カナリアの聲〜モズの速贄〜
サラッとお読みください。※相変わらず胸糞注意報です
私は今日も貴方の隣りで醜く鳴く。
私の平等で不平等な人生。声を無くした私の非日常が日常となり、ゆっくりと私は自分の記憶を辿る。夢の現実の狭間で、私はどんな顔をしている?
戯言を吐き捨て続けて、偽りの黒いキャンバスを 塗りつぶしていく。貴方との今日を少しずつ閉じ込めて、私の心が内臓を喰い尽くす。
沸騰した私の叫びを縁取って、見えない本性が顕在化していく。
この感情になんと名前を付けたらいいのだろう。
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あのデビュタント以来、社交界に出席していなかった私はイワン様の横で微笑む。周りは私を傷つけた『醜い声のカナリア』と態と聞こえるようにクスクスと嗤っている。嗤うなら嗤え。どんなに醜く見えても、これが今の私だ。消えない痛みを抱え、千切れそうな綱の上で罠だらけの選択肢を踏み出す。
もう戻らない、後悔はしない。肥大化した思いを手懐けて。虚ろな感情に巣食ってる私の心を諌める箍は砕かれているのだ。
イワン様が心配するようにすぐに戻ると言い、名残惜しそうに私から離れる。すると、それを見計らったかのように令嬢達が私の周りを囲み嗤う。
「カナリア様、ご機嫌よう。デビュタント以来ですね。ふふっ、返事は結構ですわ。カナリア様の声は不快になってしまうので」
「イワン殿下もお可哀想に……耳障りな醜い声を聞き続けなければいけないなんて」
「イワン殿下の優しさにつけ込むなんて、卑しいと思いませんの?」
私は微笑み、心の脆さに浸り、従順に私の欠陥に従った。仄暗い闇の底に、深く深く落ちて。周りの人からは見えないように、目の前の令嬢の首を片手で掴み力を入れて引き寄せ、周りの令嬢達だけに聞こえるように囁く。
「がっ……ぐ……」
「ごめ゛んなざい?貴女達に゛はこの゛醜い声で言葉贈るわ゛……死ね゛」
顔を青くする周りの令嬢達に微笑みながら、首から手を離してあげる。私は首を傾け、人差し指を口に当てて狂った笑みを浮かべた。
周りには令嬢達に隠れて私の様子は見えない。令嬢達が私を寄ってたかって嗤ってるに見えるだろう。そんな私達にイワン様は怒ったように近づき、私を引き寄せた。
「一人にしてすまない、カナリア。行こう」
私は悲しそうな表情を作り、如何にも令嬢達に虐められたようなカナリアを演じる。安い不幸話で周りからの同情を頂戴だ。他人の不幸は蜜の味……本当に素敵な人害共。
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陛下は態々、小娘の私に頭を下げて感謝する。
「……カナリア嬢、君には感謝している。本当に……本当にすまない……」
「陛下……気づぎましだの。皆ん゛なが私を嗤ってい゛るその゛時にね……私も゛嗤ってだ。嗤いながら゛思い゛ましだの。これ゛は仕組み゛なんだっで。犠牲にする゛事で歯車が回り続げでいるの゛なら……私が此処にいる理由も、ま゛たそれだけだっで。犠牲に゛しで、犠牲にされ゛、また犠牲に゛しで……そう゛しで貴方達は生ぎでいぐ」
陛下……私は今、どんな顔をしていますか?貴方の目には何が見えますか?頭を上げた陛下に、私は醜く鳴く。
「私の゛邪魔をす゛るのもの゛は、何だっで殺じでやる。自分だっで、心だっで、夢だっで、愛だっで……」
陛下は目を見開き、言葉が出ないようだった。私は愚王に背を向け歩き出す。振り返りなどしない。
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それは偶然だった。王宮に私に与えられた部屋で、転がり落ちたペンを拾おうと屈むと、机の下に紙が張り付いていた。私はその紙を剥がして中身を見ると、そこには押花と『書庫、一番奥の右から二番目、上から五段目』とだけ書いてある。
私は惹かれるまま書庫へと向かい、紙に書いてあった場所を探すと、鳥の図鑑が目に入り手に取る。カナリアのページにまた押花と紙が挟まっていた。私は見えない何かに導かれ、次々と押花と紙を追い続ける。
「カナリア、最近王宮で何かを探しているみたいだが……」
私はイワン様に微笑み、紙と押花を見せる。イワン様は驚いたように紙の文字を見入っていた。
「これは……兄上の……ウェインの文字だ」
私は何故亡くなったウェイン様がこんなものを残したのか分からなかった。だが、強く惹かれるのだ。イワン様は紙に導かれるように彷徨う私に、執務を終わらせついてくる。そしてウェイン様の私室だった部屋にある額縁の裏に、また押花と紙があった。
『幽閉の塔、ベッドの下』
私は無言でイワン様に紙を見せ、連れて行くようにイワン様を見つめる。分からない、でもきっとそこには何かがあると私は感じていた。
イワン様と共に幽閉の塔へと向かい、階段を登る。イワン様から差し出された手を振り払い、自分の足で進む。
牢の中に入り、ベッドの下を探すと一枚の手紙があった。私はその手紙は私宛だと思った。封筒を破り、手紙の内容を読む。
『愛しいカナリアへ。
君がこの手紙を見つける事を祈っている。
私は君が好きだった。君の優しさも、君の歌声も。でも君は私のものにはならない。
私は長くは生きられないと言われ、イワンが憎かった。どうして私だけが取り残され、カナリアまでもがイワンのものになるなんて許せなかった。
だから私がイワンを通じて、君の声を奪った。私のものにならないのなら、せめて君の声を道連れに死にたかった。君は許しはしないだろう。
それでいい。私を忘れないでくれ、カナリア』
「ふふっ、あはははははは!!!!」
私は手紙を読み、お腹を抱えて嗤う。ありきたりな薄っぺらいプライドが混ざる恋文。なんて退屈なんだ。退屈すぎてくだらない。
もう止まれない、終われはしない。
イワン様に表裏一体な気持ちを抱き、私は頂上まで這い上がるのだ。愛憎の群れが渦巻いても。
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今日は私の誕生日。
イワン様から美しい小鳥をプレゼントされた。小鳥は檻の中で鳴いている。私は自室で檻の扉を開けて小鳥を片手で掴む。小鳥は苦しそうに醜く鳴き、私の手の中で暴れる。
私はそのまま小鳥の羽をもぐ。どんな美しい鳥も羽や声を奪えばただのゴミだ。
夢から醒めた私は眠ることもできず廻る。何時まで何処までも。
ありがとうございました!