社説
安倍氏不起訴不当 徹底解明へ再捜査尽くすべきだ
2021年8月2日(月)(愛媛新聞)
安倍晋三前首相の後援会が、「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補填問題で、検察審査会は安倍氏を不起訴とした東京地検特捜部の処分の一部を「不起訴不当」と議決した。
昨年末の記者会見で安倍氏は「会計処理は私が知らない中で行われていた」と関与を否定したが、検審は本人の説明は十分でなく、捜査も尽くされていないと判断。「首相だった者が、秘書がやったことだと言って関知しない姿勢は国民感情として納得できない」と付言した。
検察の起訴、不起訴に関し民意を反映させて、より適正化を図るのが検審の務めである。桜を見る会の問題は真相がうやむやのままだとの批判が根強い。当時の首相の「政治とカネ」を巡る疑惑である以上、安易な処分に待ったをかけ、徹底捜査を求めるのは当然といえる。
公選法が禁じる寄付行為に抵触する可能性が指摘される中、刑事責任を問わないことが妥当なのかどうか。特捜部には再捜査を尽くし、国民の理解が得られる判断をしてもらいたい。
夕食会の費用は地元・山口の支援者らの参加費だけでは賄えず、差額は安倍氏側が穴埋めしたとされる。昨年12月、特捜部は2016~19年分の政治資金収支報告書に収支計約3千万円を記載しなかったとして不記載罪で公設第1秘書を略式起訴。安倍氏本人に対しては違法行為を認識し、関与した証拠がないとして不起訴処分にした。
特捜部が調べる中で、参加者には安倍氏から寄付を受けたという認識がなかったという。だが、検審の議決は「一部の参加者の供述だけで判断している」と指摘。安倍氏本人の認識についてもメールなど客観資料を入手しておらず、裏付けが足りないとした。
さらに収支報告書の不記載に関し会計責任者とともに安倍氏の注意義務違反容疑も捜査すべきだと言及。こちらも捜査の甘さをただす内容となっている。
最近の検察判断には国民感情との乖離が目立つ。6月、地元有権者に現金を配布したとして菅原一秀前経済産業相を公選法違反(寄付行為)の罪で略式起訴したが、当初は起訴猶予処分としていた。検審から起訴相当の議決を受け判断を覆した。
菅原氏のケースと比べ、桜を見る会の問題は、金額が大きく手口も巧妙で「悪質性が高い」との声が専門家から上がっている。証拠に基づき厳正に対処できるかどうか再捜査の行方を注視したい。
安倍氏の責任は重いと言わなければならない。桜を見る会に関連して重ねた虚偽答弁は実に118回に上る。野党から再三にわたって追及されても、秘書のうその説明を信じて疑わなかったという弁解はあまりにも不自然だった。自ら招いた政治不信を払拭しないまま次期衆院選に立候補するというのはあり得ない。検審の厳しい見方を真摯に受け止め、速やかに真相を語るべきである。