落第貴族とハズレスキル【翻訳】【六】
俺と師匠がユニークスキルについての話をしていると、
「――冒険者様。危ねとこ助けてくださって、ありがとうごぜぇます……!」
「あんた様ぁ、命の恩人ですぢゃ。まっこと感謝しちょります」
先ほど野盗の集団に襲われていた人たちが、口々にお礼の言葉を述べた。
「い、いえ、俺は偶然近くを通り掛かっただけでして……。みなさんが無事で本当によかったです」
これまで人に感謝されたことなんてなかったので、なんだかとてもこそばゆい。
「あたしの孫と変わんね歳頃なんに、ごっつ立派な人ざねなぁ。こんれ、飴玉だ。甘くてうめぇ。よかったら食べてけれ」
「儂の
「こっさば、うちの畑で採れた芋だ。どうず遠慮せず、もらってくだせぇな」
「裏山の薬草じゃ。
「あ、ありがとうございます」
こんなにたくさんもらっても、困ってしまうのだけれど……。
断るのもどうかと思われたので、有難く頂戴させてもらった。
すると――。
「お兄ちゃん、さっきはありがとう! とっても強いんだね!」
「先ほどは娘を助けていただき、ありがとうございました」
小さな女の子が太陽のように微笑み、その母親が深々と腰を折った。
「いえ、本当にたまたまなので、お気になさらないでください。――それより、怪我はなかった?」
「うん!」
「そっか、それはよかった」
俺が女の子の頭を優しく撫ぜていると、
「あの……今日はもう遅いですし、もしよろしければうちに泊まっていきませんか?」
その子の母親がそんな提案を口にした。
「いやでも、ご迷惑になってしまいますし……」
「夜道にはモンスターがいて危険です。それにもしかしたら、さっきの野盗たちが、夜討ちを仕掛けてくるかもしれません……。冒険者様さえよろしければ、うちに泊まっていってくださいませんか?」
「そう、ですね……」
チラリと空を見上げれば、太陽はもう西の空に沈んでしまっていた。
(今から大急ぎで街へ戻っても、ちゃんとした宿は取れなさそうだな……)
俺は野宿でも全然構わないんだけれど、師匠は絶対に嫌がるし……せっかくの御厚意を無下に断るのもよろしくない。
今日のところは、彼女の優しさに甘えさせてもらおう。
「では、一晩だけ泊めてもらってもいいでしょうか?」
「はい、もちろんです。うちの家はこの林道を登った先にあります。どうぞ、付いて来てください」
道中、簡単に自己紹介をする。
「自分はアルフィ・ロッドと申します」
「ラストじゃ。儂は
「私はカーラ・ミストリア。娘のシェリーと二人で暮らしています」
「シェリー・ミストリア、五歳! よろしくね。アルフィお兄ちゃん、スライムさん!」
その後、ちょっとした雑談を交わしながら、カーラさんの御自宅に到着。
俺と師匠は癒し草の探索中に泥だらけとなっていたため、先にお風呂を借りさせてもらった。
温水の
「あぁー……。いいお湯ですねぇ……」
「うむぅー……。まるで体が溶けていくようじゃぁ……」
二人で気持ちのいいお風呂をいただいた後は、ミストリア家の居間でちょっとした
「すっごーい! スライムさん、伸びるー!」
「こ、これ……やめんか! この儂を誰と心得る!? 神代の魔――い、痛たたた……む、無理じゃ! そこはもうこれ以上伸びん……! あ、アルフィ、早くこの
「あはは、シェリーと師匠は仲良しですね」
「うん、スライムさん大好き!」
「お主の目は節穴なのか!?」
そんなこんなをしているうちに、台所の方からおいしそうなにおいがしてきた。
「――アルフィさん、ラストさん、晩ごはんの支度ができましたよ。シェリー、ちょっと運ぶのを手伝ってちょうだい」
「はーい!」
エプロン姿のカーラさんが微笑み、シェリーが配膳のお手伝いをする。
「「「「――いただきます」」」」
みんなで両手を合わせて食前の挨拶。
食卓に並んでいるのは、白い湯気の立ち昇るクリームシチュー と手ごろなサイズにカットされたパン。
俺はまず、一番手前に置かれたシチューをいただくことにした。
「……っ! お、おいしい……!」
「ほぉ、中々どうしてイケるではないか!」
大きなお芋がごろっと入ったクリームシチュー。
とても優しい味がして、本当においしかった。
「ふふっ、お口にあったようでよかったです」
「お母さんは、とっても料理が上手なんだよ。どれもほっぺたが落っこちちゃうぐらいおいしいの!」
柔らかく微笑むカーラさんと自慢気に胸を張るシェリー。
とても穏やかで幸せな時間だ。
カーラさんのおいしい料理に
「――へぇ、シェリーのお姉ちゃんは冒険者なのか」
「そうだよ。お姉ちゃんは凄い有名人で、B級冒険者なの!」
「び、B級!? それは凄いな!」
冒険者の等級は最底辺のF級~最高位のA級までだ。
一応『盤外』として、特級冒険者という枠組みもあるが……。
あの人たちは、またちょっと違う。
冒険者ギルドに所属しながら、上層部の言うことをまったく聞かず、個人の裁量で勝手に動く。
ただし、その強さはまさに別格。
それぞれが『最強』と呼ぶにふさわしい、人の域を越えた超常のスキルを授かっている。
つまり――現状のギルドの枠組みで言えば、シェリーのお姉ちゃんは上から二つ目の階級に所属している、超エリート冒険者というわけだ。
「えへへぇ。お姉ちゃんはとっても強くて格好いいの!」
「あはは、シェリーはお姉ちゃんのことが大好きなんだな」
「うん!」
俺とシェリーが楽しくお喋りをしていると――台所の方からパリンパリンと、ガラスの割れる音が響いた。
「カーラさん? 大丈夫で……なっ!?」
台所を覗くとそこには――。
「う、う゛ぅ……っ」
胸を抑えてうずくまるカーラさんの姿があった。
彼女の顔は土色になっており、その額には玉のような大粒の汗が浮かんでいる。
明らかに尋常の様子ではない。
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