CERNに行ってきました。こりゃどんなSF映画よりもすごいわ…

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  • author K.Yoshioka
CERNに行ってきました。こりゃどんなSF映画よりもすごいわ…
Image: ギズモード・ジャパン

人間、すごい。科学者さん、すごい。

みなさん、CERNと聞いて何を思い浮かべますか? 超巨大な機械ですごい実験してる施設? 『シュタインズ・ゲート』に登場する研究機関? さまざまだと思います。僕はすごい施設ということだけはわかる、でも専門知識がなくて何がすごいのか理解できていなかったのが正直なところです。しかしこの度、とんでもない機会が飛び込んできまして…。

なんとスイス大使館の招待で、この夢のような研究施設CERN(欧州原子核研究機構)に行ってきました! CERNの中はどうなっているのか?その姿をご紹介します。

そもそもCERNってなに?

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Photo: ギズモード・ジャパン

CERNの日本での正式名称は欧州原子核研究機構。世界最大規模の素粒子物理学の研究施設です。

CERNの実験では、荷電粒子(電荷を帯びた粒子)を加速する装置である加速器を使い、粒子を標的や別の粒子に衝突させ、その衝突のエネルギーから生成された粒子を調べています。ちょっと難しいですけど、簡単にいうと、私たちの住んでいるこの宇宙の秘密を解き明かすために日夜研究しているんです。

もしSFチックな巨大な円形の施設をイメージしていたとしたら、それは衝突実験によって生成された粒子を精密測定する検出器。加速器は、スイスとフランスの国境にまたがった全長27kmの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)というものが使われています。

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Image: © 2016 CERN Bennett, Sophia Elizabeth: CERN

上空からの写真を見るとわかりやすいと思います。そう、この赤い線で表した円が加速器のサイズなんです。規模感がすごい…。

それではCERNの施設の様子を写真と動画でお見せしましょう。

ALICE検出器

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Photo: ギズモード・ジャパン

今回メインで訪れたのが、ALICE検出器。ALICE検出器は、高エネルギー重イオン衝突実験のために作られた検出器です。このが実験がどういうものかというと、ビックバン直後の宇宙初期に存在していたとされる物質相「クォーク・グルーオンプラズマ(QGP)」 を生成し、その性質の解明を目的としています。要はビッグバンを再現する的なことですね。

上の画像の大きな建物が入り口で、ALICE検出器はこの建物の地下56mの場所にあるんです。

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Photo: ギズモード・ジャパン

建物に入って右手にあるのがコントロールルームです。ここでは加速器による一回一回の衝突の様子をモニターしています。もちろん今は実験をしていないので人もいません。次の実験は2021年とのこと。

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Photo: ギズモード・ジャパン

このモニターに映っている一本一本のカラフルな線が衝突によってでてきた粒子に相当していて、どれくらいの勢いで動いていたか、何の粒子だったか、衝突の時に起こった反応などを調べています。

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Photo: ギズモード・ジャパン

コントロールルームをでて、奥に進むとそれっぽい通路が…。

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Photo: ギズモード・ジャパン

道中の通路は地下56mまで吹き抜けになってました。上から覗き込むとこんな感じ。こりゃ完全に秘密基地だわ…。

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Photo: ギズモード・ジャパン
ALICE検出器の説明をしてくれた研究員の細川さん。

案内されたのは大きな部屋。ここはどうやら見学に来たお客さん向けにのオリエンテーションルームのような場所で、施設の役割をプロジェクションマッピングなどを使って説明してくれます。

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Photo: ギズモード・ジャパン

説明が終わったら、また来た道を戻ります。さっき通りすぎたところに地下へのゲートがありました。このゲートでは、放射能の量を測ります。というのも、衝突実験を行なうと放射線がでるので、万が一被爆した時に備えてこのゲートがあるとのこと。もちろん僕らは問題なく通過できました。

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Photo: ギズモード・ジャパン
他にも放射能を検出するマシンが…。


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Photo: ギズモード・ジャパン

ヘルメットが配られ、いざゲートを通ります。ちなみにヘルメットにはCERNとALICEの文字。めっちゃ欲しい。

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Photo: ギズモード・ジャパン

ゲートを通ると、エレベーターがあって、ここから一気に地下56mまでおります。

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Photo: ギズモード・ジャパン

約30秒で到着。ここからいかにもな通路を通っていきます。なんていうか、完全にエイリアンの世界。上からネチョネチョの液体が垂れてきて、見上げたら即脳みそ貫通みたいな。そういう世界観です。

そうしてずーっと通路を歩いて、階段を少し登っていくと…。

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Photo: ギズモード・ジャパン

ううぉおおおお! 出てきました。これがALICE検出器!!

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Photo: ギズモード・ジャパン


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Photo: ギズモード・ジャパン

でかい…でかすぎる。こんなの見たことない。SF映画より全然すごい…。

現在は2021年の実験に向けてメンテナンス&アップデート中とのこと。

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Photo: ギズモード・ジャパン

ちなみにALICE検出器のまんまえでは、職員が安そうなテーブルと椅子で監視していました。シュール。

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Photo: ギズモード・ジャパン

裏側も見せてくれましたよ。いや、もう正直なにがなんだかわからない。

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Photo: ギズモード・ジャパン

とにかくコードがたくさんある。どれか一本でも切っちゃったらやばいんだろうな…(絶対ダメ)。

最後に動画でもお見せしましょう。

Video: ギズモード・ジャパン/YouTube


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Photo: ギズモード・ジャパン

ちなみに超電導磁石試験施設SM-18にも行ってきました。ここはその名の通り、超伝導マグネットなどの実験を行なう施設です。こちらは写真でまとめて紹介。

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Photo: ギズモード・ジャパン
このチューブは、LHC加速器のチューブのスペア。壊れたりしたら代わりに使うそうです。


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Photo: ギズモード・ジャパン


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Photo: ギズモード・ジャパン


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Photo: ギズモード・ジャパン

CERNの人に聞いてみた

せっかくなので、今回の見学で気になったことをCERNの方に聞いてみました。

──「ビッグバンを再現する」ということですが、検出器が吹き飛んじゃうようなことはないんですか?

CERN:スケールが全く異なり、我々が行なうことのできる加速器実験では、目に見える破壊をもたらすほどのエネルギーが用いられるわけではありません

ビッグバン直後に相当する(少なくともQGPが生成される程度の)状態を一瞬作り出しているのは確かですが、LHCを用いて投入したエネルギーで原子核程度のサイズの領域に生成されたQGPは、高々10のマイナス23乗秒ほどしか寿命がありません( 約0.00000000000000000000001秒)。

一方、ビッグバン直後の宇宙は数マイクロ秒(10のマイナス6乗秒)後程度ほどまでQGPの状態(あるいはそれより高エネルギー密度の状態)をその時点での宇宙のサイズで維持したと考えられておりますので、その違いはまさに「桁違い」です。

ギズなりにまとめてみると・・・

ビッグバン直後の宇宙はその全域が超高エネルギー状態。そのほんの一部をほんの一瞬だけ再現して観測することが、CERNの実験です。

当時の宇宙を熱湯アチアチな太平洋にたとえたら、CERNの実験はほんの少しの水を電子レンジ(加速器)でアチアチにして、冷える際に出る蒸気(素粒子)などの出方などを超絶詳しく研究する感じ。

──日本への誘致が検討されていた、電子の衝突実験を行なう直線型の加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の件はどうなってるんでしょうか?

CERN:最終的な結論は出ていなかったはずです。僕らのような加速器の実験をやっている人たちは作りたいと思っています。ただし、世の中にはいろいろな科学者の方がいて、みなさんと協力し合わないとあの規模の研究施設はできません。なので、現在は全体の足並みをそろえる努力をしているところです。

LHCのような円形型の加速器のいいところは、ぐるっと一周した後にさらに一周して加速できるため、比較的簡単に高エネルギーの粒子を作り出せるところです。ただし、荷電粒子を円形の軌道に曲げると、エネルギーの一部が光として放射されてしまいます。

電子のような軽い粒子は、軌道を円形に曲げる際にエネルギーの多くを光として放射してしまうため、エネルギーをあげたとしてもすぐに下がってしまいます。なので、円形型の加速器で高エネルギーの電子のビームを実現するのは非常に困難です。

一方、重たい粒子は光を発したところで大した量ではないため、どんどん加速することができます。たとえばLHCでは、陽子という比較的大きな粒子を加速しています。しかし陽子は素粒子ではなく、いくつかの素粒子を中に含んている粒子なので、LHCで行なっている陽子と陽子をぶつける実験では、欲しい粒子だけでなく、いらない粒子もたくさん出てきてしまいます。それを分けるのがLHC実験のチャレンジングなところでもあります。

ところが、電子は基本的に素粒子なので、電子(と陽電子)をぶつけた場合は非常に綺麗な衝突が発生します。いらない粒子が少ない状況で測定できるため、電子を使った衝突を実現したいというのが、我々の考えるところです。それを実現するには、ILCのように加速器を直線で作らないといけないのです。

CERNでもCLICという似たような装置を作ろうという計画はあります。これはILCよりも加速距離が短いですが、よりパワフルな装置になると考えています。ただし基本的なデザインやコンセプトが違うので、直接的な比較はできません。


人間って改めてすごい…というよりこの施設を作った人たち、そして関わっている人たちは本当にすごい。自分の想像も及ばないような世界で、人類・宇宙の秘密を解き明かそうと日夜研究している人がいるんですよね。

もちろんそれは今回のCERNだけでなく、世界中の研究者・技術者の方もそうです。いま使ってるスマホやPC、インターネットのような身近な存在だって、こういう方たち無くしては存在していないものばかり(インターネットの「WWW」を作ったのもCERNの人)。ちょっと飛躍しますが、僕の大好きなSF映画だって、こういう方々の研究のおかげで、よりリアルに、身近に感じられたり、ワクワクできたりするんですよね…。

いま生きてる世界って想像以上にすごいということ、そしてそんな世界を影で支え、さらに良くしよう、解明しようと研究している人たちが沢山いることを改めて感じさせてくれました。

CERN、ありがとう!

Source: CERN
取材協力:スイス大使館

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