新型コロナウイルスが経済や教育現場に大きな影響を与える中、“過激派”と呼ばれる団体の活動も活発になっている。「コロナ危機を革命へ」。中核派の機関紙が、こんな過激な見出しで論評を載せた。YouTubeでも積極的に発信するが、現代の日本で革命の可能性は、どれほどあるのだろうか? “3密”に注意しながらデモを続けているという活動家の声、そして、専門家の分析から考えてみた。(北林慎也)
「貧困層に被害が集中」
中核派が発行する機関紙「前進」。
4月27日付の1面に、大ぶりの横カットでこんな見出しが踊った。
「コロナ危機を革命へ」
世界規模で感染が広がり、経済活動にも深刻なダメージを与える新型コロナウイルスの余波について論評している。
この中で中核派は、日本を始めとする「帝国主義」「資本主義」体制において、「最も深刻な被害は戦争と同じく労働者階級人民、特に貧困層に集中している」と指摘。
そのうえで、「ウイルスが経済と社会を崩壊させたのではない。すでに崩壊していた経済と社会の真実の姿が、今回のパンデミックによって白日のもとにさらされた」と主張する。
「コロナ以前には戻れない」
さらに、こうしたひずみは深刻な世界恐慌を招き、「人類はもはや『コロナ以前の世界』には戻れない」と説く。
そして、労働組合活動で「コロナ感染対策や補償の問題に取り組」み、「共に闘う中で、労働者階級の階級意識の成長と革命的行動への移行を『助ける』」ことの必要性を訴える。
“階級”“革命的行動”など、時代がかった言葉が並ぶ中、活動の先にある“世界革命”に話が及ぶと、その用語はさらに独特なものになっていく。
「全世界で共通の闘いに立つ労働者の国際連帯で生存・雇用・生活の危機に立ち向かい、共に生き抜いて、歴史的命脈の尽き果てた資本主義・新自由主義を打倒するプロレタリア世界革命への道を切り開こう」
「極左暴力集団」警戒緩めず
中核派は、警察当局が「極左暴力集団」と呼ぶ過激派の一派で、正式名称は革命的共産主義者同盟全国委員会。
1963年、革共同から革マル派が分裂した後に形成された。
「学生運動と日本革命運動の中核になる」として「中核派」を自称。内外からの呼称として定着している。
学生組織の中核派全学連では2018年、現役東大生が委員長に就任して話題となった。
警察庁がウェブサイトで公表している「極左暴力集団の現状等」によると、2020年1月現在の中核派の勢力は約4700人。
東京都江戸川区に公然拠点「前進社」を構える。
警察庁は過激派全体の特徴として、「自らの主義主張を通すために、対立するセクト間で殺人や傷害などの内ゲバを実行」と指摘。
そのうえで、「組織の高齢化が進む中、若者の獲得を目指し、様々な取り組みを図る」と分析。
近年の社会運動への浸透や地方議会への進出、SNS展開などに警戒を緩めない。
YouTubeに公式チャンネル
若年層の取り込みを目指す中核派の象徴的な活動が、YouTubeでの展開だ。
前進社の公式チャンネル「前進チャンネル」を、2017年5月に開設した。
現在のチャンネル登録者は約6300人。
週2回発行の「前進」の内容を紹介するほか、活動家の地方議会での活動報告など独自コンテンツも用意する。
5月31日に公開された動画では、「前進チャンネル」開設3周年を記念して、LINEスタンプの制作も発表された。
動画の再生回数はそれぞれ数千回ほどで、今のところ、登録者数も含めてコロナ禍の前後で大きな増減はみられない。
活動家に聞いてみた
そんな中核派の活動に、コロナ禍はどう影響しているのか?
中核派全学連の副委員長も務めた、活動家の石田真弓さんに聞いた。
石田さんは「前進チャンネル」の動画に、キャスターとして出演している。
「同志のDIYで手洗い場」
――コロナ禍以降、活動への反響は?
「これまで私たちと一定の距離があった層からも『過激派が一番真っ当なことを言っている』という反応が、少なからず寄せられています。
差し入れを持ってきてくれる方まで現れるなど、共感してくれている方が少なくないことを実感します」
――活動における感染防止策は?
「“3密”状態を減らすことや、少しでも体調が悪い時には万全を期して仲間との接触を避けて、活動をしないようにすることでしょうか。
活動に関わっている方の中には高齢の方も少なくないので、リスク管理を怠れば仲間の生死にかかわる、ということを認識してもらえるよう注意喚起しています。
対応の早さということで言えば、かなり早い段階で前進社の入り口に手洗い場が新設されました。
しかも、業者を呼んでということではなく、前進社に住んでいる同志のDIYによるものだったので、あらためて革命党のたくましさに感心しました」
「緊急事態宣言以降は集会場を借りられない状態が発生していて、大人数で集まること自体が難しい状況であると言えます。
そうした中で、5月1日のメーデーには約400人が霞ヶ関に集まって、厚労省や文科省、首相官邸に申し入れや抗議を行うという、この状況下ではかなり大規模の行動がありました。
その際には、主催者からも“フィジカルディスタンス”をきちんと取って参加するようにアナウンスされ、当然ながら適切な対処をしながら活動が行われています」
――今後の具体的な目標は?
「私たちに問われていることは、民衆の側に力を持たせることができるかということ。
より具体的には、労働運動と学生運動を、巨大な規模で登場させられるかということだと考えます。
レーニン率いるボリシェヴィキは、第1次世界大戦の渦中に『侵略戦争を内乱へ』と掲げて、革命でもって戦争を終わらせました。
革命のスローガンは『パン・土地・平和』だったわけですが、人間が生きるために最低限必要なものを資本主義が保障することができない時に革命が起き、革命によって、その要求を実現したのです。
いまコロナ禍で私たちは、同様の課題に直面していると感じます」
「イスラム国」まねて党勢拡大?
果たして、中核派の訴えが世論を動かし、革命の機運が高まる可能性はあるのだろうか?
国際テロリズムに詳しい公安調査庁OBの安部川元伸・日本大学危機管理学部教授は、否定的な見方だ。
安部川教授は、「中核派などの日本の過激派は、世界中から若者を集めて組織を急拡大させた過激派組織『イスラム国』(IS)をまねて、党勢拡大を考えているのでは」と指摘する。
一方で、ISには「欧州などのムスリム移民たちの生活環境をよく把握し、差別されアイデンティティーを失った若者を取り込んだり、まがりなりにも『カリフ国』の樹立を宣言し、これを発展させるという明確な目標を用意したりする、戦略性と創造性があった」と分析。
これに対して日本の過激派は、スローガンが旧態依然で「主張に魅力を感じて仲間に入る人は稀だろう」と話す。
そのうえで安部川教授は、「若者の心をかき立てるような魅力ある闘争を組んでいかない限り、組織衰退の傾向に歯止めはかからない」として、中核派が今後、コロナ禍に乗じて支持を急速に広げるのは難しいとみている。