455 侵略者 2
「……ナノちゃん、知っている限りの……、ううん、『私に教えられる限りのこと』を教えて」
あれから、閉じて消滅した『裂け目』の周辺を調べ、何も変わったことがないのを確認した『赤き誓い』は、倒した特異種の死体をマイルの
おそらくもう何も起こらず、ここではこれ以上の手掛かりは得られないだろうとは思っていたが、一応、念の為に、ということである。
そして、夕食と『携帯式要塞浴室』による入浴、にほんフカシ話等を終え、それぞれ簡易ベッドに潜り込んだ後の、マイルとナノマシンとの脳内会議であった。
【……分かりました……】
ナノマシンが素直に応じているが、これはマイルが『教えられる限りのこと』と言ったため、禁則事項に抵触しない、元々教えても問題のないことのみを話せば良いからである。
教えてはいけない部分ではなく、マイルが『あまり何でも教えてもらっては、楽しくない』、『ズルはしたくない』と言って聞こうとはしなかった部分だけであれば、全く問題ない。
マイルも、この国の大勢の人々に、そしてこの依頼を遂行している限り、仲間達にも自分では到底対処しきれない危険が降りかかるかもしれないとなれば、『楽しくないから』などという我が儘を言うつもりはなかった。
楽しむのは、安全を確保してからでいい。そして、ひとりも欠けることなく、みんなで楽しむべきである。
【まず、あの機械知性体についてですが……】
(うんうん!)
【何も分かりません】
ずしゃ~~っ!!
心の中で、派手にずっこけて地面を滑るマイル。
その心象風景は、イメージ図として周辺のナノマシン達にはっきりと受信されて、ナノネットにより世界中に配信されている。
ここ最近、ナノネットの実況生配信で視聴率トップは『ワンダースリー』に張り付いている専属ナノマシン達によるものであったが、今は『何か、マイル様のところで面白そうなイベント開催中らしい』という情報が流れたため、一時的にこちらがトップに返り咲いている。
(な、何よソレ! ナノちゃんの仲間は膨大な数で、世界中のあらゆる場所にいるんでしょ! 知らないはずがないでしょうがっ!)
【いえ、そう言われましても……。我々が撒布されたのは前回の文明崩壊の後ですし、それから今まで、あのようなものはこの世界には存在していませんでしたから……。
あれらが現れたのは、ほんの少し前です。そしてあれらが魔物達に指示している言語……と言えるかどうかも分からないごく限られた意思伝達手段……によると、『トウソツセヨ』とか、『テキヲハイジョセヨ』、とか言っているくらいで、奴らの正体とか、何のためにやってきて、ここで何をしようとしているとか、全く分かりませんよ。
我々の行動基準や任務範囲の設定においては、この世界以外の場所やそこの事物に干渉することは想定されていませんから、我々が自発的にあれらに関わることはできませんので……。
あ、皆さんが魔法により攻撃される場合は、『我々の判断であれらに干渉する』というわけではなく、ただ『この世界の者の希望を具現化するだけである。その結果が、何に、どういう事態をもたらそうとも、それは我々の責任の範囲外であり、何ら規則に抵触するものではない』ということで、全く問題ありませんので……】
(お役所的な回答だなぁ……)
ナノマシンからの回答に少し呆れるマイルであるが、まぁ、言わんとしていることは理解できなくはない。なので、そこは置いておいて、質問を続けることにした。
(……で、結局、あの連中はどういう存在なの?)
【あくまでも推測ですが、……異次元世界からの侵入者……、それも、たまたま偶然迷い込んだ、というわけではなく、意図的に次元世界の裂け目を
また、我らの造物主であらせられます方々のお言葉により、この世界が何度も、時間スケールからみるとほぼ定期的と言えるくらいの間隔で大規模な崩壊を繰り返しているということが明らかとなっています。その原因として、有力候補のひとつとしてこの件が挙げられるのではないかと……】
(……そう思っていたから、あの怪しげな邪神教団が次元の裂け目をこちらから作ろうとした時に、あんなに焦ってたんだ……)
【はい】
(でも、向こうからのはともかく、こっちから適当に開けた穴が、いつもの『お馴染みのところ』に繋がるとは限らないんじゃないの? 次元世界って、無数にあるんじゃないの?)
【……】
(そのあたり、どうなの?)
【…………】
(いや、だから、どうなって……)
【いーんですよ、細けぇこたー!】
(何じゃ、そりゃ……)
【いや、面倒なんですよ、下等生ぶ……基礎知識に不自由な方に理解できるように説明するのって……。結構ストレスが溜まるんですよね、そういうの……】
(今、『下等生物』って言おうとした! 絶対、『下等生物』って言おうとした!!)
【分かりましたよ、もう……。
次元世界というのは、それぞれが超次元空間に浮かぶ
(……ごめんなさい、私が悪かったです……。下等生物如きが、調子こいてました。スミマセンデシタ……)
あっさりと諦めたらしい、マイル。
【というわけで、まぁ、『一度繋がったら、そこにはとても繋がり易くなる。だから、無理矢理次元の裂け目を作ろうとすれば、前回繋がった世界にまた繋がる確率がとても高い』ということです】
(最初から、そう言ってよおおおおおぉ!!)
【おお、ナノネットの視聴率が跳ね上がった!】
(え? 今、何て言ったの?)
【いえ、何でもありません。……で、我々は裂け目の向こうのことは何も知りませんし、裂け目からこちらへ来た魔物達にはユーザーの皆様からの魔法行使という形以外での干渉はしていませんし、意思の疎通を試みたこともありません。
そして、先程のような機械知性体達とも接触や情報の取得を行ってはおりませんので、推測以外の情報はありません】
(そうなんだ……、って、先程の『ような』? 機械知性体『達』? 他にもいたの、あんなのが?)
【それはまぁ、この周辺のあちこちに同様の事象が発生しているのですから……】
(…………)
仕方ない。マイルが、自分でナノマシン達に『あまり、何でもかんでも教えないでくれ』と頼んでいたのだから。
そして、普通であれば『他の勢力に関する情報を提供したりはできない』という規則があるらしいけれど、今回の相手は『この世界の、他の勢力』ではないこと、そしてこの世界全体の危機となる可能性があることから、その規則には抵触しないらしいのである。そのことを、運が良かったと思うしかない。
(じゃあ、これで、ナノちゃん達が知っていることの大半は教えてもらったわけかぁ。あまり大きな収穫じゃなかったけれど、仕方ないというか、これで良かったというか……。
あまりにも『普通では知り得ないはずのこと』を知っちゃっても、みんなにどう説明していいか分からないし、聞けばすぐ教えてもらえるのにわざと聞かずにいて、そのせいでみんなに万一のことがあったり、この国の人達に被害が出たりしても寝覚めが悪いし……。
これで、変な舐めプをしているわけじゃないし、後で後悔することになるという心配もなくなったから、良かったよ。少なくとも、後で反省することはあっても、この点においては後悔することにはならないだろうからね)
【はい……。まぁ、向こう側の情報は、彼らが持ち帰ってくれることを期待しましょう】
(……彼ら? 誰のこと?)
【さっき、自分で投げ込んだでしょうがあああああっ!
忘れるなあアアアアァッッ!!】
(あ……)
……酷い。
あまりにも酷く、投げ入れられた『彼ら』が可哀想。
そう思った、ナノマシン達であった……。
『のうきん』、遂にシリーズ累計100万部突破!!(^^)/
累計の計算方法は、出版社によって色々な方法があるそうなのですが、そのうちの一番少なく出る計算方法でも100万部突破ということで、『最低保証、100万部』です。
他の計算方法だと、もっと多くなるとか……。
これも、読者の皆さんのおかげです。ありがとうございます!
そして……。
『のうきん』アニメのブルーレイディスク第3巻、本日、2月28日発売!
書き下ろし小説3編他、色々なオマケ付き。
よろしくお願い致します。(^^)/