歩きスマホでトラブル多発 注意散漫、性犯罪誘発も
スマートフォンを操作しながら街や駅構内を歩く「歩きスマホ」。周囲への注意力が低下し、通行の妨げになる迷惑行為だ。画面に集中する女性を狙った痴漢行為が多発し、歩きスマホ中に犯罪の被害者となることも多い。自治体が禁止条例を定めるなど対策を強化する動きが広がっている。
建物の陰に隠れる不審者の存在に気づかず、背後から肩を触られても反応が遅れる――。3月、愛知県警が歩きスマホの危険性を訴える実験動画をまとめ、動画投稿サイト「ユーチューブ」に公開した。撮影には地元の女子高校生や大学生が参加。住宅街や公園で、スマホの画面を見ていると、周囲の異変に気づきにくいことを体験してもらった。
愛知県内では4月、10代の少女が夜にスマホを見ながら歩いて帰宅していたところ、突然、下半身を露出した男が現れた。画面に気を取られ、間近に寄られるまで気づかなかったという。2019年11月には同県の20代女性がスマホで動画を見ながら近所のコンビニに行く途中、自転車の男に後ろから尻をつかまれる事件も起きている。
県警幹部は「夜の被害が多い。暗闇にひそんだ不審者が画面の明かりを追いかけてくることもある」と注意を促す。
愛知県警には19年、スマホを見たり、音楽を聴いたりしながら歩いている状況で起きた、女性への痴漢・つきまといなどの被害情報が64件寄せられた。このうち、痴漢や強制わいせつといった、近寄られて身体を触られる被害が52%と半数以上を占めた。
歩きスマホがより深刻なトラブルや事故を引き起こすケースも目立つ。
警視庁は19年9月、東京メトロ千代田線二重橋前駅のホームで「歩きスマホ」をしていた女性会社員に体当たりしたとして、男性会社員を傷害容疑で逮捕した。女性は胸を打撲するけがをした。その後、不起訴処分となった会社員は「注意するつもりで体当たりした」と話したという。
18年7月にはJR東静岡駅(静岡市)で、当時14歳の男子中学生がホームに転落し、電車と接触して亡くなった。静岡県警によると、防犯カメラには男子生徒がスマホを見ながら歩き、ホームで足を踏み外す姿が映っていたという。
神奈川県大和市は6月、歩きながらのスマホの操作を禁じる条例案を定めた。罰則規定はないが、担当者は「歩きスマホで誰かとぶつかりそうになった経験は誰にでもあると思う。注意の意識が市民や社会に浸透してほしい」と狙いを話す。
京都府は14年施行の交通安全基本条例で「歩きスマホは慎み、道路交通に危険を生じさせないよう努めなければならない」と歩行者の努力義務を盛り込んだ。米ハワイ州のホノルル市では17年10月、罰則付きの禁止条例が施行。スマホだけでなくタブレット端末やゲーム機も対象で、初回の違反者には15~35ドルの罰金を科した。
愛知工科大の小塚一宏名誉教授(交通工学)によると、歩きスマホで歩行する際は通常歩行時と比べ、視野が約20分の1に狭まる。小塚さんは「歩きスマホは誰もが加害者、被害者になりかねない。自治体や民間企業で少しずつ禁止の動きを広げ、社会一般のマナーとして浸透させていくことが必要だ」と話した。