▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
321/526

321 死 闘 1 ~燃えよ古竜(ドラゴン)~

 戦いを任せられた古竜は、どしん、どしんと、ゆっくりと『赤き誓い』に向かって歩み寄り始めた。

 ブレスなどを吐いたのでは一瞬で終わってしまうし、手加減のしようもなく、人間達が全滅してしまう。なので、最初は人間達に一方的に攻撃させてやるつもりであった。人間達の必死の攻撃、というもののレベルを見てみたかったし、それくらいで傷付くようなウロコではない。

 他の下等生物とは違い、神の御加護を受けし高等生物である古竜は、生まれた時からその身体に強固な防護魔法がかかっているのである。なので、死んでその魔法が消えるまでは、下等生物如きの攻撃でそのウロコや外皮を貫かれるようなことなど、まずあり得ない。


 他の2頭は、別に楽しい見世物を見物するような風でもなく、人間には無表情に見える顔で静かに見ているだけである。まぁ、仲間が無力な小動物を一方的に殺す場面など、まともな者にとっては、見ていてあまり楽しいものでもあるまい。


「先手を譲ってくれるようですね。では、作戦通り、とりあえず他の2頭が手出しする前に1頭を瞬殺、4対2にして勝利の確率を大幅に上げます!」

「「「おお!!」」」

 普段は、対外的な交渉はメーヴィス、戦闘指揮はレーナが担当する『赤き誓い』。

 しかし、そのふたりの知識や経験が役に立たない非常事態においては、マイルが指揮を執る。それが、『赤き誓い』の暗黙の了解であった。

 異常事態には、異常物をぶつける。

 非常事態には、非常識なものをぶつける。

 それは、とても正しいことに思えたのである。マイル以外の3人には……。


「ゼロゼロ魔法第1号。岩石オープン(いわよ、ひらけ)!」

 勝てる確率、ゼロ。

 生き延びられる確率、ゼロ。

 その、『ゼロゼロの状況』を打ち破り、友を護るための必殺の魔法、『ゼロゼロ魔法』。その、第1号。

 ポーリンが、己の全てを懸けた最大最強、そして最凶にして最狂の魔法を詠唱し、近くにあった優に3メートルはありそうな岩塊が、その身に纏った不要部分を振り落とす。

 そして中から現れた、真の姿。

 ねじくれた、1本の太い槍。

 そう、『ドリル』である。

「回れ回れよ、天を回らし戦局を逆転させるために。我が恩人、そして我が友を護るため、この一撃に、我が全てを込めて!」


「燃えよ我が命、燃えよ我が魂! お父さんと、『赤き稲妻』のみんなの想いを受け継いだこの身が、こんなトカゲ風情のためについえることなど、許されない。許される、わけがないぃ!」

 眼が、ぐるぐると渦巻き模様になっている、レーナ。おそらく、正常な精神状態ではあるまい。


「頼んだぞ、ミクロス!」

 そして、5本の容器の中身を一気にあおるメーヴィス。

「我が愛剣よ、友のため、その真の姿を現し、我に力を!」

 その言葉に応え、金色の粉を振り落とし、禍々しく、かつ神々しい輝きを放つメーヴィスの愛剣。


「ナノマシン! アイ、コマンド、ユウゥ……」

 そして、マイルの、唸るような呪文が響く。

「栗原海里、アデル・フォン・アスカム、そしてマイルが命ずる。我が命令を、最優先で受諾せよ!」


 小動物が、何やら必死であらがおうとしている。

 健気けなげで、愚かで、みじめで悲しい、悪あがき。

 半殺しで助けてやるより、一思いに、痛みも苦しみも感じぬまま消滅させてやった方が、この者達にとっては慈悲深い行為となるのではないか。

 古竜が、そう考えた時。


「シュート!」

「ファイア!」

「うおおおおおぉ!!」


 飛来する、土魔法による岩の槍と、火魔法。そして、剣を構えて走り寄る、無力な剣士。

 わざわざ、防御魔法を張るまでもない。この程度であれば、自前のウロコと外皮、そして生まれた時から身体に纏っている強化魔法だけで充分である。

 何もせずとも、無傷。隙を衝くことも奇襲も、何の意味もない。そもそも、他の生物とは生命体としての位階が異なる、絶対不可侵の神の眷属。それが古竜であり、その無敵の神話が……。


 どすっ!

 ぼわっ!


『ぎゃああああああ!!』


 腹にめり込んで砕け、ごつごつと尖った岩の破片が体内に食い込み。

 頭部が炎に包まれた。

 ただの岩の槍など、ウロコと外皮で跳ね返せるはず。

 そしてただの火焔であれば、魔力の奔流ほんりゅうなので一時的なものに過ぎず、頑強なウロコと外皮で防ぎ切れたはず。

 それが、体内に食い込んで弾け、頭部を包み込んだまま消えない。


 いくら自分達で『神の眷属』などと名乗ったところで、古竜も、酸素を取り入れて生命活動を維持する、普通の動物に過ぎない。

 なので、空気を取り入れる器官の周りを炎で覆われ、その空気から酸素を奪われれば。

 吸い込む空気が高温となり、肺を焼かれれば。

 いくら火焔を吐くとはいえ、別に古竜の体内が高熱に耐えられるというわけではない。あれは、ただ単に口蓋部のあたりに魔力を集中し、それを吐き出しているだけであり、口蓋部から放たれた後で高温のブレスになるのである。

 ……そう、別に体内から口蓋部にかけてがブレスの火力に耐えられるようにできているわけではない。体内に『火焔袋』とかいう内臓があるわけではないのである。

 なので、酸素を含まない高温の空気を肺に吸い込むと……。


『コヒュー、コヒュー、コヒュー……』

 胸を内側から焼かれ、息ができない。

 そして、腹に食い込んだ多数の岩の破片がもたらす、耐え難い痛み。

 古竜に生まれて数百年、仲間内でのお遊び闘技会以外では痛みや苦痛など感じたことがない身体に、初めて襲い掛かる『本当の、苦痛』。

 必死で両腕を振り回し炎を振り払おうとするが、なぜか炎は一向に振り払えず、消えることもない。


『ア……、ガ……、ガ……』

 ちゅん!

『ゴヒュ!』

 そして古竜の腹をひと筋の光線が貫き……。


どしゅ!

『グアッ!』

 その光線に穿うがたれた穴に剣が突き立てられ……。

 ず……、ず……、ず……、ずばしゃああああぁっ!

 その腹が、斬り裂かれた。

 腹圧で、はみ出る内臓。

 ずぅん……

 白目を剥いた古竜の巨体が地面に倒れ、ひくひくと痙攣していた。

『『…………』』

 呆然とし、身動きもしない2頭の古竜。

 そして、狙い通り、相手が油断している隙に1頭を倒し、勝利の確率を大きく引き上げた『赤き誓い』。


『ルクレッド!』

 待機していた2頭のうち、片方の古竜が、倒れた古竜の名と思われる単語を叫び、立ち上がって飛び出した。

 ちゅん!

 そして、その鼻先を掠める、ひと筋の光線。

「……お相手は、私達ですよ?」

『くっ、この……』


 マイルは、仲間達の命が懸かっている時に、敵に情けを掛けたりはしない。

 相手をあせらせ、余裕を無くさせるためならば、非情にもなる。

 いくら相手が知的生物だといっても、突然一方的に理不尽な言い掛かりを付けてきて、自分と、そして大切な仲間達の命を奪うべく襲い掛かってきた、悪の手先なのである。

 そう、それは、ゴブリンやオーク、オーガ達と同じであった。何も配慮する必要などない。

「さあ、決着を付けましょう!」

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。