456 侵略者 3
【全く、もう……】
(ごめんってば……)
まだ少し不機嫌そうなナノマシンに謝る、マイル。
【とにかく、彼らは向こう側での事象に積極的に関与することはできないものの、マイル様の指示通りに他の裂け目を探して帰還するために必要な範囲であれば、ある程度の『消極的な調査活動』は規則的には可能でしょう。向こうの世界において、次にどこで裂け目が開かれるか、ということを調査しないと、こちらへ戻れませんからね。そしてそれは、我らの基本義務に反しますので……】
(うん……)
勿論、マイルはそれを狙って、あのようなことをしたのである。
そしてあの後、メーヴィスにはちゃんと謝っている。代わりのミクロスと装着用のケースを渡して……。
元々ミクロスの提供者はマイルであるが、やはり、いきなり飛び掛かってむしり取ったのは、ちょっとばかしマズかった。謝罪するのは当然である。
勿論、それが必要な行為であったことを詳細はボカして説明したので、メーヴィスは快く許してくれている。
(とにかく、ひとつの国の情勢が、っていうような軽い問題……、いえ、当事国や周辺国の国民にとっては大問題かもしれないけど……、じゃなくて、話はもっと大きなことかぁ……)
【……】
それについては口出しできないらしく、黙ったままのナノマシン。
(とにかく、調査を続けるしかないか……。まぁ、依頼主が心配していた『この国の不穏な噂』というのが政変やら戦争準備やらじゃなかったというのは、良かったのか、悪かったのか……。
いや、まだ、そういうのも生起しているかどうか分からないか。
トラブルは団体さんでやってくる、というのは、よくあることだから……)
【…………】
やはり、口を挟むことのないナノマシンであった。
* *
「で、とりあえず調査を続けながらこのまま王都へ向かい、それまでに新たな情報が得られなかった場合、回収した特異種の半数をギルド王都支部に提出して状況を報告。その後王都で少し情報収集した後、反転してティルス王国へ帰投、残り半分の特異種を渡すと共に依頼完了報告。
そういう感じでどうですか?」
「う~ん、そんなところかしらねぇ。昨日みたいなのにたまたま出会えるなんて確率、そう高くはないわよねぇ。さすがに、当てもなく何十日もこの国をうろつくのも勘弁して欲しいし……」
「王都や周辺の大都市には、他の調査員もいるでしょうからね」
「ああ、私達は、今までの情報を早く持ち帰るべきだろうね。そうすれば、依頼主は次に打つ手を考えることができるからね。
今は、この国とティルス王国の上層部やギルドが少しでも早く状況を把握できるようにすることが、依頼受注者として、ハンターとして、そして人間として最優先にすべきことだろう」
マイルの意見に、レーナ、ポーリン、メーヴィス、全員が賛成した。
そう、いくら自国ティルス王国の依頼で動いているとはいえ、別にこの国、オーブラム王国が敵国だというわけではない。それどころか、友好国である。なので、普通の『修業の旅』のハンターとして、この国のために尽力することには何の問題もない、……いや、そうすべき義務がある。国家間に跨がる組織、『ハンターギルド』の一員として。
「じゃあ、街道7割、街道を外れて森や山岳部を突っ切るの3割で、調査を続けながらこの国の王都を目指すわよ!」
「「「おお!」」」
……街道以外が3割などという無茶な行動ができるのは、『赤き誓い』だけである。
そもそも、そんなに森や山岳部を突っ切って歩いても、普通のパーティには一定量以上の獲物や採取物を運ぶ手段がないから、意味がない。運べる分にしても、遠距離を運ぶ大変さ、肉も薬草も傷んで値がつかなくなること、その他諸々で、長距離移動の最中に街道から外れる者など、何か特別な理由がない限り、いるはずがなかった。
マイルは確かに常識外れの戦闘力を持っているが、今では、他の3人も似たようなものである。
……さすがに、古竜を相手にはできないが、普通にハンター生活をしているだけであれば、そんなことになるはずがない。
なので、『赤き誓い』が異常というか異端というか、とにかく常軌を逸している最大の理由は、マイルの戦闘力ではなく、『収納魔法』ということになっている、その容量無限、時間停止のアイテムボックスなのであった……。
* *
「……というわけで、これがその特異種です」
いくつかの魔物の集団を潰し、通常の魔物達と共に更に数頭の特異種を確保した『赤き誓い』は、王都に到着すると、宿を押さえてからギルド支部へと向かった。そして半信半疑のギルドマスターと手空きの職員、居合わせたハンター達を連れて裏の解体場へ行き、換金用の大量の通常種と共に、確保した特異種の半分を取り出したのであった。
……勿論、探索魔法で特異種を識別できるマイルがいなければ、そんなに多くの特異種を狩ることは不可能である。特異種がいる魔物の集団は、非常に数が少なかったので……。
「「「「「「…………」」」」」」
静まり返る、解体場。
「こ、こりゃあ……」
そしてここでも、ギルドマスターやハンター達よりも敏感に反応したのは解体場で働いている連中であった。
毎日たくさんの魔物を解体しているのだ、その体格や筋肉の付き方等に一番精通しているのは当然であった。
「マーレイン王国から通達が来てはいたが、話半分、ちょっと強い新種か進化個体のなり損ないの中間種くらいだと思っていた……。そして、あそこで全滅させたならもう問題はないだろうと……。
しかし、こりゃあ……」
「やべぇぞ、嬢ちゃん達の移動ルート上にこんだけいたってことは、その他の場所にも……」
「クソやべぇ……」
解体係達の呟きを聞いて、次第に顔色が悪くなり始めたハンター達。
彼らも、ここ最近の他のハンター達の
「何言ってやがんだ。こんな新米の小娘達が無傷で狩りまくれるようなのの、どこが問題だってんだよ!」
ひとりのハンターがそんな声を上げたが、皆、それを完全に無視した。
……見れば分かる。
切り口、焼け焦げ、そして今見せられた、馬鹿げた容量の収納魔法……。
これで、このパーティを『新米の小娘』だと考えるような者は、ハンターとして長生きできようはずもない。
そして何より、ここ最近の『長生きできなかった連中』の急増。
「「「「「「…………」」」」」」
* *
「特異種は、全て通常種の5倍の価格で買い取らせてもらう。その他に、僅かではあるが情報提供に対しての特別報奨金と、かなり多めの貢献ポイントも付けよう。
おかげで、手遅れになる前に対処できそうだ。よくやってくれた!」
ギルドマスターの部屋で数名のギルド幹部達に詳細を説明した後、そう言って、ギルドマスターが
「他のハンター達がたまたま倒せた特異種は、仲間の魔物達が回収していたとはな……。現物が納入されないはずだ……」
マイル達は、最初はそれを魔物達の習性だと思っていたが、あの『小さな、謎の金属製ゴーレム』を見た後は、それが意図的なものではないかと考えていた。……状況を人間達に知られるのを防ぐために、何者かの指示によって……。
しかし、証拠もなくそんなことを言っても仕方ない。あまりおかしなことを言うと、信用を失って、他のことまで信じてもらえなくなる可能性もあるため、根拠のないことは口にすることができなかった。
「噂には聞いていたが、まさかこれ程とはな……」
「噂?」
ギルドマスターの言葉に、メーヴィスが思わず聞き返した。
「ああ、ティルス王国独自の制度、ハンター養成学校の卒業検定で、ベテランBランクパーティに圧勝。ワイバーンを、討伐どころか無傷で捕獲。悪徳商人を懲らしめたり、アルバーン帝国の特殊部隊を殲滅したパーティを支援したり、邪教集団を他のパーティと共同で退治したり……。
あ、ギルド幹部には正確な情報が伝えられているが、一般職員やハンター達には普通の噂話しか伝わっていないし、それを額面通りに信じている奴なんかいやしないぞ、勿論。
皆、自国の制度を宣伝するために若手の少女パーティを持ち上げて過大に宣伝、
それも、さっきので少し認識を改めたとは思うが……。
いや、ティルス王国のギルドが悪いんだぞ! 古竜と話を付けただの、あまりにも荒唐無稽な盛り方をするものだから、話の本体よりも尾ひれの方が馬鹿でかいのが丸分かりだったからな。
いくら盛りまくるにしても、少しは常識というものをだな……。
まぁ、無理矢理担ぎ上げられただけのお前達の責任じゃないけどよ……」
「「「「あはははは……」」」」
それでも、事実よりは大幅に過少報告した、『赤き誓い』にとっては常識の範囲内に収めたつもりの報告なのであった。
そして、引き