落第貴族とハズレスキル【翻訳】【五】
(相手の能力が不明な現状、無用な深掘りは厳禁だな……。とりあえず、軽く攻めてみるか……!)
俺は地面を軽く蹴り、モロウとの間合いを詰める。
「ハァッ!」
どんな『返し』があっても大丈夫なよう、浅く踏み込んだ『
「はっ、甘ぇよ!」
モロウは華麗なサイドステップで避けた。
それ自体になんらおかしなことはない。
この程度の斬撃、並の冒険者でも容易く避けられる。
野盗の頭領ともなれば、朝飯前と言っても過言じゃないだろう。
ただ……。
(……何かおかしいぞ……)
なんとも言えない奇妙な違和感を覚えた俺は、敢えて追撃には行かず、バックステップを踏んで距離を取る。
今の一連の回避行動を見る限り、モロウの身体能力はそれほど高くない。
(だけど、『ナニカ』がおかしい……。奴の回避はあまりにも完璧で、初動があまりにも早過ぎた。まるで――)
「――『こちらの動きを知っているみたいだった』、かぁ?」
俺の思考を先取りしたモロウは、得意気な笑みを浮かべる。
「へへっ、図星って顔だな? よぉアルフィ、てめぇは確かに強ぇよ。異常な身体能力・磨き抜かれた剣術・冷静な状況判断能力――今はまだF級かもしれねぇが、いずれA級に……いや特級に届く逸材かもな」
「それはどうも」
こちらを油断させるためのリップサービスを軽く受け流す。
「だがそれだけじゃ、俺の『無敵のユニークスキル』は崩せねぇ! 速度・腕力・間合い・重さ・タイミング――全てを超越した俺は、文字通りの『最強』の存在だからなぁ!」
男が両手を開くとそこには、まるで目のような不気味な紋様が浮かんでいた。
「ほぉ、その懐かしい魔法印――【心眼】スキルか。これはまたよいユニークスキルを授かったのぅ。
「師匠、知っているんですか?」
「うむ。【心眼】は全てを見通す心の眼。筋肉の動き・視線の流れ・風の振動――あらゆる前情報から、敵の動きを先読みし、後の先を取るスキルじゃ」
「ほぉ、スライムの癖によく知っているじゃねぇか。それならば、わかるだろう? この【心眼】スキルの前には、
男は右手の紋様をこちらに向けながら、左手に短刀を握った。
低姿勢のまま重心を後ろに置いたその構えは、明らかに
(さて、どう崩そうかな……)
一般論として、カウンター軸の敵に対し、わざわざこちらから距離を詰めるのは下策。
まして相手が後の先を取るユニークスキル【心眼】持ちともなれば、迂闊な接近は自殺行為と言えるだろう。
ひとまずのところは遠距離魔法でお茶を逃がしつつ、相手の出方を
「――<
俺は空白の原典を取り出し、遠距離型の広域殲滅魔法<
「ははっ、無駄無駄ぁ! 【心眼】を凝らせば、相手の
そうだと思った。
だからこそ、この広域殲滅魔法を選んだのだ。
これならば、たとえいつどこへ撃つのがわかっていたとしても、回避するのは困難を極めるだろう。
「さぁさぁ人生最後の魔法だ。よぅく狙って、噛み締めて撃てよ? てめぇが魔法を外した瞬間、このナイフがその喉笛を引き裂くからなぁ!?」
モロウが【心眼】を解放し、
「――<
俺が魔法を展開しようとした次の瞬間、
「……ぁ、ぐ……がぁああああああああ……っ!?」
奴はその場で崩れ落ち、頭を抱えながら凄まじい奇声をあげた。
「え……?」
「だ、誰だ……っ。なんなんだよ、
「だ、大丈夫か……?」
モロウがあまりにも尋常じゃない苦しみ方をしていたので、ちょっと声を掛けてみると――。
「ぐ……が、ぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛……!?」
なんの前触れもなく、奴の両腕がズタズタに引き裂かれた。
「……え?」
「め、【
壮絶な絶叫が響き、乾いた地面に鮮血が飛び散る。
「はぁはぁ……っ。て、撤退だ……! お前ら、今すぐこの化物から逃げろ……!」
モロウの命令を受けた野盗たちは、まるで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「ふむ……。(あの異常な怯えようと心眼スキル……。あのモロウとかいう男、【心眼】でアルフィの深奥を
「し、師匠、いったい何が起こったんでしょうか……?」
何やら訳知り顔の師匠に、今の不可思議な現象について聞いてみた。
「……気にするでない、ただの自爆じゃ。【心眼】は強力なスキルじゃが、使用者に多大な負荷を強いる。おそらくはモロウの処理能力が限界を超え、スキルの発動起点となる両の
「な、なるほど……元々かなり大きなリスクのあるスキルだったんですね」
「まぁ……そういう感じじゃな。そんなことよりもアルフィ、思いがけずユニークスキルとやり合えたのは、とてもよい経験になったのぅ。強力なスキルを持つ者は、その力に
「はい、わかりました」