呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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最高評価をして下さった、Don★ 大学芋 HC-ちくわ 作者早く続き書いてくれ、楽しみだから さん。

高評価をして下さった、シュウ@リン 暴食の王 ☆ヒロピー☆ ミカヤ 黒猫アルバ クゥリきゅん救い隊 マクロ Afaca


さんの皆さん、ありがとうございます!




※内容を修正致しました。

先ず謝罪を。

少し構想がと言いますか、書いている内に調子に乗りすぎたので主人公周りがゴタついてました。ヒロインに関しましては、歌姫も入れようと思いましたが、やはり家入さんだけにしました。複数の女性を呪術廻戦では難しいと考えました。

休載にしていましたが、解除してゆっくりではありますが投稿していこうと思います。

なんだかなー……と、思いましたら低評価にしてお気に入りを外して下さって構いませんので、続く限りよろしくお願いします。





第三十四話  警告

 

 

龍已はかなり困惑していた。どれくらいかと言われれば、親友が年上の綺麗でえっちなお姉さんで初キスを済ませようとしていることを知ってしまった時のようだ。お前のことだぞケン。

 

 

 

長年呪詛師を殺し続け、ここ数年では呪霊を祓っている。そして癒えることの無い親友の死。それらが冷酷で冷静で、そう簡単に精神的負担を受けないと思われる龍已の心を、少しずつ、少しずつ蝕んでいた。蓄積していく負の感情。疲れた。眠い。殺意。怒り。小さなものから大きなものまで、強靭な龍已の心に棘を刺していた。

 

黒い、負の感情によって生み出された針。一つ一つは大した事が無くとも、数が増えれば増えるほど龍已が背負う黒いものは重くのし掛かっている。だからか、擦れ違う非術師が呪詛師に見えたのだ。有り得ないだろう。これまでの龍已ならば絶対に有り得ない。

 

完全に異常事態。それ故か、龍已の事が頭の中で9割を占める家入がすぐに察知し、基本的には頼らないクズ共改め、五条と夏油にSOSを出した。結果、2人は飛んできたし、ついでに歌姫まで飛んできた。メールって便利だよね。

 

 

 

「……これはどういう状況だ。俺の秘匿死刑でも決まったのか」

 

「大丈夫ですよ先輩。殺しても死ななそうな先輩を殺すんだったら、起きるまで待たないで悟が手を下しますから」

 

「俺にやらせんなよ。てか、センパ~イ。状況解ってる?俺達硝子からセンパイの事情を聞いてこうしてるんだからな?」

 

「龍已、あんたねぇ……疲れてるならそう言いなさい!黙ってたら解らないでしょう!」

 

「流石に先輩の様子がおかしかったんで、勝手に招集しました。すいません、先輩」

 

「……ふーッ。それは解った。確かに今の俺は異常を来している。だがな──────縛る必要は無いだろう?」

 

 

 

仕事が終わった後、家入の部屋に直接行ってすぐに眠った龍已は、目を覚ますと五条達の2年の教室、その真ん中に座らせられていた。それも腕を巻き込んで椅子ごと呪符の張られた縄で巻き付けられ、更に手首には文字が書かれた布でグルグル巻きにされていた。脚は自由だが、それだけだ。目が覚めたらこの状態だったので、普通に驚いた。無表情だが。

 

寝惚けた頭でボーッとし、脳が覚醒すると五条達と歌姫が前に勢揃いしており、自身の事を見ていた。この場に居ない新たな後輩の七海と灰原は、龍已の異常が戦いに発展してしまった場合、実力的に危険ということで自分達の教室で待機している。甚爾は単純に今日は非番である。

 

身動きが取れない。腕を動かそうとすればぎちりと縄が軋み、隙間が無いように割とキツく縛られているので皮膚が擦れて痛い。何時もは首に巻き付いているクロは、今や家入の首に巻き付いて、こちらを不安そうに見ている。安心させるように家入が頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに擦り寄っているのを見ると、呼んでも来なそうだ。

 

ナイフ一本有れば1秒以内に抜け出せるのだが、これでは手詰まりだ。『黒龍』も無いので術式は使えない。術式反転は使えるが、遠距離なんて使う必要が無い状況なので意味は為さないだろう。掌印も組めないので領域展開は出来ない。呪力にモノを言わせて千切りたいが、呪符で散らされてそもそも使えそうに無い。

 

これでは一方的に嬲られる。それでふと違和感。何故大切な後輩や恋人、尊敬する先輩が自身に害を与えると考えた?そんなことはしないだろう。本当に?絶対にしない。呪術師なのに?何故呪術師ならば害を与えると思った?俺が黒圓だから。……何故?

 

落ち着いて、深呼吸。頭を冷やせ。悟られないように、薄く小さく深呼吸をする。邪念を消せ。目の前の人達は敵なんかでは無い。そうしっかりと再認識していると、美しい青空のような瞳と目が合った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「──────待てよ」

 

「……ッ!!ぐッ……」

 

「悟……ッ!何をやっているんだ!」

 

「ちょっと五条!あんたいきなり……っ!!」

 

「歌姫先輩。少し待って下さい」

 

「硝子……でも……」

 

「五条が何か気付いたみたいなので、様子を見ましょう」

 

 

 

深呼吸を静かに行っていた龍已へ、長い脚を使って一歩で近くまでやって来た五条は髪を無雑作に掴んで、サングラスを下にずらして晒した六眼で、龍已の琥珀の瞳をほぼ零距離で覗き込んだ。五条家の歴史の中でも最強にして天才の五条悟の六眼は逃がさなかった。

 

深呼吸をしていた呼吸音は聞こえていた。そしてその時に、呪力とは違う黒いナニカが龍已の体から漏れ出た。息を吸って吐くという短い工程の中で一瞬だけ出たそれを、龍已が深呼吸をして精神を落ち着かせることで栓をし、中へ戻したようにも視えるそれを、五条はこれまでに視たことが無い。故に今の龍已の異常を出している原因の一つと直感した。

 

 

 

「何だ今の。センパイ。今何を()()()?」

 

「何の話だ……?」

 

「俺が視たことないモノが、センパイの体から一瞬だけ噴き出てきた。呪力でも何でもねぇ。今のは何だ?それがセンパイがおかしい事になってる原因だろ。呪いでもねぇ。縛り……でもねぇと思う。俺の六眼でも解らねぇもんを、勝手に戻すな」

 

「……俺は気を落ち着かせるために深呼吸しただけだ。何もしていない」

 

「……ダメだ。もう完全に視えねぇ」

 

「……?」

 

 

 

五条が一体何を言っているのか解らない。本当に解らないのだと伝えると、はぁ……と溜め息を吐いた五条が下にずらしたサングラスを掛け直して龍已から離れていった。突然の五条の問い詰めに、普通に混乱していた龍已もまた溜め息を吐いた。

 

夏油や家入、歌姫が何を視たのかという説明を五条に求める。別に隠すつもりも無いし、自身も殆ど何も解っていないので簡単に説明した。まあ、説明しろと言って説明されても、黒いナニカが出て来て戻っていったという事しか起きていないので、結論を出すには情報が少なすぎた。

 

何も解らないが、原因だろう事は一つ解った。ならばこれからどうするかという議題が上がる。詳しくは解らないが、非術師が呪詛師に見えるという龍已。日頃から呪詛師と邂逅すると捕獲ではなく、()()殺す。それはつまり、完全に非術師を呪詛師と認識した瞬間に、周囲の半径約4キロに渡る非術師は皆殺しになる。ということだ。

 

だが、それはあくまで可能性の一つ。龍已は強靭な精神力で非術師は呪詛師ではないと、自身に暗示を掛けて真っ直ぐ高専へ戻ってきた。例え、眠っている龍已に近付いて、触れて、2年の教室まで抱えて連れて来ても目を覚まさない程異常だとしても、龍已は異常の中に正常を埋め込んでいる。自身で無理矢理。

 

さてどうすると、4人が中腰で固まってコソコソと話している。耳の良い龍已でも聞こえない声だ。時折五条が顔を上げてこちらを見ながらニヤリと笑って話にまた戻ったりするのを見ていると、普通に嫌な予感しか感じない。やがて話が終わったのか、4人が此方に向かってくる。その表情の内半分は悪戯っ子のようで、1人は嬉しそう、もう一人は同情するような表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら龍已、口を開けなさい。はい、あーん」

 

「歌姫先輩。1人で食べられます」

 

「先輩。喉渇いてないですか?はい、お茶です。……あ、口移しの方が良いですか?」

 

「すまない、硝子。普通に飲ませてくれ」

 

 

 

龍已は両手に花だった。左には家入が。右には歌姫が居て、朝飯を食べさせようとしてくる。何故こんな事になったのかというと、解らない事尽くしでお手上げなので、疲れていて精神的に問題があるんだろ!溜め息も多かったし!となり、龍已を癒すために女2人で甲斐甲斐しく世話をしていた。溜め息が多いのは問題行動が多いからだぞ、クズ共。とは、家入の言葉。

 

取り敢えず任務は禁止な。と、五条に言い笑顔とサムズアップを受けて、夏油からは先輩モテモテで羨ましいですね。私は先輩の立場になりたいとは思いませんが。という言葉をいただいた。貶してるな?外道……じゃなくて夏油。

 

椅子に縛られていたが、解放された。しかし次に待っていたのは、家入と歌姫によるお世話尽くしだった。何をやるにも代わりにやろうとするので、自分でやると言うと叱られるのだ。休みがここ最近無かったのも知っているので、今日はとことん休めと厳しく言われている。

 

 

 

「あ、ご飯粒ついちゃった。動かないでね……はい、取れたわよ。じゃあ次はどれを食べたい?」

 

「……自ぶ──────」

 

「ん?」

 

「……鮭を下さい」

 

「分かったわ。はい、あーん……うん、良く出来ました」

 

 

 

「先輩、歌姫先輩に食べさせてもらってる間にマッサージしてあげますね。……わ、肩凝ってますね」

 

「……筋肉が殆どだから別にやらなくて──────」

 

「はい?」

 

「……頼む」

 

「任せて下さい。ん……ふっ……んん……はぁ……んっ……ふ…っ……んん……はぁ……どうですか、先輩。私の気持ちいいですか?良いんですよ、いっぱい気持ち良くなって」

 

 

 

もー、本当に早く今日という日が終わって欲しい。恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだ。なんで18にもなって先輩から、飯を食べただけで良く出来ましたと頭を撫でられなくてはならないのか。そもそも全て食べさせてもらっていて、それも恋人の前だ。本当に居たたまれない。

 

そして家入だ。筋肉だらけで脂肪が無い強靭な肉体なので、肩を指で押しても凝っているように思えるだけで、実際はそこまで凝っていない。なのにマッサージをしてくる。それも力を入れるときは前屈みになって口が耳元に来るので、何だか艶やかな声が囁くように聞こえてくる。年頃の男子にはキツいモノがあるということを今すぐに思い出して欲しい。

 

一体何のプレイなんだと言いたくなる状況だが、どうにか朝飯は凌いだ。羞恥心を大いに煽るものだったので変に精神的ダメージが刻まれたが、善意だと思えば悪い気はしない。やり方を少し考えて欲しいが。

 

 

 

「先輩」

 

「……なん──────」

 

「はい、ギューッ」

 

「…………………………………。」

 

 

 

夜蛾には説明をして、今日の高専のカリキュラムは無しになっているということで、家入は龍已の部屋へと向かった。部屋の主である龍已は難色示したが、家入がぐいぐい手を引っ張って行くのでついていくしかなかった。歌姫とは既に別れているので、此処には2人しか居ない。

 

部屋について中へ入り、適当に座ろうと思っていると、後ろに居た家入から声が掛かった。体ごと振り向きながら何だ?と聞こうとすれば、龍已よりも小さな体をこれでもかと真っ正面からくっ付けて抱き付いてきた。腕は背中まで回されてしっかりとホールドされている。顔を胸元にグリグリと押し付けられ、擽ったい。

 

何でいきなり?と疑問に思うが、別に拒む理由が無いので甘んじて受け入れる。棒立ちでいる訳にもいかないので両腕を家入の背中に回して抱き締めると、ピクリと反応した。しかし抱擁をやめる気は無いようで離れる気配がない。

 

部屋の中に入ってから立ちっぱなして抱擁しあったまま、5分が経過した頃、家入が前に進み出して押してくる。チラリと背後を確認するとベッドがあるので大丈夫だと判断し、押されるがままにベッドに近づいていった。

 

少し勢いを付けてベッドに倒れ込むと、一緒に家入も倒れ込んできた。寝転ぶ自身の上に乗って抱き付いている。どれだけ離す気が無いのだと苦笑いの雰囲気になりながら頭を撫でた。

 

 

 

「先輩」

 

「何だ?」

 

「知ってましたか?近々先輩を特級呪術師にするっていう話」

 

「……そうだったのか。まあ、広範囲の殲滅力を持つ俺を危険視して手元に置いておきたいというのが上の本音だろうな」

 

「それもあると思いますけど、実際先輩は強いですからね」

 

「強いだけでは特級にならんだろう。斜め上の位置付けらしいからな。五条と夏油もその内に特級となることだろう。五条は六眼と無下限呪術。夏油は呪霊操術。俺は黒圓無躰流と呪力量」

 

「斜め上の位置付けだったんだ。へー」

 

「稀少性ならば、硝子も相当なものだがな」

 

「先輩に褒められた」

 

 

 

緩い会話をしながらでも、家入は龍已の上から退かなかった。上に乗られて抱き締められ、代わりに頭を撫でるだけの状態が続く。龍已は家入が自身のことを気を遣ってリラックスさせようとしている事に気が付いている。一人で居ることでもリラックス出来るのだが、自身でも把握できる異常を抱えた状態で一人になるのは拙いだろう。

 

謂わば龍已の心を落ち着かせる事が出来る監視役が必要だった。そこで上げられるのが家入だけだろう。交際関係にあって、龍已が全幅の信頼を寄せている人物。近くに居て心からリラックスさせられるだけの存在。

 

そして誰も知らないかも知れないが、龍已は最早家入を傷付ける事は出来ない。故郷に居る親友達のことも、どんなことが有ろうと、どんな理由が有ろうと、傷付ける事は出来ない。彼の心は今、5本の支柱によって支えられている。普通はもっと多くの支柱により支えられているところを、彼はたったの5本だけ。

 

それも、その5本は連動していて、どれか1本でも欠けてしまえば、残りの4本も同じく崩れてしまう。そうなれば待っているのは、龍已の心の崩壊だ。心が強いと思われているようだが、決してそんなことはない。脆く壊れやすいからこそ、壊されないように行動しているだけだ。

 

 

 

「先輩の夢って何ですか?」

 

「突然どうした?」

 

「いえ、改めて聞いたこと無いなと思いまして」

 

「ふむ……硝子は俺の正体を知っているから話すが、呪詛師の殲滅だな。それ無くして平穏は無いと考えている」

 

 

 

両親を呪詛師の手によって殺され、何の関係も無い一般人を気分によって殺す呪詛師を見てきたからこそ言える言葉。一般人である親友達は呪詛師に対抗する術を持っていない。呪具を渡されて携帯していたとしても、呪術ありきの呪詛師相手だと数段劣ってしまう事だろう。ましてや彼等は戦う戦闘能力が無いのだ。

 

それ故の発言だったのだが、家入はその答えに満足していないようだった。胸板に擦り付けていた額を上げて顔を覗き込んでいる。気配からして納得していないのだろうなと察した。

 

 

 

「それは野望とか目的、目標ですよね。私が聞いているのは夢ですよ。もっとプラスになる答えを下さい」

 

「プラスに……?」

 

「誰かを殺さないと得られない達成感ではなく、こういう事をしてみたいとか、こんな光景を見たいと思うものです。いくら先輩でもそのくらいはあるでしょう?」

 

「俺の……夢」

 

 

 

言われて初めて考える……というのは言い過ぎかも知れないが、ここ最近で自身の夢なんて考えることは無かった。そんなことを考える暇が無いとも言えるだろう。龍已の担任である夜蛾の言葉だが、呪術師に後悔のない死は無い。その通りに、呪術界では1つのミスで命を落とす。

 

あの龍已であっても死にかけたことがあり、そこへ更に親友達のことを誰にもバレてはならず、黒い死神であるということもバレてはならないという、神経を使う日々を送っている。そんな彼にじっくりと自身の夢を思い描く時間なんてあるだろうか。

 

家入の頭を撫でながら、目を閉じて昔のことを思い出す。まだ龍已が小学生だった頃。道徳か何かの授業で自身の夢について考え、発表するという授業があった。周りは友達同士でどんな夢にした?やら、オレならこんな夢だ!と自信満々に子供らしく話している中で、彼はポツリと一人で夢について考えていた。

 

親友達は席が近いのに、何故かその時は自身だけが親友達から離れたところに席があった。偶然の席順であったので文句は別に無いが、皆で楽しくしている中で誰にも話し掛けられず自身の夢を考えるのは虚しかった。

 

 

 

『オレのしょーらいの夢は宇宙飛行士!』

 

『〇〇はケーキ屋さん!』

 

『ぼくは本屋さん!』

 

『オレなんてサッカー選手だもんね!』

 

(それがし)は剣の道を歩みとうございます』

 

『お前は生まれてくる時代間違えてない?』

 

 

 

『将来の夢……』

 

 

 

小学生の頃の龍已は困惑して見ていた。周囲の同級生達が、これが夢だと自信満々に語っている姿が。自身は何があるだろうか。自分で言っては何だが、親友の虎徹には勝てないが頭は良い。運動神経だってそこらのスポーツ選手にすら負けないと思っている。だが頭が良い人が就く仕事かと言われれば違う。スポーツ選手かと言われても違う。

 

代々受け継がれてきた黒圓無躰流の正式な継承者となった後は、何をすれば良いのか。その内女の子とお見合いをして嫁に貰い、子供を授かって自身が修めた黒圓無躰流を教えて引き継がせる。それは決まっている。ならばそれまでは何をすれば良いのか。それが今一解らない。

 

無表情で悩みながら、チラリと親友達を見る。どんな夢が良いか考えていて楽しそうだ。他の子達に負けず劣らず、授業を楽しんで笑っている。その時、その光景を見ていた龍已は胸の内にとても熱いものを感じた。瞬間、これだと感じた。

 

 

 

『俺の夢は──────“今”です』

 

 

 

楽しんでいた同級生達は何を言っているんだコイツという目を向けてきて、親友達ですらどういう意味だと少し考え、担任の先生からは困惑した表情と詳細を求められながら、龍已は満足そうな雰囲気をしていた。

 

言葉足らずの“今”。それには彼の全てを籠めた一言だった。気味悪がって誰も話し掛けてこない自分です話し掛けて、大きな声で親友だと言ってくれて、笑顔を向けてくれる親友達。手が掛からなすぎておかしい子供だろうに、愛情を注いでくれる両親。

 

龍已にはこれだけの人が居れば、もう十分だと感じていた。これだけ大切な人達が居れば、自身はこれからの日々も充実したものにしていくことが出来ると確信した。だから、“今”をこれからも続けていく。それだけを思っての言葉だった。

 

昔のことを思い出した龍已は目を開けた。視線を落とせば、小首を傾げる家入が居る。頭を撫でていた手を頬に持っていき、親指の腹で目の下辺りを軽く擦る。くすぐったそうにクスリと笑う家入を見て、ほんわかとした気持ちになる。

 

 

 

「俺は手に入れて、失ったものがある。とてもあの時の“今”とは思えない今を過ごしているが、本質は変わらない。……俺の夢は大切な者達が平和を享受しているところを見て安心していたい。それだけだ」

 

「……そうですか。それは平和で良い夢ですね」

 

 

 

──────平和を享受している大切な人を見るためならば、自身はどうなっても良い……という事ですか。……まあ良いですよ。私も先輩の大切な人の内に入っているだろうけど、先輩が傷付くなら私も一緒に傷付けば良いだけの話だし。先輩が地獄に行くなら、私も地獄に行く。先輩が居てこその私だし。……うわ、こう考えると私、先輩のこと好き過ぎじゃん。ウケる。

 

 

 

少し家入には把握しきれない言葉も聞いたが、概ねは理解出来た。つまりは大切な者達を護りたいということだろう。その為には、両親を殺したような、非術師に手を掛ける呪詛師を皆殺しにしたいと口にしている。五条が居るだけで呪詛師の活動がかなり減少しているのだが、黒い死神という存在もあって、五条の存在以上に呪詛師の活動を減らしている。

 

目をつけられれば殺されるという五条よりも、呪詛師は絶対に殺す実績ありの黒い死神の方が恐怖を煽る存在となるだろう。彼ならいつか、本当に呪詛師を皆殺しにしそうだなと思いつつ、彼の戦いは死ぬまで終わらないのだろうなとも思う。

 

傷だらけで、それでも歩みを止めない愛しの彼。そんな彼が進んで地獄に行くのならば、自身も喜んで地獄へ身を投じよう。それが異常だと理解していながら、やはりこれが自分らしいと納得した。離したくないし、離してあげられないことを実感しながら、家入は龍已を抱き締め続ける。

 

だが、こんな考えも頭の端でチラつく。龍已は呪術界に進んで入り込むつもりは無かった。少し色々とあったが、呪詛師を殺せればそれで良くて、上手いことやっていた。そんな彼が呪術界に足を踏み入れた時点で、上の連中に目をつけられているということ。彼が仮に自由を求めたとしても、周りは彼の自由を認めないだろう。

 

 

 

「はぁ……呪術界って面倒くさい」

 

 

 

「──────呪術界が面倒で下衆の集まりであることは、何時の時代も変わらん」

 

 

 

「──────っ!!」

 

 

 

家入は抱き締めていた龍已の体を離して背後に跳び引いた。非戦闘員ではあるが、今の龍已の気配がおかしいことくらいは解るつもりだ。声のトーンが変わり、気配も変わった。そして今までで一度も見たことがない()()()浮かべている。

 

率直に言って悍ましいと思った。彼はこんな風に笑わない。龍已ではないナニカが龍已の皮を被って笑みを浮かべるのが、ここまで不快で気持ち悪いものだとは思わなかった。そんな龍已とは言えない龍已が、警戒している家入を眺めながら上半身も起こし、両の手の平を見せて敵意が無い事を示した。

 

 

 

「あんたは誰。先輩に何をしたの?」

 

「儂が何者であるか……それを知る必要は無い。例え知るとしても、それは知るべき時に知れる事だろう。故に儂は儂()を明かすつもりは無い。そも、儂は今の黒圓龍已に起きている異常について話に出て来ただけだ」

 

「つまり、昨日先輩がおかしかったのはあんたの仕業ってこと?」

 

「そうであるし、そうでないとも言える。この肉体に疲労が溜まっているから、怨念と少し共鳴しただけよ。休めば元に戻る。()()()()()少し過激な奴が居おってな。其奴の気持ちの強さが有ったのも否めぬが」

 

「……あんまり要領を得ないんだけど、何を言ってんの?」

 

「疲労を回復させれば良いだけの話よ。良いか、儂が出て来た事を他者に話すな。特に黒圓龍已には絶対にだ。話した時、()()()()()()()()()。そしてこれだけは覚えておくが良い。お主を含めた()()はとても強固な楔だ。それが千切れた時、()()()()()()()()()()()()()()()()。そうなれば、呪術師(お主等)に未来は無い。もう儂の意思で出て来ることはないが、儂が言ったことを努忘れるな──────」

 

「……今のは何?二重人格……とは違うみたいだし……。まるで、中に全く違う存在が居るみたいな……。五条が言ってた良く解らないものの正体?」

 

 

 

言うだけ言って、龍已の体に乗り移っていた謎の存在は引っ込んでしまい、龍已は糸の切れたマリオネットのように起こした上半身を倒してベッドに横になり、静かに寝息を立てている。

 

突然のことだった。何の脈絡もなく龍已が不思議な現象に陥っていた。だが得られたこともある。龍已がおかしい事になっていたのは、疲れが原因であったことと、彼の内側に居るナニカが干渉してしまったからということ。そしてもうこれから、話していた存在が表に出て来ることは無いということだ。

 

未完成が完成する。怨念。5人という楔。少し解らないものもあったが、そんな訳の解らないものを無理に知ろうとして龍已を危険に晒すことは出来ない。ここは一先ず、あのナニカが言っていた通り、誰にも今起きたことは話さないと、家入は心に誓った。知れるときは必ず来る。その時を静かに待とうと思いながら。

 

 

 

 

 

眠りについてしまった龍已がその後、揺らそうが突こうが起きることはなく、目を覚ましたのは次の日の朝だった。

 

 

 

 

 






五条

六眼で偶然黒いナニカに気が付いた。だけど何なのかは全く解らなかった。呪いでも無いし、誰かの術式によるものでもない。何なんだ??





歌姫

龍已にあーんをしているときは、こんな弟が居たら可愛いのになーと思っていた。気分は雛鳥にご飯をあげる親鳥。いや、それ弟じゃないじゃん。




家入

龍已をリラックスさせる為に体を張った(本望)

おかしな事になっていることを気にしていて、その原因が龍已の内側に居る者の所為であるのと疲れであるということが知れてホッとしている。是非とも内側の奴は表に出て来ないで欲しい。

5つの楔というのが気になっている。言動からして龍已が本当におかしくなるのは、この楔に数えられている5人の身に何かあった時だと推測していて、自身は非戦闘員なので大丈夫だとは思っているが、残りの4人をどうしようかと悩む。




龍已

何か途中で記憶が無くなっていて、目が覚めたら朝日が昇っていた人。どういうことだ?と首を傾げる。

隣に裸の家入が居て、自身の着ていた服が全て脱がされて全裸となり、部屋の中がとんでもない匂いになっているので大体察した。けど察しただけで、えぇ……嘘だろ……?と思ってる。




????

警告するために表へ出て来た。現在5つの楔があるが、これが壊れたら完成することを確信している。警告はしても助けはしない。




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