浜谷陸太(はまや・りくた) 医師、疫学修士
2013年東京医科歯科大学卒。循環器内科後期研修後2018年に渡米、2019年にハーバード公衆衛生大学院で疫学修士を取得。現在、同大学院疫学科博士課程、ブリガムアンドウィメンズ病院予防医療科研究員、循環器内科医師、疫学コンサルタント。心血管病領域の疫学研究、臨床研究が専門。
信頼できる結論は、厳格な比較試験なしには得られない
新型コロナ感染症(COVID-19)流行で明らかになった一つのことは、多くの人(有識者と呼ばれる人を含む)が「科学的根拠(エビデンス)」を正しく理解していないことであった。公衆衛生学、とくに疫学を研究している筆者からみると、科学的根拠がないのにあるかのように語られること、逆に、あるのにないような議論を目にすることがあまりにも多かった。うがいやマスク、空間除菌、COVID-19治療薬、ワクチンの有効性など、枚挙にいとまがない。公衆衛生(ひいては医学一般)における「科学的根拠」とは何か、この寄稿ではっきりさせて頂ければ幸いである。
(多くの)医学・疫学研究の目的は、「AをすればBが起こる(治る、予防できる、等々)」という因果関係を検証することである。
うがいのCOVID-19感染予防効果
ワクチンのCOVID-19感染予防効果
イベルメクチンのCOVID-19治療効果
など全てが因果関係を意味し、それが認められれば、「科学的根拠」があるということになる。そして実は、因果関係を検証するのは容易ではない。
うがいをした人がうがいをしていない人よりCOVID-19感染率が低かったとしよう。これは因果関係か?
少し考えれば、うがいをするような人は手をしっかり洗う可能性も高いことに気づく。つまり上の関連性は「うがいによるCOVID-19感染予防効果」でなく、「相関関係」に過ぎないことが分かる。
因果関係はどうすればわかるのか? 「うがいの有無の他は同等の2集団」の比較をする他はない。ここで「ランダム化試験」が出てくる。
ランダム化試験というのは、「治療する(上記の例ではうがいする)かしないか」をランダムに割り振ることで、治療する集団としない集団の性質を同じようなものとする手法だ。西洋医学では、よくデザイン(設計)されたランダム化試験の結果を最重要視している。「科学的根拠」とは、「信頼できるランダム化試験の結果のこと」と考えていただいていい。
ここで3つ重要なポイントがある。
・メカニズムはエビデンスでないこと
・ランダム化試験であればなんでもよいわけではないこと
・推定するのは集団の効果であり、個人での効果はわからないこと
順を追って説明する。
コロナに限らず、「健康情報」でよく目にするのは生化学的なメカニズムだ。
例えば、
宿便剥がし:宿便は長い間腸内に滞留した便。これが腸内細菌に悪さをしており、サプリなどでこれを排出させることで様々な健康効果が期待される
ビタミンCサプリ:ビタミンCは抗炎症作用があるため、アンチエイシングに効果的
NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)サプリ:長寿遺伝子を活性化させ寿命をのばす
「なるほど……」と思ってしまう方がいることと思うが、これらは残念ながら「全く」エビデンスでない。それぞれ絶妙に真実を入れているから、ちょっとわかりづらい。論破してみる。
腸内細菌が様々な健康と関連しているのは事実である。しかし腸内細菌が原因かどうかは、今ホットに研究されている領域である(つまりはっきりしていない)。そして腸内細菌をよくするための確立されたサプリはない。さらに、「宿便」の定義が曖昧である。腸の内壁にはりつく便というのは普通ない。便秘ということを意味するなら、便秘に効果がある食物繊維やマグネシウムの摂取がお勧めである。
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