実況裏話 07. タービン型IC/JCT S1-#10

Season 1のPart 10は「タービン型ジャンクションを建設する」という回だ。

タービン型ジャンクションはこの独特の曲線形状のインパクトが大きいと感じたため、気合を入れて収録・編集した覚えがある。曲線が上手く描けるか不安ではあったが、アセットエディタを駆使してなんとか完成できた。

大きさは適切な感じだが、やはり少し進入角度がキツめで、まだまだCities Skylinesの操作にも、またはIC/JCTの建設にも慣れていない感じがする。それでもタービン型JCTをCities Skylines上で建設する時に、非常に高揚感があったのを覚えている。綺麗な点対称の図形を描く、機能的にも大きなキャパシティと安全性を持つと言われているこのジャンクションをゲーム上でシミュレートし、車が曲線を回っていく様を見て「シミュレーションできてるなぁ…」と、感慨にふけってずっと眺めていた記憶がある。

私の感覚ではあるが、タービン型IC/JCTはCities Skylines実況者/動画視聴者の中でも割と人気がある形状だと思っている。4象限すべてが点対称になっており、形状的に美しい。動画としても絵になる。最近ではタービン型JCTをいかに綺麗に建設するかについて、たくさんのCities Skylines実況者がYoutube上に動画をアップしている。それに比べると私は性格が雑なので、ちゃんと測量をせず、何度建設しても歪んだ形状になってしまうのは残念なところだ。。。

このタービン型IC/JCTに関して形状は有名ではあるものの、どういう経緯でどういう場所に建設されているか、まとまった情報を手に入れるのは困難だ。私は動画を作るとき、そしてこのブログ記事を書くにあたって、タービン型IC/JCTについて色々と調べている。この記事では、私が調べた結果をまとめ、タービン型のIC/JCTについてちょっとした裏話や情報を書いておきたい。

タービン型IC/JCTの建設例とその歴史

実は日本には多数存在する

タービン型IC/JCTは日本で数多く存在する。

  • 三郷JCT(埼玉、外環道×常磐道)
  • 久御山JCT(京都、第二京阪×京滋バイパス)
  • 千里IC(大阪、中央環状)
  • 垂水JCT(兵庫、神淡鳴道×阪神高速×神戸西バイパス)
  • 川崎浮島JCT(神奈川、首都高湾岸線×首都高川崎線)

(この他にもタービン型として分類されるIC/JCTはあるが、形状としてわかりやすいものを上記に挙げた。)

千里IC(大阪、中央環状)

日本で最大級のIC/JCT複合施設としての「垂水JCT」は、実はタービン型である。一般的にジャンクションは、高速道路同士の交差が90度として概念化される。しかし垂水JCTの場合は高速道路同士が極めて鋭い角度(つまり0度に近い)で交差しているため、ランプ道路が大きくカーブし、非常に複雑で巨大になっている。ところで以前に垂水JCTを日本で初めてCities Skylines上で再現している実況者が居たが、失踪してしまった。あの動画シリーズは素晴らしかった。

川崎浮島JCTも実はタービン型なのである。海上の埋立地と思われる狭い土地にJCTを建設し、かつICを併設させるという至難の形状を実現するために、直線のランプ道路が多く、高架化と地下化が駆使され、かつカーブの角度がかなりキツめになっている。ところで以前に川崎浮島JCTをCities Skylines上で再現していた実況者が居たが、失踪してしまった。あの動画シリーズは素晴らしかった。

高速道路建設の歴史と、ICの世代

タービン型JCT/ICは意外なことに、アメリカやヨーロッパでの建設例は日本よりも少ない(あれだけ広いのに!)。私が考えるにその理由は、欧米の方が先に高速道路の建設が進んだからではないだろうか。欧米諸国は日本よりも早い時代である20世紀前半(1920年代~30年代)には高速道路の建設が始まり、戦後の段階ですでにICやJCTが多く建設されていた。このときに建設されたIC/JCTの形状は、「ダイヤモンド型」、「トランペット型」、「部分的クローバー型」、「クローバー型」などである。これらのインターチェンジ形状は現在では、渋滞が起きやすい、あるいは織込交通が発生し危険などの評価があり、「伝統的な traditional」・「従来型の conventional」という形容詞が付いて語られるIC/JCTである。これらは高速道路網の建設が早かったドイツやアメリカで考案され、建設されていった。

例えば下記の画像は、アメリカのカリフォルニア州・アルハンブラという都市にあるクローバー型ICの写真だ。このICが何年ごろに建設されたのかは定かではないが、このサイトによれば、1930年代~1950年代にかけて建設されていった高速道路+IC/JCT群ということだろう。「I-10」という名称は米国州間高速道路(Interstate Highway System)の番号だ。米国州間高速道路は1956年に定められたが、I-10については既存の高速道路に番号を付与し、延伸を進めた。このクローバー型ICは一見してわかるように、ランプ道路に直線が多い。現在私たちが知るクローバー型IC/JCTは、ランプ部分が真円に近い形である。実はこのような最初期に設計+建設されたクローバー型IC/JCTの形状は直線が多く、このようにカーブの角度がきついものが多い。

カリフォルニア州・アルハンブラにあるクローバー型IC: I-10(Public Domain)

それから少し経って、IC/JCTの形状として「タービン型」が登場するのは1950年代以降である。世界で初めてのタービン型JCTは、アメリカのイリノイ州シカゴにある「サークル・インターチェンジ The Circle Interchange」だ。現在では、元シカゴ市長の女性ジェーン・バーン[Jane Byrne]を称えて、「ジェーン・バーン・インターチェンジ」という愛称が付けれられている。

Jane Byrne Interchange (The Circle Interchange), IL

このサークル・インターチェンジは1950年代後半~1960年代前半にかけて建設された。このJCTはかなり古くなってきており、現代の交通量をさばききれていないなどの老朽化が進んでいる。そのため現在は改修プロジェクトが進行中だ。改修工事は2019年に完了予定。(ちなみに“Interchange”は、ジャンクションとインターチェンジのどちらも指す単語。)

タービン型IC/JCTはこのように、高速道路建設の歴史の中では最初期(1920年代~30年代)よりも後に登場していることがわかる。最初期の形状よりも改良が進み、効率が良い形状である。タービン型JCTは一般的に以下のような特徴を持つ。

  • カーブの角度が一定のため、スムーズな速度で走行可能で渋滞緩和に効果的
  • 織込交通が無く、車線変更時の危険が少ない
  • 最小で2層での建設が可能なため、イニシャル/ランニングコストが少なく済む場合がある
  • スタッグ型IC/JCTよりも広い土地を必要とする

日本の高速道路の歴史(後発として)

さてここで、日本でのIC/JCT建設事情を確認してみよう。日本での高速道路の計画は戦前から既にあったものの、本格的な建設の実現には1960年代まで待たねばならない。日本はそれまで、高速道路網の建設よりも鉄道網の建設の方に力を入れていたようだ。全国の高速道路網をつなぐという発想は1972年に田中角栄が発表した「日本列島改造論」が一般的に有名だが、しかし意外なことに1966年に「国土開発幹線自動車道」が定められた段階が最初である。ともあれ欧米よりも後発である日本の高速道路建設では、IC/JCTの設計も現代的な形状として描かれることになった。これが後発の技術的強みでもある。しかし街が発展しきった後に計画が立っているので、もう高速道路やIC/JCTを建設する土地がないという事態にも陥るわけだが…。このあたりの歴史はまた別記事で書けたら書きたいと思う。

上記を踏まえてまとめよう。タービン型JCTは、IC/JCTの歴史の中では最初期の形ではなく、1950年代以降に登場した改良された形状と言える。そのためタービン型JCTは高速建設が後発であった日本には多数存在するものの、先行者としての欧米での建設は実は珍しいのである。

シャーロットのタービン型JCT

美しいタービン型の形状

アメリカでのタービン型JCTの建設例として、ノースカロライナ州で最大の都市「シャーロット」にて2013年に建設がされたJCTを紹介したい。このJCTは、ノースカロライナ州で建設された初のタービン型JCTだ。美しい点対称型をしている。

I-485/I-85 Junction at Charlotte, NC

おそらくだが、全てのランプが同じ動きをする4象限とも点対称なタービン型JCTは、アメリカではこのシャーロットのJCTと、フロリダ州ジャクソンヴィルにあるI-295/US-202のJCTのみではないだろうか。

シャーロットのタービン型JCTの建設経緯

シャーロットのタービン型JCTが建設されるまでの経緯については、以下の3つの記事にまとまっている。本当はノースカロライナ州運輸局(NCDOT)のウェブサイトに詳細記事があったらしいが、現在はデッドリンクになっており、ウェブサイトで”Turbine interchange”を検索しても詳細はでてこない。そのため、下記の3つの文献のみが一次情報になっている。

シャーロットはメクレンブルク郡に位置する。メクレンブルク郡の高速道路網は大きな108km環状線を建設する計画が当初からあったが、I-77線とI-85線が接続する9.2kmの区間のみ未完成だった。2009年から建設が始まるI-77線とI-85線をつなぐ接続線工事にて本来の108kmに及ぶ環状線が完成するが、この接続線建設にあたり、元々あった3方向のトランペット型ジャンクションを4方向へ改修する工事も同時並行で進められることになった。

都市の人口が増えていくにあたって、この環状線の内外との接続は複雑になっていった。Google Mapで「ノースカロライナ州シャーロット」を検索し、ジャンクションを確認してほしい。複雑に入り組んだジャンクションがいくつも存在することがわかるだろう。これまでの建設の歴史で同じように「3方向→4方向」という改修に加えて、ICという出入口の追加が繰り返されてきたのだろう。こうして非効率的なカーブが重なり、何層にも重なった道路による、広い土地を必要とする「スパゲッティ・ジャンクション」がいくつもできてしまう。

スパゲッティ・ジャンクション(イギリスのグレイヴリー・ヒルズ・インターチェンジ) (CC BY 2.0) Highway Agency

問題解決として、締切ギリギリのプラン

このI-485/I-85のジャンクションの改修案も、最初はトランペット型JCTを改良し、ハーフ・クローバー型JCT(対向ループ型JCT)の形を変えた4層スタック型JCTとする案が出ていた。しかしこれは20年前の計画案に基づくもので、新しい時代の多大な交通量に耐えるものではかった。それに4層型ともなると道路を高架化させるための柱の数や高さも増えてくる。そうなれば建設コストは増大するばかりだ。1990年代には用地取得は完了していたが、具体的なジャンクションの建設案は改良の余地ありだった。

そこで改修案の最終締切の約1ヶ月前に出てきた別の案が、現在建設された、2層からなるタービン型JCTだった。このタービン型JCTの案はコスト削減だけでなく、工事中の交通規制も少なく済むメリットもあった。更に、緩やかなカーブにより自動車の通行速度が自然と下がるため安全性も担保され、当初の改修案よりも使用土地面積が少なく済み、なおかつ保全も簡単になるという非常に多くのメリットがあった。

NCDOTのウェブサイトで”Turbine interchange”について検索すると、このジャンクションの工事プロジェクトがアメリカ国内で土木工事の成功例となっており、エンジニアリングに関する賞をいくつも受賞しているという情報(会議議事録)が出てくる。そういうアワードがいくつもあるのも初めて知った。

ジャンクション建設風景の写真

この建設プロジェクトに関して、ノースカロライナ州運輸局(NCDOT)は建設風景の航空写真をインターネット公開している。しかもライセンスはクリエイティブ・コモンズなので再利用可能だ。これらのアルバムを見ると、トランペット型からタービン型へ改修されていく見事な工法がはっきりと読み取ることができるのである。

I-85/I-485 タービン型ジャンクション建設風景 (CC BY 2.0) NCDOTcommunications

同時並行のプロジェクト

ちなみにこのプロジェクトと同時に、I-485という巨大な環状線において「分岐ダイヤモンド型IC(DDI)」が建設されていることも特筆に値する。I-485環状線は多大な交通量が発生しており、インターチェンジやジャンクションもより現代的なデザインに改修していく工事が同時並行で進んでいたようだ。DDIについては別に取り上げて記述したいが、DDIがアメリカで最初に建設されたのは2009年で、場所はミズーリ州のスプリングフィールド。このノースカロライナ州における建設はDDIの建設ラッシュが始まる最初期のもので、かなり早い段階で新しい形状のインターチェンジを導入したことがわかる。

DDI
分岐ダイヤモンド型IC(DDI)
(CC BY-SA 3.0) Hans Haase

加えて、I-77/I-85の区間には一つ面白いICが建設されている。ラウンドアバウトが6個あるという、かなり独特な形をしたIC/交差点だ。

このように高速道路の新しい区間には、新しい形状のICが建設される事例が多くなる。それは当然だ。IC/JCTの形状も日々研究を重ねられ、効率性や安全性、そして建設コストを考慮した形状・工法が開発されていく。私はCities Skylinesの実況者の中では、IC/JCTの形状やその特徴を紹介するのに特化したいと考えているので、これからも情報収集に努めたいと思う。

続く。

実況裏話 07. タービン型IC/JCT S1-#10」への7件のフィードバック

  1. ブログ投稿お疲れ様です。
    いつも読み応えが半端ではなく、驚いています。
    私はラクシゲ さんの作ったcs のjct、ICをノートに写しては、csで再現に励んでいました。
    ロータリーも作れた時は感動し、混んできては手直しをし、可愛がっていましたw
    いつかラクシゲ さんのデザインする実物のJCTを眺めてみたいですw

  2. らくしげ市長の説明にあった垂水JCTだと思います。神戸淡路鳴門自動車道、第二神明北線、阪神高速湾岸垂水線の4方向+一部の出入口がぶんき

    1. 途中で送信してしまい失礼しました。本題に入りますが先程説明した分岐がある垂水JCTだと思います。

  3. そういえばpinaviaはn番(nは3以上の整数)煎じになるからやらないということなんですか?
    まあ素のpinaviaは多方向で本領を発揮すると言っても土地が嵩むので亜種ばっかですが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。