447 敵 1
「『赤き誓い』の皆さん、ギルドマスターがお呼びです」
「「「「あ~……」」」」
ちょっと大きく稼ごうかと、廃鉱山に潜っての魔物退治に出掛けていた『赤き誓い』がギルド支部に戻ると、受付嬢からそんなことを言われ、うんざりした顔をするマイル達一同。
ギルマスからの呼び出しなど、無理難題を押し付けられるか、お小言かのどちらかしかない。なので、マイル達がそういう顔をするのも無理はなかった。
ちなみに、今回廃鉱山に潜ったのは、別にそういう依頼があったわけではなく、ポーリンからの『マイルちゃんの探査魔法を使えば、掘り残された鉱石が簡単に見つかるのでは?』という提案によるものである。
……そして、プロの鉱山関係者達に見落としはなく、簡単に掘り出せるようなところには純度の高い鉱石など全く残ってはいなかったのであるが……。
「ま、仕方ないよ。ギルド職員というわけではなくても、私達ハンターもギルドという組織の一員なのだから、上の人の言うことは聞かなくちゃ……」
優等生的なことを言うメーヴィス。
「ま、ふざけたことを抜かすようなら、勿論拒否するけどね!」
あくまでも、自分中心のレーナ。
「全ては、報酬金次第ですよね……」
そして、あくまでもお金中心のポーリンと……。
「皆さん、特別な依頼のお話だと決めつけていますけど、また、前回みたいな苦情とお説教だという可能性も……」
「「「うっ……」」」
マイルの指摘に、口籠もる3人。
「ま、行ってみなきゃ分からないわよ。行くわよ、みんな!」
「「「おお!!」」」
「……来たか。実は、頼みたいことがある」
ギルドマスターの言葉に、安堵した様子の『赤き誓い』。どうやら、お説教されるネタに心当たりがあり、心配していたようである。
そして、いつもは呼び出しての依頼を嫌がるのに、なぜかほっとしたような様子の『赤き誓い』に、疑問に思いながらも、別に都合が悪いわけではないのでそのまま話を続けるギルドマスター。
「少し前から、オーブラム王国の様子がおかしいらしい、という噂が流れている。そこで……」
「また、偽装商隊の護衛ですか?」
当然のことながら、そう尋ねたマイルであるが……。
「いや、今回は、そういう段階……というか、状況ではない。なので、普通の『ハンターの、修業の旅』ということで、お前達だけで自由に行動して貰いたい」
「「「「…………」」」」
また、胡散臭い話である。
ソースが、『噂話』。
そして、国には調査部門があるし、間諜や、草(現地定住型諜報員)もいるはずである。なのに、なぜわざわざそういう方面には素人である民間のハンターに依頼するのか。
勿論、この依頼がギルドからのものであるはずがない。当然、国からの依頼、正確に言うならば、軍部か王宮からの依頼としか考えられない。
「……詳細説明を聞く前に、少し、私達だけで相談させてください」
この手の話は、詳細説明を聞いてしまうと、断る場合に色々と面倒な場合が多い。なので、この段階で『これ以上話を聞くことなくすぐに断るか、もう少し話を聞くか』の相談をするというのは、別におかしなことではない。話を聞いたからといって断れなくなるわけではないが……。
そしてギルドマスターの了承を得て、別室で相談する『赤き誓い』の面々。
「どう思う?」
「「「胡散臭い!」」」
メーヴィスの問いに、声を揃えて答えるマイル、レーナ、ポーリンの3人。
「勿論、私もそう思う。でも、ギルドマスターは私達を騙したり陥れたりするような人じゃないし、この話には色々と利点も多い。
まず第一に、依頼任務で動くわけだけど、『修業の旅の振りをする』ということだから、普通に旅をして、普通に現地で依頼を受けるわけだ。つまり……」
「二重に稼げる、ということですね!」
ポーリンが食い付いた。
「ああ。当然ながら行動期間中の依頼料は貰えるし、まさか現地での依頼で稼いだお金を寄越せとは言わないだろうからね。……つまり、ポーリンが言ったとおり、稼ぎが二重になる。
そして勿論、修業の旅なのだから、私達の知識と経験が上がるのは当然だ。
更に、国内での依頼、それも『その筋』からの依頼による遠征だから、その間の『国内での活動年数義務期間』のカウントは停止されない。つまり、国外での旅の間も、無料でハンター養成学校に行かせて貰ったことに対するお礼奉公としての、国内活動義務期間のカウンターが回るのは止まらないということだ。
まぁ、私達は他国に拠点を移すつもりも、そうする理由もメリットもないから、それはそう大したことじゃないけど……」
そう言いながら、ちらりとマイルの方に眼を遣るメーヴィス。
そう、早期にそれが関係する可能性があるのは、他国の爵位と領地、そして領民を持つマイルだけである。
レーナとポーリンはメーヴィスのその視線に気付いたが、当のマイルは、全く気付いた様子はなかった。
「おまけに、おそらく『上の方』からの依頼だろうから、功績ポイントがかなり多いということが予想される。そして、私達が断ると『上の方』への立場上、ギルドが困ることになるだろうから、素直に受ければ恩を売れるし、色々と将来的に役に立つかもしれない」
「……美味しいわね」
「美味しすぎますよね……」
レーナとポーリンの言葉に、こくりと頷くマイルとメーヴィス。
「どうして私達にこの話が来たと思います?」
マイルの問いに、メーヴィスが答えた。
「勿論、前回の帝国の件で私達に白羽の矢が立った理由と同じく、私達の年齢と、女性パーティということから間諜だと疑われる確率が非常に低いこと。新米に見える割には結構強く、生還の確率が高いこと。……そしておそらく、前回の偽商人の皆さんからの推薦だろうね……」
「「「あ、やっぱり……」」」
みんな、そう思っていたようであった。
「なのでおそらく、今回はギルドマスターの人選ではなく、指名依頼だ。……まぁ、ギルドマスターの人選であっても、私達が選ばれただろうとは思うけどね。
詳細を聞いた後でも、ふざけた内容だったり、私達の意に染まぬ内容だったりした場合には、勿論断ろう。私達『赤き誓い』は、恥ずべき内容の依頼は決して受けないからね。
とにかく、詳細を聞こう。そして今回は……」
「「「「強気に出て、条件を吊り上げる!!」」」」
「とりあえず、詳細をお伺いすることにしました」
「そうか、助かる!」
『赤き誓い』のポリシーを知っているギルドマスターは、そうなるだろうと予想してはいたものの、メーヴィスの言葉を聞いて、ほっとした様子であった。
「勿論、詳細を聞いた後で断ってくれても構わない。……できれば、それは避けて貰いたいとは思っているが……」
やはり、ギルドマスターとしては『赤き誓い』がこの依頼を断ると困るようであった。立場上、強制することはできないため、苦しい立場なのであろう。
「その前に、ひとつ聞いてもいいですか?」
マイルが、ギルドマスターに問い掛けた。
「ああ、何だ?」
「オーブラム王国って、どこにあるんですか? かなり遠い国なんでしょうか?」
「「「「…………」」」」
部屋に、静寂が広がった。
「マイル、あんた……」
「マイル、さすがに、それは……」
「マイルちゃん……」
そして、ギルドマスターが、大きな声で教えてくれた。
「この国の、隣国だっっ!!」
本日、ブルーレイディスク第2巻、発売!!
マイル「皆さん、私を2期まで連れてって!(^^)/」
レーナ「それ、『2期』じゃなくて、『月』じゃないの?」
マイル「い~んだよ、細けぇこたー!!」