453 敵 7
「そういうわけで、特異種の存在が確認されました。……しかも、在来種と混在し、おまけに上位位置を占めている個体が……」
「う~ん。余所者が来て仲間に入れてやって、強かったから数匹を束ねる最小ユニットの指揮官に取り立てた、ってことかな?」
マイルの言葉に、そう返したメーヴィスであるが……。
「う~ん……。いくら強くても、余所者、それもかなり見た目が違う別種族っぽいのを、そんなに簡単に受け入れて、なおかつ少し上の立場に取り立てたりしますかねぇ……。
メチャクチャ強くて、ボスを倒して支配者に、とかならともかく、数匹のチームリーダーなんていう中途半端な立場に……」
「ちょっと、考えづらいわよね。そもそも、仲間として受け入れることすら疑問なのに……」
ポーリンとレーナは、メーヴィスの考えには納得しかねるようであった。
「そもそも、メーヴィスが言っていた『特異種は次元の裂け目の向こう、とても遠いところから来た』ってのが事実なら、そいつらと
人間も、隣国か同じ大陸ならまだしも、他の大陸とかは言葉が通じないって聞いたわよ。
身振り手振りも、このあたりでは『こっちへおいで』という意味の仕草が、向こうでは『ブチ殺すぞ、このクソ野郎が!!』って意味だったりするかも……」
「「「う~ん……」」」
やはり、情報不足のため結論に至らず、考え込むだけの『赤き誓い』であった。
「特異種はマイルの収納に入れたけど、これ1匹だけを提出してもねぇ……」
「はい。所詮ゴブリンですし、1匹だけですしね。それに、私達はこの国に入国したばかりの、他国のハンターですからねぇ……」
「しかも、私達はどう見ても『新人の小娘達』だしねぇ。
養成学校という制度がないこの国じゃあ、うちの国の養成学校は『素人ハンター量産所』と言われていて、碌に使えない素人ハンターを量産するだけで、卒業生をすぐに死なせる死神学校、とか言われてるらしいよ。
まぁ、事実を確認して言ってるわけじゃなくて、自分の国にはない『新人が、あっという間にDランク、Cランクになれる制度』が気に入らないのだろうけどね。
とにかく、まぁ、うちの国の養成学校出のハンターは、Cランクであろうが馬鹿にされて素人扱い、ってわけだ。
普通であれば、ハンターが出身国や経歴を詮索されることはあり得ないけれど、こういう問題を持ち込んだ場合には、ある程度の身元を証明しなきゃならないからね。……荒唐無稽な話を信じて欲しければ……」
メーヴィスの説明に、レーナが頷いた。
「見た目で駆け出しの新米だと思われる私達は特に、ってことね。余所者だし。だから……」
「だから?」
マイルの合いの手に、レーナが胸を張って答えた。
「もっと
* *
「……よし、特異種のコボルトが指揮してるぞ!」
そして、何度目かに出会った魔物の集団は、数十匹のコボルトの群れ。いつものように、メーヴィスが第一発見者である。
ゴブリンと同じく、特異種であっても1匹や2匹ではあまり脅威とはならないが、それでも『特異種の存在を示す
「特異種は絶対に狩るわよ。他の
「「「おお!」」」
威勢の良いいつもの掛け声と共に、皆で一斉に攻撃開始。
雑魚を蹴散らして、まず最初に特異種を討伐。……劣勢になった時点で逃げ出されては困るので、一番にリーダー役らしき特異種を倒し、あとは適当に追い散らせばいい。
コボルトは大した稼ぎにならないし、売れるのは毛皮だけだし、下手に見た目がもふもふしていて可愛いものだから、皮剥ぎ作業は不評なのである。……ギルドの解体場の者たちにさえ。
安い手間賃では、何か、罪悪感や精神的苦痛に釣り合わないとかで……。
いや、いくら可愛くても、集団で村人を襲ったりするのだから、討伐は必要なのであるが……。
「……あれ? 特異種の死体は?」
コボルト達を蹴散らし、追い払った後、特異種の死体があるはずの場所に眼を遣ったレーナが驚いたような声を上げた。
「そこに……、あれ?」
「え?」
「……無い……、わね……」
無い。最初に倒したはずの、特異種の死体が無い。
みんなで捜していると……。
「あ。何かを引きずった跡が……」
特異種が倒れていたはずのあたりから、何か……、おそらく特異種の死体……を引きずったらしき跡が、ずっと続いていた。現場から離れる方向に、一直線に。
「魔物には、死んだ仲間の死体を持ち帰るというような習性はありませんよね、共食いをする場合を除いて……。そして、他の仲間の死体はそのままなのに、どうして特異種の死体だけ……」
「強い者の肉を食べることによって、その強さを我が身に、という習慣なんじゃないのかな? そういう習慣というか習性というかは、強さを第一とする生物では、たまにあるらしいよ?」
「あ! じゃあ、ギルドに売却されたものの中に、特異種が含まれていないのは……」
「特異種は数が少ない上、倒されたものは仲間が回収するから、かい? 確かに、相手を全滅させることができなかった場合、そういうこともあるかもしれないけど……」
「…………」
みんなの会話は、一応は何となく納得できる内容ではある。
しかし、マイルにはどうもしっくりこなかった。
「でも、こういうのはここだけの話じゃないんでしょう? そういうのがここだけならば、『オーブラム王国の様子がおかしい』とかいう話にはならず、この国の中で『何々領の様子がおかしい』って話になるのでは?
もしかして、この国のあちこちで同じようなことが起きている、とか……」
マイルがそんなことを言っているが、それは、ナノマシンから聞いた『次元の裂け目は出現してすぐに短時間で消滅する、ということを各地で繰り返している』という情報を元にした、ズルである。
しかし、それを知ってはいても、魔物達の行動や、『そういう現象が起きていることの原因』が分かるわけではない。
今、この国がおかしな様子であることの理由の一部は、何となく推察できる。
……しかし、そうなった理由、その根本的な『原因』は、不明なのであった。
一応、依頼者から期待されているだけのことは掴めたと言えるであろう。
しかし、それだけで依頼完了とするような者は、『赤き誓い』にいるはずがなかった。
「でも、推察の部分が多すぎるし、特異種を数体確保しただけでは、証拠としては弱いよね?」
「まだ王都にすら行っていないのに、こんな中途半端な情報じゃ、とても依頼完遂とは言えないわよね……」
「せっかくの美味しい依頼なのですから、なるべく引き延ばさないと……」
「あはは、やっぱり……」
そして、王都に向かう旅を続ける『赤き誓い』であったが……。
【マイル様、近くで裂け目が発生しました!】
「皆さん、こっちです!」
「はいはい……」
探索魔法で何かを探知したのであろう。
そう考え、素直に従うレーナ達。いつものことである。
そして、街道から逸れて全速で森の中を突き進んだレーナ達が目にしたものは……。
「……え?」
以前見たことがある、『次元空間の裂け目』。
「あれは……」
そこから出てくる、魔物達。
それは、予想していた。そして……。
「何ですか、あれは……」
まるで魔物達を指揮しているかの如く裂け目の脇に立っている、見慣れない、異形のもの。
「小さいけれど……、アイアンゴーレム?」
しかし、それはマイルには、こう見えた。
(……ロボット……?)
そう、スカベンジャーもゴーレムも、そしてナノマシンも、確かにロボットの一種であろう。
先史文明も『なんちゃって神様』も、ロボットくらい楽々作れる能力があった。
……でも、これは違う。
人間を模したわけでもなく、動物形でも昆虫形でもなく。
あのスカベンジャーも、4本の腕に6本足と、確かに異形ではあった。
しかしそれは、安定性や作業効率等を考えてデザインされたであろうことが窺われる、それなりに理解できるものであった。
だが、これは……。
異形。
それ以外の言葉が思い付かないくらい、人間の発想から外れたモノ。
(……ナノちゃん?)
【敵です……】
(あ、やっぱり?)