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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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458 侵略者 5

「……あそこです」

「おう……」

 マイルが指し示す方には、オークの群れ、約5~6頭。数が不正確なのは、木々の陰になって見えないところにもいるかもしれないからである。そして……。

「特異種が2頭……」

 これは、探索魔法ではなく、常人離れしたマイルの視力による判定であった。


「明らかに、ドワーフの村の時とは状況が違うわね……」

「裂け目が開いている時間も全然違いますしね」

 そう、レーナとポーリンが言う通り、あの時は、特異種だけで集団を形成しており、通常種というか在来種というか、『普通の』とは混じっていなかったし、裂け目はかなりの長期間に亘って同じ場所で開きっぱなしであったと思われる。

 しかし、王都へ来る途中も今回も、特異種と通常種が一緒にいて、しかも特異種が群れの主導権を握っているかの如き振る舞いをしている。そして裂け目は、短時間で自然に閉じているらしく、ただ1回を除き、特異種を発見した場所の近くで見つけることはできなかった。

 しかもその1回も、『赤き誓い』の前ですぐに閉じてしまっている。

 そのことや、広範囲で特異種が発見されたことから、どうも裂け目は割と早く閉じて、また別のところに現れているという気配が濃厚であった。

 ……もしかすると、同時に複数箇所に開いている可能性も否定できない。


 更に、極めつきが『特異種に指示を出しているらしき、異形の金属製ゴーレム』の存在である。

 このゴーレムについては、ギルドへの報告では簡単な事実のみ……その存在と、逃げられたということ……を伝えただけである。正体も分からないのに、憶測で喋っても仕方がない。

 なので、ギルドには『たまたまいただけの、小型のアイアンゴーレム』としか認識されていない。

 しかし、勿論『赤き誓い』はマイルの様子から、あれが重要なカギであると認識している。

 ……それと、『裂け目』の存在。

 だが、たまたま開いた裂け目に出会える確率は、非常に低いであろう。ナノマシンに発生を教えてもらうとしても、現場まで数分で行けるような都合の良い場所にたまたま発生してくれる確率は、かなり低い。

 その『たまたま』の機会チャンスを逃したのが、返す返すも悔やまれる。


「魔法による遠隔攻撃で奇襲。それに続いて……」

 レーナがいつもの癖で指示を出そうとしたが、『輝きの聖剣』のリーダー、カディラスが左手を挙げてそれをさえぎった。

「いやいや、それは俺達に任せて、そちらは特異種を逃がしそうになった時だけアシストしてくれ。元々、そういう打合せだっただろうが」

「あ……」

 しまった、という顔をして、少し赤くなるレーナ。

 確かに、そういう計画であった。それに、『輝きの聖剣』だけで対処しないと、今回の合同受注の意味がない。レーナの失敗であった。

 そして、案内のため先頭にいたマイル達は少し下がり、魔術師組は、それぞれ支援のための呪文を唱えてホールド。『輝きの聖剣』が攻撃態勢に入った。


 まず最初に弓士が弓を射て、その直後に魔術師が氷系の攻撃魔法。そしてほぼ同時に前衛の3人が突っ込んだ。

 このパーティの魔術師は支援系であり攻撃魔法はやや不得手らしいが、それはあくまでも『Bランクの魔術師としては』であり、Cランクのハンターに較べれば充分強力である。本来は治癒や生活面のサポートが得意らしいが、勿論、戦闘時にも働かされるのは当然であった。

 そして弓よりワンテンポ遅らせたのは、勿論矢の弾道に影響を与えるのを避けるためである。


 矢は、当然ながら特異種の片方を狙い、攻撃魔法は敵全体の戦闘力を削ぐための範囲攻撃魔法である。そして次発の詠唱を始める魔術師と、魔術師を護る位置取りをして、いつでも近接戦闘用の武器に持ち替えられるよう留意しながら、矢を射続ける弓士。

 その頃には、既に前衛陣はオークと交戦していた。


「くっ、硬い!」

「遠距離攻撃が効いてないぞ!」

 前衛陣は、より危険度が大きい特異種を先に片付けようとしたが、それが裏目に出た。

 先に通常種を倒しておけば、敵の数が減り、受ける攻撃回数も減る。しかし特異種に多少のダメージを与えたところで、倒せていなければ敵からの攻撃量は減らず、それらを受け、捌いていると攻撃に手が回らなくなる。

 遠距離攻撃は、通常種の数を減らすことに使うべきであった。そして前衛陣は接近すると同時に残りの通常種を一蹴、そして皆で2頭の特異種を袋叩きに……。

 ……そう、特異種のことを舐めていた。『赤き誓い』がちゃんと説明したにも拘らず、『良くて、オークとオーガの中間くらい』とでも考えていたのであろう……。


「マイル!」

「はいっ!」

 同時に飛び出す、マイルとメーヴィス。

 レーナとポーリンは、味方撃ちフレンドリー・ファイアを避けるため攻撃態勢のまま待機。もし味方が本当に危なくなれば、味方撃ちの危険を冒してでも躊躇わず攻撃するが、今はまだ早い。


 ざしゅ、どしゅ、ぶしゅっ!


 マイルとメーヴィスが通常種を斬り捨て、背中を気にする必要がなくなった『輝きの聖剣』の前衛陣は、危なげなく特異種2頭を斬り裂き、貫いた。


「「「…………」」」

 そして、何とも言えない顔をして、黙ったまま、地に沈んだ2頭の特異種のオークを見る前衛の3人。


「クソやべぇ……」

「嘘だろ……」

「おいおいおいおいおい……」

 Cランクの下位ならばまだしも、Bランクパーティでありながら、オーク如きに手こずった。……しかも、若手パーティが危険だと判断して介入するほどの失態。

 そして、その介入を不快に思うことすらできなかった。

 確かに、あのままでもオークを全滅させることはできただろう。ひとりかふたりの重傷か死、という代償と引き換えに……。


 もし、『赤き誓い』が一緒でなければ。

 もし、特異種が3頭であれば。

 もし、これがオークではなく、存在することが分かっている『オーガの特異種』であれば……。

「「「クソやべぇ……」」」


     *     *


「じゃ、収納を頼む」

「あ、ハイ!」

『輝きの聖剣』のリーダーにそう頼まれ、オークを収納しようとしたマイルであるが……。

「待ってください」

 なぜか、ポーリンに制止された。


「もし私達がいなければ、そして特異種についての詳細情報を知っていなかったなら、皆さんは今、どうされますか?」

「「「「「え……」」」」」

 ポーリンの問いに、面食らったかのような『輝きの聖剣』の5人。

「いや、そりゃ、解体して一番高く売れる部分を持てるだけ持って引き揚げるだろうな……」

「ですよね……」

 彼らの答えに、やはり、という顔のポーリン。

「あ……」

 そして、何やら分かったような様子のマイル。


「ギルドの解体場を確認しても、特異種が見当たらないはずです……。

 まず、ハンター側が負ければ、たとえ生存者がいたとしても獲物を持ち帰るどころじゃありません。怪我人を抱えて逃げるのが精一杯でしょう。

 ある程度魔物を倒して撃退しても、普通は特異種は生き残った方に入るでしょうし、もし倒されていても、仲間が死体を引きずって帰ります。

 そして無事魔物を全滅させても、『何か、やけに手強かったなぁ、今回は……』とかいいながら、獲物を解体して、一番高く売れる部分だけを持ち帰る……」

「「あ……」」

 どうやら、レーナとメーヴィスも理解したようである。

「「解体場に、特異種がいるわけないじゃん!!」」


 そう、解体して肉塊に姿を変えることなく、そのまま搬入されるのは、比較的近場で狩られ、小柄で、丸ごと運ぶのがそう大変ではない場合だけである。

 ……そして、特異種は全てデカい。

 特異種でもそう大きくないゴブリンとかは、売れる素材もないのに持ち帰るような者はいない。

「そう、特異種の存在がなかなか知られなかったわけですよ。おまけに、『ゴブリンが異様に強かった』とか、『オークに苦戦した』なんて喋る人がいると思います?」

 ふるふる、と首を横に振るレーナ達。

 そう、そんなことを言えば、ギルド中で笑いものである。

 そして、帰投後に、まさにそう報告しなければならない『輝きの聖剣』。

「「「「「…………」」」」」



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