『何がじゃ?』

「いえ、元々大部分を知っていた私達はともかく、他の古竜の皆さんにも秘匿されていた話だったんじゃあ……」

 そう、ここには、長老以外に、8頭の古竜がいる。

 しかし、マイルの言葉に、長老は首を横に振った。

『それは、何事もない平和な刻が続いていた場合の話じゃ。我らがその存在意義を示さねばならぬ刻が来たなら、皆に教えねばならぬことよ。

 平時に伝えると、動揺したり、人間に危害を加えようとする愚かな者が現れぬとも限らぬからな。何しろ、我ら古竜が……』


 その先は語らぬ長老であったが、マイルにはその先に続くであろう言葉が分かっていた。

(……人間によって、造られた……)

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