「竜とそばかすの姫」レビュー 危険すぎるメッセージと脚本の致命的な欠陥(1/3 ページ)
細田守監督最新作「竜とそばかすの姫」レビュー。
「竜とそばかすの姫」を見た後、はらわたが煮えくりかえっていた。
仮想テクノロジーによる没入型SNSという「サマーウォーズ」のアップデート、家庭内、社会内で孤立する若者を描いた「おおかみこどもの雨と雪」の延長線、何より「時をかける少女」との演出的な相似性。これまで氏の作品を見続けてきた者として、本作を総決算として見るのは非常に容易だ。むしろ細田守監督もそのつもりで本作に向き合っているのだろう。
結果、本作は市場が求めていた細田映画の再来として好調なスタート。細田史上最大のヒット作になるとの予想も出ている状態だ。だがそれと同時に逆の集大成――すなわち、過去作でも度々言及されてきた細田作品の負の側面、すなわち「社会システムへの根本的な不信」、それを原因とする「脚本の致命的な欠陥」。加えて結果として出力されたものが受け手側に示す「歪んだメッセージ性」があらためて浮き彫りになった。このような作品を「全世代向け夏休みアニメ」としてひろく上映することの危険について、強い懸念を覚えている。
※以下、「竜とそばかすの姫」のネタバレを含みます
社会システムへの根本的な不信
既に多くのレビューで触れられているが、本作には成人による子どもへの虐待描写が含まれる。物語後半、それをネット上のストリーミング配信で目撃した主人公・すずたちは、彼らの住所を少ない手掛かりから特定し、児童相談所と思しき場所に通報を行う。そこで出てくるのが「48時間ルール」だ。
これは2007年、児童相談所運営指針の改定として全国的に取り入れられたもので、通告を受けた児童相談所が原則48時間以内に子どもの安全確認を直接行わなければならないというものだ。このルールについては、現実に徹底できていない問題が長年指摘されており、2019年の札幌市・2歳児童虐待死の際にも大きく報道された。
しかし作中、主人公の友人・ヒロは虐待が行われる瞬間をしっかりと録画している。それをもとにしかるべき機関に任せる、というのが本来行うべき対応だろう。ところが通報口の相手が48時間以内の対応を原則としており、即座に動いてくれるとは限らないと知るや、すずは遠く離れた東京に向かって走り出す。
もちろん、子どもたちだけの行動であれば「今すぐ行って助けなければ」となるのは分かる。ただこのシーンでは、それなりに年齢を重ねた地域の大人たち、合唱隊の面々がしっかりとすずに付き添っており、助言を行うこともできた。しかし彼女たちは、「行かなきゃ……」と飛び出していくすずをあろうことか駅まで送り、深夜バスに乗せ、ひとり虐待親の待つ武蔵小杉まで放り出すのである。すずもまた子どもであるにもかかわらず。
脚本の致命的な欠陥
すずの行動は、彼女の母が行った、自己犠牲に伴う少女の救出と対比される。反復を分かりやすくするため、劇中でわざわざ雨まで降らせているわけだが、であればすずの周りにいた大人たちは何に当たるのか。あの時川辺で危険にさらされていた子どもを眺め、何もせずにいた「傍観者」である。
合唱隊のメンバーはすずを物理的に誘導しているだけ、よりタチが悪い。あれでは濁流の川を前に、ただライフジャケットを手渡したようなものだ。時折インサートされる集合写真、及び小説版での“(すずは)私たちの子供みたいなもの”との描写があるが、あれで親代わりとするにはあまりにも無責任である。
彼女たちはそもそもの立ち位置・行動が矛盾しており、またそれを正当化するほどの性格の描き込みが行われているわけでもない。残念ながら、物語上「すずを駅まで運ぶ」以外の要素が与えられていないのである。
そして、実のところ彼女たちがいなくても、舞台を田舎にせず、すずが自転車等で武蔵小杉に向かう、というようなシナリオにすれば、成り立ってしまう展開だ。本作においての田舎は、「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」のように田舎と都会で主人公が分断されていることの面白さ、「サマーウォーズ」の大家族+インターネットアバターのギャップといった利点を持っているわけではない。
そもそも急いで向かわなければならない、という状況で悠長にバスに乗る、という演出上奇妙な点も解決する。地域住民たちもすずのための道具にすぎず、それにより脚本が不整合を起こすのであれば、そもそも舞台が田舎である必要はない。
「デジモン」劇場版第2弾!! ネット上で暴れまくる邪悪なデジモンに、TVでは見られない究極体ウォーグレイモンと究極体メタルガルルモンの合体デジモン"オメガモン"で立ち向かう! (C)本郷あきよし・東映アニメーション 東映 東映アニメーション 集英社 フジテレビ バンダイ
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人々は、ショッピングからゲーム、各種のコミュニケーション、そして行政手続きに至るまで、生活の多くをインターネット上の仮想世界“OZ(オズ)”で行うようになっていた。ある夏の日、友人の佐久間とともにOZの保守のアルバイトをしていた高校生・健二(けんじ)は、あこがれの先輩・夏希(なつき)から、一緒に彼女の田舎まで旅行をするという「バイト」に誘われる。長野の夏希の実家・陣内家(じんのうちけ)は、戦国時代から続く名家で、曾祖母の栄(さかえ)ばあちゃんを筆頭に個性豊かな面々がそろったエネルギッシュな大家族。バイトの内容は、この家族たちの前で夏希のフィアンセ役を演じるというものだった。(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
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歪んだメッセージ
これらを総合すると、どうひいき目に見ても、ストーリーラインとして「虐待の解決に社会福祉は期待できない」「周りの人間は身近な者も含め、力になってくれない傍観者」という残酷な結論が導き出されてしまう。ここまでは「助ける助ける助ける! うんざりなんだよ!!」と恵がいう通りだ。ではそれに対して、この物語はどのような決着を与えるのか?
絵空事である。
虐待を受けていた子どもたちは誰かに保護を求めるでなく、雨の中傘もなく勝手に家を抜け出している。そこにたまたますずが駆け付け、2人を抱きしめる(子どもたちはこの段階ですずに住所を伝えられておらず、配信画面から特定を行ったことを彼らは知らないにもかかわらず)。そこに駆け付けた子どもたちの父親はすずと対峙し拳を振り上げるも、その心の強さに打ちひしがれ、腰を抜かして退散してしまう。
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