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いわゆる預託商法につき抜本的な法制度の見直しを求める意見書
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2019(令和元)年6月27日
栃木県弁護士会
会 長 山 田 実
第1 意見の趣旨
いわゆる預託商法のうち,事業者による物品の販売と,販売業者又はその関連業者が収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている形態のものについては,金融商品取引法の「集団投資スキーム」に該当すること並びに登録制及び行為規制の適用対象となることを明確にするよう,金融商品取引法及び関係法令を改正すべきである。
第2 意見の理由
1 預託商法の定義と問題点
預託商法とは,消費者が購入した商品を,販売業者やその関連会社に預託して運用を委託し,運用に基づく配当その他の経済的利益を受ける取引をいう。
これら預託商法の多くは,消費者が業者から商品を購入し,同時に購入した商品を業者に一定期間レンタルするなどの契約を締結しているものの,商品の引渡しや所有権移転は著しく形骸化しており,実質的には,消費者が「第三者への商品のレンタル事業」に対し出資をし,当該事業の収益からの配当を受領するという投資契約としての側面がますます顕著になりつつあると言える。
このような預託商法においては,消費者は購入した商品が現存するか否かを確認できないし,当該商品が運用されている実態も把握できない。そのため,購入した商品が実際には存在しなかったり,運用する事業の実態を欠くようなケースが多く,いずれ業者が破綻し,約束どおりのレンタル料はおろか元金すら返還されないという事態が頻繁に生起している。
2 ジャパンライフによる大規模消費者被害の発生
主に高齢者をターゲットに「レンタルオーナー制度」を全国展開(80店舗)していたジャパンライフ株式会社(以下「ジャパンライフという。)は,消費者庁から4度の行政処分を受けたにもかかわらず事業を継続していたところ,平成29(2017)年12月26日に銀行取引停止処分を受け実質的に破綻するに至り,債権者申立てにより,東京地方裁判所にて,平成30(2018)年3月1日付けで破産開始決定がなされた。
ジャパンライフの「レンタルオーナー制度」は,顧客が磁気治療機器商品等を購入し,購入した商品を同社に預託した上で,第三者(レンタルユーザー)に賃貸することによって,顧客に賃貸料が支払われるという取引であり,典型的な預託商法であった。
報道等によれば,本事件の被害者は全国で約7000人,被害総額は約2400億円とされている。我が国における大規模消費者被害としては,安愚楽牧場事件(被害者数約7
3000人,被害金額約4207億円)に次ぐ被害金額であり,豊田商事事件(被害者数約3万人,被害総額約2000億円)と併せて,被害金額の上位3件が,いずれも預託商法の手口で敢行されていたことになる。
3 現行法制度の状況とその問題点
(1)特定商品等の預託等取引契約に関する法律
豊田商事事件を契機に制定された「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」(以下「預託法」という。)は,政令指定商品について,3か月以上の期間にわたり,政令指定商品の預託及び当該預託に関し財産上の利益を供与することを約し,契約者(消費者)がこれに応じて当該商品を預託することを約する契約を,預託等取引契約と定めている。その上で,同法は,預託等取引契約に対し,①正確な情報提供(書面交付義務,業務・財務書類閲覧等),②契約離脱権(クーリング・ オフ,中途解約権),③行為規制(不当行為の禁止)を定めているほか,行政権限として,指示対象行為の規制(同法第5条),報告徴収・立入検査権(同法第10条),業務停止命令・指示処分(同法第7条)といった規制を定めている。 しかし,預託法による規制は,政令指定商品にしか及ばない。また,参入規制(登録制等)は導入されておらず,主務省庁に対する業者の定期的な報告義務等は定められていない。
(2)金融商品取引法
預託商法は,商品の預託を受けて運用し利益配当を行う点で,金融商品取引法の「集団投資スキーム」と競合する場合がある。「集団投資スキーム」とは,出資者から金銭又は金銭に類するものの出資・拠出を受け,その財産を用いて事業・投資を行い,当該事業・投資から生じる収益などを出資者に分配する仕組みをいう。そして,預託商法は,顧客が事業者から商品を購入し,これを事業者に預託するという形態であるため,購入物品拠出型集団投資スキーム(顧客が金銭を拠出し,事業者が顧客のために対象物品を購入し,顧客が所有する対象物品を用いて事業を行い配当する取引,施行令第1条の3第4号)に該当することとなる。しかし,現行法令では,購入物品拠出型集団投資スキームとして,競走用馬のみが指定されている(金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令第5条)にとどまるため,それ以外の物品も広く集団投資スキームに該当することを明確にする法令改正が必要になる。
4 具体的方策の提言
(1) 金融商品取引法による規制
以上のように,預託法によっては預託商法に対して十分な規制を及ぼすことができていない。
他方,金融商品取引法においては,預託法の上記問題点(政令指定商品の限定,参入規制,主務官庁への報告義務)に対応する規制がなされているため,同法の規制対象を拡大し,同法の規制を預託商法に及ぼし,実効的な被害拡大防止を図るのが最も簡便かつ効果的な方策といえる。
金融商品取引法の規制を預託商法に及ぼすことで,以下のように預託商法による被害を効果的に防止することが期待できる。
ア 登録制
預託商法業者は,集団投資スキーム持分の自己募集を行う者として,第二種金融商品取引業の登録を要することとなる(金融商品取引法第29条)。
登録審査に当たっては,当該スキームが,出資法以下の金融法制に照らし許容されるものか否かについても確認する仕組みとし,事業スキーム自体が出資法に抵触するおそれがあるような場合には登録を認めないという制度運用も可能である。悪質な預託商法では,スキーム自体が出資法違反の疑いを禁じ得ないものが多く,このような商法・業者を入り口の段階で排除する運用の整備も視野に入れるべきである。
無登録営業に対する罰則は5年以下の懲役,500万円以下の罰金(併科あり)であり,無登録で営業したということだけで摘発できるので,違反の場合は迅速な対応が可能である。
イ 行為規制
第二種金融商品取引業者には,顧客に対する誠実義務(金融商品取引法第36条第1項),名義貸しの禁止(同法第36条の3),広告等の規制(同法第37条),契約締結前の書面の交付(同法第37条の3),契約締結時等の書面の交付(同法第37条の4),断定的判断の提供の禁止(同法第38条第2号),説明義務(同法第38条第6号,金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第1号),内閣府令で定める行為の禁止(同法第38条第8号),適合性の原則等(同法第40条),分別管理が確保されていない場合の売買等の禁止(同法第40条の3),金銭の流用が行われている場合の募集等の禁止(同法第40条の3の2),の各種行為規制が課せられており,被害発生の防止が期待できる。
ウ 主務省庁による監督
第二種金融商品取引業者に対しては,事業年度ごとに事業報告書を提出(同法第47条の2,金融商品取引業等に関する内閣府令第182条第1項),報告の徴取及び検査(同法第56条の2),緊急差止・停止命令(同法第192条)といった主務省庁の恒常的かつ継続的な監督権限が整備されている上,被害発生の懸念が生じた場合には,事業継続そのものを強制的に停止させる権限も付与されており,被害拡大の防止が期待できる。
エ 契約類型別によらない行政処分
預託商法は,対象となる商品が多種多様であるだけでなく,形式的な契約態様も様々なものを用いることができることから,ある特定の契約態様について業務停止等の行政処分を受けたとしても,事業者は,形式上の契約態様を変更して,実質的に同じ預託商法を継続できてしまう。
そのため,預託商法を「集団投資スキーム」として金融商品取引法を適用できるのであれば,問題ある預託商法については,緊急禁止・停止命令(金融商品取引法第192条)にて一回的な処分による全面的な業務停止を行うことが可能となる。
(2) 具体的な改正案
以上のように,預託法における規制に不備があり,大規模な消費者被害が続発している現状においては,早急に預託商法にも金融商品取引法の規制を及ぼすよう立法措置を講じ,預託商法における被害拡大を防止する必要がある。
そこで,預託商法のうち,事業者による物品の販売と,販売業者又はその関連業者が収益の配当を約して当該物品の預託を受けることが一体的に行われている形態のものについては,金融商品取引法の「集団投資スキーム」に該当すること並びに登録制及び行為規制の適用対象となることを明確にするよう,金融商品取引法及び関係法令を改正すべきである。
以上