東京の医療現場 ぎりぎりの「最後のとりで」 鳴りやまぬ医師の携帯
2021年07月31日 23時17分 毎日新聞
2021年07月31日 23時17分 毎日新聞
2021年07月31日 19時04分 毎日新聞
集中治療室で新型コロナウイルスの患者に対応する看護師=東京都港区の虎の門病院で2021年7月30日午後5時53分、幾島健太郎撮影
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。7月23日の東京オリンピック開幕から1週間あまり。1300人台だった東京都内の新規感染者は五輪と時を合わせるように増え続け、31日に初めて4000人を超えた。30~31日、都内有数のコロナ病床を抱える2病院の了解を得て患者に対応する現場に入ると、これまでにはなかった事態が起きていた。【春増翔太】
30日夕、虎の門病院(港区)にまた1台、救急車が入っていく。この1週間、特に逼迫(ひっぱく)度が強まったのが、コロナの疑いがある患者に特化して対応している救急外来だ。夜になっても応急用の十数床は大半が埋まり、看護師がベッドの間を縫うように動き回っていた。
傍らのパソコンに映し出された来院患者の一覧は所々が赤くなっている。「低酸素血症など呼吸がままならない状態です。1、2、3……10人前後。多いですよ」と女性看護師が言う。
合間を見て当番の看護師2人に様子を聞くと「1週間前まで考えられなかったことが起きている」との言葉が返ってきた。
この日の午後3時すぎ、救急車から連絡を受けた時のことだ。発熱がある男性の受け入れを求められたものの、ベッドに空きはない。男性スタッフが医師と相談して「空くまで車内で待ってもらえるなら」と自分たちができる最大限の答えを返した。
コロナの対応で都の地域救急医療センターに指定された同院は、受け入れ先が見つからない患者が集まる「最後のとりで」だ。原則、受け入れの要請は断らない。結局待たせた時間は数分で済んだものの、これまでは外で待たせることはもちろん、救急車が他の病院に向かわずに待つこともなかった。「断るケースも出始めている」と看護師は声を落とす。
この日の夕方までに受け入れたコロナの疑いがある患者は33人。前日は36人で1週間前の1・5倍ほどに膨らんだ。陽性と判定される人も7月中旬の2、3人を大きく上回り、連日10人以上を数えている。
コロナの重症患者が入るICU(集中治療室)は1床を残し、4床が埋まっていた。2日前に入院した男性はまだ30代で基礎疾患もない。臨床感染症科の荒岡秀樹部長(44)は若い患者が重症化する事例が目立っていることを明かした。
落ち着いて取材に答えていた荒岡部長がどうしても伝えたいことがあると口調を強めた。「皆さんへのお願いです。感染しないよう気をつけてください。ワクチンを打ってほしい。感染者が増え、コロナに医療資源が割かれれば、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などコロナ以外の医療にも支障が出かねないんです」
◇
翌日の31日、順天堂医院(文京区)を訪れた。五輪が開幕した23日にも取材に来た藤井達也カメラマンの目には院内の雰囲気が様変わりして見えた。看護師がせわしなく動き、アラームや電話が圧倒的に増えていた。
この日もコロナ重症病棟にいた比企(ひき)誠医師(46)の携帯電話は鳴り続けている。「ええ、いいですよ。15時ね」。自宅療養中に容体が悪化した50代女性の受け入れを求める電話だ。目の前では病状が改善した女性患者が中等症病床に移っていった。
「今日は快方に向かった2人が病床を出て、自宅療養中に重症化した4人が新たに入院します」。用意している14床は満床の状態が続く。「さっきの要請は受けましたが、ここ数日は『いいですよ』と即答できないこともあります」
深刻化する状況を踏まえ、同院は他の診療科から応援医師を増やすことを決定。予備用の2床も使うため、ついたてをセットした。
「事態が好転する要素がない。感染者は増えるでしょう。8月には都内で5000人を超えても不思議じゃない」。覚悟を決めたように話す比企医師の隣でパソコンに向かっていた別の医師が静かにうなずく。
院内にはナースコールが響き、患者の容体を示すモニターからアラーム音がひっきりなしに鳴る。これ以上感染が進めば医療現場は壊れてしまう。最前線を守る看護師らの姿を見ながら、その危機を肌で感じた。