光あふれる天の園。

 その果ての先を一目見んと、彼は金の草茂る原をザカザカと前に進み続ける。


 その身に供するものは一羽の鮮やかな羽根色をした大きな天の鳥のみ。広げれば彼の体と同じ程にもなるだろうその艶やかな羽から色とりどりの光をこぼしながら彼の周囲をゆっくりと飛び回っている。

記録をするものとして、一度は見ておかねばならないだろう?

 彼はそう言いながら果てを目指す。

 あるかも分からない天の果て。

 神々が暮らす園の終わり。

あるかないかはどうでもいいんだ。あればある、ないならないで、それを記録するだけだ

 そう言って満ちる光が段々と翳り始めても足を止めはしなかった。

もしかしたら寝の国との境があるのかもしれないし、国造りをしようとしてるあの子らがいる中の国の境があるのかもしれない。なんでもいいんだ。わからない、というのが一番いけない

 何日も何年も歩き続けて、いつの間にか中の国に起こる夕暮れ程度にまで光が減っても、立ち止まらなかった。

 その頃にはもう鳥の輝きの方がずっと強くて、その羽から溢れる光が彼のいく先を照らし出した。

 飛ぶのをやめて肩に乗った天の鳥は物言いたげに細く長く鳴くことが増えた。

恐ろしいならお前だけでもお戻り。私は此処が闇に満ちても止まりはしない

 そう話しかけた彼に、鳥は鳴くばかりで肩からは離れない。

 その体を撫で、彼は言う。

お前の賢しさはいつだって好ましいよ。歌はいつまで経っても上手くならないが

 鳥の光を頼りに前に進み続ける。

 見えるのはもう闇ばかりで、中の国のように星や月すら見えはしない。

 光あふれた天の園の果ての果てにこのような闇が続くなど誰が考えただろうかと彼は思ったが、光しかない世界などありはしないとすぐに思い直した。

 天の園に光が溢れるならば、その向こう側では影だってより濃い筈だ。

この先に果てはあるのか。それとも

 何もない闇が続くのか。

 記録するために歩み出した。


 果てがない事はどう証明すればいい?


 彼の思考に一筋迷いが生まれたその瞬間。

…………っ!?


 彼は、闇の中に。

 己を見る黒い目を、見た。


 闇の中で見えないはずの真っ黒の目が彼を見て。

 闇の中で見えないはずの真っ黒な手が彼に伸び。



           



 鳥が、聞いたことのない声で、鳴いた。

 彼を蹴り飛ばし、伸びてきた手の前にその身を晒した。




 手が、鳥を掴んだのを、彼は見た。




 気づけば彼は夕暮れほどの光満ちる草原で蹲っていた。

 全身から冷たい汗がだらだらと流れはぁはぁと荒い息を何度も繰り返し、時に咽せた。

 その肩にも周囲にももう鳥はいない。

 どれほどの時間が過ぎたかも忘れた頃にようやくよろよろと立ち上がりふらふらと鳥を探したけれど、見つからなかった。


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heim

お久しぶり、あるいは初めましてです。
もうすぐ更新も出来なくなり、綺麗に無くなってしまうだろうこの場所で、今更何を始めているのかと呆れる方もいるかもしれません。コレは立つ鳥による最後の一人遊び……もとい過去に頂いていたリクエスト『和風ファンタジー』の消化だったり致します。本当に遅れて申し訳ありません。
出来立てです。見直しが甘くて誤字脱字変換ミスなどありましたら遠慮なくお伝えください。こっそりと直します。
残り期間もない事ですし数日で一気に全54話を出す予定となりますが(全話一括更新は流石に厳しいです)、皆様お好きなペースで夏の暇つぶしにでもお使い頂ければと思います。なお一気に出す関係上、此処のコメントは大部分をすっ飛ばす予定です。

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