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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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328 Bランクパーティ 1

「あなた方は?」

「ああ、わりわりィ、ただの、たまたま隣のテーブルにいただけのハンターだ。

 いや、嬢ちゃん達が、若いのにこんな宿を利用してっからよ、ちょいと気になって見ていたら、結構旨いここのメシを割と酷評してるもんで、思わず声を掛けちまっただけだ。すまねぇな!」

 誰何したマイルに、そう言って笑う、髭面のハンターの男。年齢は30歳過ぎくらいであろうか。そして、それを呆れたような顔で見ている、パーティ仲間らしき4人の男女。


 この宿を使っているということは、金回りのいいパーティなのであろう。ここに泊まるのは、普通はBランク以上であり、Cランクでこのレベルの宿を常宿にするのは、余程良い常時指名客おとくいさんを抱えているか、貴族や金持ちがリーダーを務める『若いうちに楽しみたいパーティ』か、『お遊び接待パーティ』くらいである。

 いや、勿論貴族や金持ちにも本気でまともなハンターを目指す者がいるが、そういう者達は、普段の生活費は自分達の稼ぎだけで賄おうとするから、こういう、少し高価格帯の宿に泊まったりはしない。実力でBランク以上に成り上がった者達を除いて。


 そしてこの連中は、全員、どう見ても貴族や金持ちの商人の息子とかには見えなかった。

 武器は部屋に置いてきたらしく、見ただけでは職種ジョブは分からないが、見た目だけで判断するならば、前衛職らしき男性がふたり、中衛か後衛らしき男性がひとり、そして後衛らしき女性がふたり。皆、20代後半から30代半ばくらいであり、バランスの取れた、典型的なパーティ構成である。

 ……いや、勿論、ガチムチ男が魔術師だったり、スリムで華奢な女性が剣士だったりする可能性も、ないわけではないが……。


 ということは、お遊びや接待パーティではなく、かなりの実力があるパーティということであろう。それに、悪意のある絡み方というわけではなく、ただ、背伸びした新人パーティに、ちょっと茶々入れしただけのようである。

 本当に実力のある者達は余裕があり、下位の者達に絡んだり嫌がらせをしたりすることはない。そういうのは、自分に自信がなく、偉ぶらないと自分が馬鹿にされそうな気がして落ち着かない弱者が取る行動である。


「ごめんね、うちの馬鹿が絡んじゃって……。

 でも、新人が無理してこんな高いところに泊まっちゃ駄目よ。いくら安宿はお風呂が無かったり変な男に絡まれたりするからといっても、とぼしいパーティ資金を無駄遣いしちゃ……」

「それに、ここの料理が70点台とか、普段から贅沢し過ぎだろ! そんなんじゃ、資金が貯まる貯まらない以前の問題として、長期間の野営とか、耐えられないぞ。あの、石のような堅パン、味の薄い乾燥スープの素、碌に香辛料の利いていない干し肉とかが続く数週間とか……。

 とにかく、新米が無理して背伸びするのは感心しないな。分相応、というか、身を弁える、というのが大事だぞ!」


 魔術師らしき女性と、最初に声を掛けてきた男とは別の、剣士か槍士らしき男性が、『先輩からの、ありがたい御指導』というような言い方で、忠告してくれた。

 後輩のためを思って、というよりは、明らかに、『若い子達を教え導く私、カッコいい!』という、自己陶酔のためのパフォーマンスっぽい。

 いや、確かに、新人のためによかれと思ってのことなのであろう。多分ふたりとも、そう悪い人物ではないのであろう。

 ……ただ、そのドヤ顔が、少々ウザかった。


 イラッ……


 レーナは、イラついていた。

 勝手に話に割り込んで、ドヤ顔での、的外まとはずれな御高説。

『貧乳呼ばわり』、『ちゃん呼び』、そして『頭を撫でる』にぐ、レーナに対する禁忌、『上から目線での御高説』である。レーナがイラつかないわけがなかった。

「……余計なお世話よ!」

「「「「「え……」」」」」

 新米の少女達が、大先輩からありがたいアドバイスを戴き、感謝してお礼を言う。

 Bランクになってから、そのパターンが多く、それを『後輩達に指導をしてやり、感謝されている』と思っていた彼らは、レーナの予想外の反応に驚きの声を漏らした。

 そして、イラつくレーナをいつも宥め、抑える役割を担うメーヴィス、ポーリン、そしてマイルの3人は……。


 イライライライライラ……


 イラついていた。

 死をも覚悟し、友の腕を失わせ、そして九死に一生を得て、疲れ果てて帰還。

 やっと、そこそこ美味しい料理を食べながら仲間内で楽しく歓談していたところに、自分達がマウントを取っていい気分になりたいがために話に割り込み、的外れの御高説を賜る。

 さすがに温厚なメーヴィスとマイルも、イラつくのは仕方なかった。

 ポーリン? …………ははは。


「マイル、これが、マイルが以前言っていた『老害』というやつかな?」

 まさかの、メーヴィスからの悪態である。それも、アラサー女性ふたりを含むパーティにとっては、かなり辛辣しんらつな……。

「ハンターは、実力と実績が全て。見た目やお金の使い方で他者を馬鹿にするのは、それでしか相手の力を測れない者がやることですね。

 しかも、相手が充分なお金を持っているから、それに応じた使い方をしているだけ、ということには思いも至らない。自分の尺度でしか物事を測れない者がよくやることですね」

 ポーリン、どうやら自分達のお金の使い方にケチを付けられるのは我慢できないらしい。

 そしてマイルは……。

「間抜けな言動が許されるのは、子供のうちだけですよねぇ。20歳過ぎて、って、アイタタタタタ……」

 容赦がなかった。

 マイルは、頭の回転が速く、言葉遊びが大好きである。そのマイルが、本気で他者を罵倒しようと思えば、カリフォルニウム核弾丸のような威力の言葉が、自動小銃のような発射速度で撃ち出されることであろう。


 ……運が悪かったというか、タイミングが悪かったというか……。

 普段であれば、レーナ以外の者達が事を荒立てるような真似をするはずがなかった。いくらウザくはあっても、別に彼らはそんなに悪意があったわけではないのだから。せいぜいが、お愛想笑いをしながら頭を下げて、レーナを宥めるくらいであったろう。

 しかし今は、身も心も疲れ果て、短時間の睡眠で身体は少し休めたものの、疲れてささくれ立った心を仲間達との他愛のない会話で癒やそうとしている、とても大事な時間であった。他者からは、ただの仲間内での普段の会話にしか見えなくとも……。


 つまり、隣席のハンター達にとっては、子猫の顎の下を掻いてやったつもりが、それは子猫ではなく超小型種の虎(手乗りタイガー)の成獣であり、しかもその場所は、竜で言うところの『逆鱗げきりん』が生えている場所に相当した、というくらいの不運であった。

 まさに、『野良犬に噛まれた』というくらいの不運。

 しかし、わざわざ自分から近寄って手を差し出したのであるから、噛まれたからといって、文句を言える筋合いではなかった。


「「「「「…………」」」」」

 そんなに悪気があったわけではないのに、思わぬ反撃を受けて大ダメージのハンター達。

 ……特に、アラサーの女性ふたりのダメージが甚大であった。

 これが普通の宿屋であれば、激昂したハンター達が席を立って、となるところであるが、さすがに高級な宿屋を定宿にしている『余裕のある上級ハンター』である。自分達が余計なことを言って負けん気の強い若者の気分を害した、という自覚があったのか、そのまま黙って引き下がった。

 ベテランハンターの、新米の暴言に対する対応としては、非常に温厚かつ大人の対応である。

 食堂にいる他の客達の多くは、主に他の街から来た少々羽振りが良い商人達である。彼らは、がっくりしたハンター達の様子があまりにも気の毒で、俯いたまま、黙って食事を続けていた。


「「「「あ……」」」」

 少し頭が冷え、周りを見回したレーナ達は、さすがに自分達の失言に気が付いた。

 別に喧嘩を売られたわけでもないのに、自分達の機嫌が悪かったというだけで、酷い言葉を吐いてしまい、他の人達まで不快にさせた。それも、皆が楽しいひとときを味わうべき食事の場において。

 それは、食事に拘るマイルのポリシーに反するし、勿論、他の3人にとっても恥ずべき行為であった。


「「「「ごめんなさい……」」」」

 しょんぼりとして謝る4人。

 そして、ハンター達も軽く片手を挙げた。

「いや、こちらも、少し無神経だった。すまんな……」

 どうやら、険悪な関係になることなく、無事、仲直りできたようである。



昨日(15日 月曜日)、『ポーション』コミック、連載更新!

水曜ではなく、月曜更新に変わったことを忘れていた人は、今すぐwebコミック誌「水曜日のシリウス」へ!(^^)/

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