研究内容 Research
研究テーマ 1
- 全身の臓器(組織)に常在する組織マクロファージは、自然免疫細胞として身体のすみずみを監視しており、異変(微生物の侵入や組織障害)を感知すると、第一線で生体防御に働きます。また、分布する各組織に特徴的な機能も見つかり、生理機能やその維持に働くことがわかってきました。このように、健康を保つために必須ともいえる組織マクロファージですが、その起源が胎生期に卵黄嚢や胎児肝で作られる原始・胎生マクロファージ由来であり、出産前に各組織に移行した後は、生涯にわたって自己複製により維持されることがわかりました。
- 私たちは、iPS細胞からこの「うまれる前の細胞(原始・胎生マクロファージ様細胞: iMacs)」を生まれたての状態で作り出すことに成功しました(Takata et al., Immunity 47, p183–198.e6, 2017.)。
- 私たちはこの全身の機能や病気に深く関連する組織マクロファージの起源となる細胞に極めて近い細胞であるiMacsを分野横断型研究のプラットフォームを構成するためのリソースの一つとして考え、共同研究を進めることで全身の様々な難治性疾患(精神・神経疾患、生活習慣病やがん等)に対する細胞治療法のような新規治療法の開発を目指した研究に取り組んでいます。
研究テーマ 2
神経変性疾患に対する神経再生治療を目指した創薬研究
- もし我々ヒトが、失った神経細胞を再生する能力を有していたならば、自らの力で神経疾患のうちいくつかは克服できていたかもしれません。しかしながら、神経細胞は一度失ってしまうと再生できない細胞であることには変わりありません。この課題にアプローチするために、ヒト多能性幹細胞から特定の神経細胞を誘導する技術開発研究が進んでいます。ヒト多能性幹細胞は、自己複製能と多分化能を持ち合わせた細胞であり、私たちは、この細胞を用いて“個体形成の天然の設計図”である発生学から得られた知見を取り入れながら、神経細胞への運命決定を制御する研究を進めています。
- 現在、再生医療の分野では多能性幹細胞を用いた細胞移植技術やダイレクトリプログラミングなどを駆使して、失った神経細胞を補う治療法の開発が進められています。私たちは、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療に焦点をあて、これらの神経再生研究を題材にし、薬学的手法を導入することで、失われた神経回路網の機能形態的な再生を促す新規治療法の開発に繋がる基盤研究を進めていきます。さらにはヒトiPS細胞技術を応用し、学内外の研究者と共同して神経変性疾患の病態再現および治療薬の候補となるリード化合物の探索を行います。
- 1)発生原理の再現によるヒト多能性幹細胞を用いた器官形成研究
- 2)神経変性疾患に対する神経機能再生に関する創薬研究
- 3)ヒトiPS細胞を用いた神経変性疾患の病態再現研究
参考文献
- Nishimura et al.. Adv. Regen. Biol., 3, 31772 (2016)
- Nishimura et al., Stem Cell Rep., 6 (4), 511-524 (2016)
- La Manno et al., Cell, 167 (2) 566-580 (2016)
- Samata et al. Nat. Commun., 7, 13097 (2016)
- Nishimura et al., Stem Cells Transl. Med., 4 (8), 932-944 (2015)
- Nishimura et al., Biol. Pharm. Bull., 36 (2), 171-175 (2013)