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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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454 侵略者 1

(とりあえず、裂け目が閉じちゃう前に、向こう側へ調査隊の派遣を……)

【いえ、私達はこの次元世界の、この惑星上でしか活動を許可されていません。なので、他の次元世界に侵入することは……】

(何よそれ! 不便な……)

【そう言われましても……】

(あああ、何か、裂け目が揺らぎ始めてる! もうすぐ閉じちゃいそう! ど、どうすれば……)

 うむむ、と考え込んでいたマイルが、突然メーヴィスに飛び掛かった。

「うわ! 何するんだ、マイル!」

 驚くメーヴィスの腰から、ミクロスが納められたケースをもぎ取って……。


(この裂け目からすぐに戻るのは禁止! 別の裂け目を探して、何とか自力で戻ってきてね! そしてそれまでの間、向こう側を調査して、情報を集めてね! 頑張って!!)

 そして、ケースを裂け目に向かって全力投擲(とうてき)

(頼んだぞ、ミクロス!)

【【【【【【ひでええええええぇ!!】】】】】】


 周囲のナノマシン達からの非難の声が殺到したが、素早く耳を塞いで、過度に鼓膜を振動させられるのを防いだマイル。……少しは知恵が付いたようである。

【マイル様……】

 そして、呆れ果てた様子の、マイル専属のナノちゃん。

【確かに、不可抗力で他の次元世界に落ちてしまったものは仕方ありませんし、その場合は元の次元世界、つまりここへ戻るよう最善を尽くすことが義務付けられていますから、マイル様の思惑通りになりはしますが……。

 しかし、ひと言、言わせて戴きたい……】

(うん、何?)

【鬼かッッ!!】


「マイル、いったい何を……」

 抗議の口調で問い詰めるメーヴィスであるが、マイルは右手を挙げてそれを制した。

「話は後です! 魔物を……、いえ、普通の魔物はどうでもいいです、あのロボット……、金属製のやつを捕らえましょう、なるべく壊さ……殺さないように。

 但し、危険な相手だった場合は、躊躇なく破壊してください! チャンスなら、また回ってきますから!」

 安全第一、命大事に。『赤き誓い』のキャッチフレーズである。

 依頼に失敗しても構わない。生きてさえいれば、挽回のチャンスはある。

 死んで花実が咲くものか。


吶喊とっかん!」

 マイルの号令で、裂け目の周りにいる特異種の魔物達に向かって突入する『赤き誓い』の4人。

 普段の統率はメーヴィス、戦闘時の指揮はレーナがる場合が多いが、緊急時や、『状況がよく分からない場合』においては、マイルが咄嗟とっさに出す指示に即座に従うことは、みんなの間では当然のこととなっている。事実、今まで何度もそれによって助けられており、その判断を疑う者はいない。

 ……そして、もしそれが判断ミスであり、誰かが命を失うことになったとしても、誰もその判断を責めることはないし、それに従ったことを後悔することもない。

 それがパーティというものであり、仲間というものである。


 魔物は、オークとゴブリン。

 違う種類の魔物が一緒に行動しているというのはおかしいが、その常識は『この世界』におけるものであり、そして『高度な知性体、もしくはその指示に従う機械知性体』等が関与していなければ、の話である。そして今は、その前提条件がふたつともくつがえされている。

 今は、マイルの『不思議な勘』に頼るしかなかった。


 いくら『吶喊』とは言われても、魔術師であるレーナとポーリンが本当に敵中に突っ込むわけがない。ある程度進んだところで立ち止まり、魔法攻撃を開始。

 わざと叫び声を上げたため、魔物達は皆、こちらを向いている。

 敵がオーガやそれ以上の魔物を多数含む強力な集団であれば、静かに接近して奇襲攻撃を行った方が得策であるが、オークやゴブリンが少数、というのであれば、そんな必要はない。威嚇の叫びを上げることによって魔物達が一箇所に固まり、みんな揃ってこちらを向いてくれていた方が、目標が密集してくれた上に被弾面積が大きくなるから、魔法攻撃には都合がいい。

 近接戦闘にしても、普通のハンターであれば相手が分散しており各個撃破できる方がやりやすいかもしれないが、マイルとメーヴィスにとっては、広く散った敵は追い回すのが大変なだけである。


 そして、レーナとポーリンは一撃目を範囲攻撃魔法にすることにより、敵を混乱させると共に各個体の戦闘力を満遍まんべんなく低下させ、マイルとメーヴィスが戦いやすいように場を整えた。その後は、単体攻撃魔法で敵の数を減らしていく。

 ポーリンがホット魔法を使ったりするとマイルとメーヴィスが敵中に突入できなくなるし、今の目的は、マイルの指示による『金属っぽいやつの確保』である。必要以上に戦場が混乱することは避けるべきであった。


 いくら特異種とはいえ、所詮はオークとゴブリンである。普通のCランクハンターであればともかく、離れた場所から強力な攻撃魔法を叩き込むレーナとポーリン、そしていささか常軌を逸したマイルとメーヴィスの斬撃の前にはひとたまりもなく、あっという間にその数を減らしていく魔物達。

 そして何やら慌てた様子で魔物達に指示を出しているように見えた金属っぽい奴は……。


「あ、逃げた!」


 逃がすつもりはなかったし、魔物達に足止めさせて逃走したとしても、マイルの探索魔法があれば追跡するのは簡単。

 そう思っていた『赤き誓い』の面々は、ごく単純なことを見落としていた。

 ……そう、奴には、簡単に『赤き誓い』の追跡を振り切れる逃げ場所があったのである。それも、すぐ近くに……。

 そいつは、空間の裂け目に飛び込んだ。

 そして、たまたまそれが元々閉じるタイミングだったのか、それともその行為が原因だったのかは分からないが、その後すぐに、裂け目が閉じた。

 後に残されたのは、特異種のオークとゴブリン数頭の死体だけであった。


「失敗した……」

 がっくりと落ち込む、マイル。

 まず最初に、あいつを押さえるべきであった。

 無傷で捕らえようなどと考えたから、遠距離からの物理的な攻撃や電撃魔法とかを控え、魔物達を排除してからゆっくりと確保しようと考えていたのである。

「裂け目は、向こうからこっちへ来るための手段、って思い込んでいました……。『裂け目』なんだから、向こうからこっちへ来られるなら、そりゃこっちから向こうへも行けますよねぇ……。

 というか、私が自分でミクロス(あれ)を向こう側へ投げ込んでおきながら、何、ボケたこと言ってますかねぇ……」

 大失敗。

 せっかくの手掛かりを逃したことに対するマイルの落ち込みようは、かなり大きかった。


「……まぁ、誰にも失敗くらいあるわよ……」

「小さかったですけど、アイアンゴーレムの一種みたいでしたから、おそらくホット魔法や毒霧とかは効かなかったでしょう。無理に物理的な攻撃をすれば破壊されてしまったでしょうから、元々、生け捕りは難しかったですよ……」

「ロックゴーレムならばともかく、いくら小型とはいえアイアンゴーレムでは私も本気で戦う必要があっただろうからね。悠長に手足を一本ずつ、なんて言ってる場合じゃなかっただろう。

 そして私が本気で戦えば、多分、勝てたとしてもそれは相手の機能を完全に停止させるような一撃が決まった時だけだろうからね。……もし、あの金属製の身体をこの剣で斬ることが可能だった場合は、だけど……」

 そう、あの金属っぽい身体が、鉄であるとは限らない。

 ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ……。世の中には、様々な金属がある。……この世界だけでも。それが、他の次元世界も含めて、などという話になると、どんなとんでもない素材があるか分からない。

 しかし、皆に慰められても、マイルはなかなか落ち込みから回復できなかった。


(全力でやれば、カーボン・ナノチューブの極細ワイヤーで縛り上げて捕らえることができたかも。手足を斬り飛ばして動けなくすることも……、いや、ナノちゃんは『敵』と言ったけれど、それは『誰に対する、何に関しての敵』なのか分からない。私とはまだ何の関係も確定していないのに、いきなりこっちから敵対するべきではないだろう。

 それに、どう見てもアレはロボットだ。となると、自分を造った者を裏切るとは思えないし、捕らえられて記憶メモリを解析される危険を回避するために、自爆するくらいのことは……。

 そしてそれが、自分だけでなく、敵を道連れにするために超強力な爆弾によるものであった場合は……。

 反陽子爆弾、重力爆弾、地球破壊爆弾、その他諸々……。世の中、何があるか分からない……。下手をすると、みんなを道連れにした可能性も……。

 ヤバい! ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……)


 自分の想像を遥かに超えているかもしれない、未知のもの。地球ぜんせでの知識ですら計り知れないもの。……それに軽々しく手出ししようとしたことへの危険に思い至り、身体の震えが止まらない、マイルであった……。



『のうきん』ブルーレイディスク第3巻、2月28日発売!

これで、全話数、コンプリート!(^^)/

3巻は、書き下ろし小説豪華3本立て付き。勿体ないほどのネタを惜しげもなく全投入!

よろしくお願い致します。(^^)/


あ、昨日は、私の誕生日でした。

前職を退職してから、6年。

『のうきん』書籍化決定の御報告から、丁度4年。

アニメ化始動の御報告から、2年。

今年は、何かいいこと、あるかなぁ……。(^^ゞ

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