雑誌『クイック・ジャパン』(vol. 3号)掲載の「いじめ紀行」で、ライターの村上清は、小山田圭吾から「いじめられっ子」の名前を教えてもらい、「事実を確かめなきゃ」と、彼らの自宅を突き止めて訪問します。
村田さん(プロレス技をかけられ、オナニーを強要された)。
村田さんの家に電話する。お母さんが出た。聞けば、村田さんは現在はパチンコ屋の住み込み店員をやっているという。高校は和光を離れて定時制に。
お母さん「中学時代は正直いって自殺も考えましたよ。でも、親子で話し合って解決していって。ウチの子にもいじめられる個性みたいなものはありましたから。小山田君も元気でやっているみたいだし」
住み込みの村田さんは家族とも連絡が取れないらしい。パチンコ屋の電話番号は、何度尋ねても教えて貰えず、最後は途中で電話を切られた。
沢田さん(言語障害をからかわれ、ダンボール箱に閉じ込められ、ジャージを脱がされた)
沢田さんに電話してもお母さんが出た。電話だけだとラチが開かないので、アポなしでの最寄り駅から電話。
「今近くまで来てるんですが……」
田園調布でも有数の邸宅で、沢田さんと直接会うことができた。
お母さんによれば、”学習障害”だという。家族とも「うん」「そう」程度の会話しかしない。現在は、週に二回近くの保健所で書道や陶器の教室に通う。社会復帰はしていない。
お母さん「卒業してから、ひどくなったんですよ。家の中で知ってる人にばかり囲まれているから。小山田君とは、仲良くやってたと思ってましたけど」
寡黙ながらどっしりと椅子に座る沢田さんは、眼鏡の向こうから、こっちの目を見て離さない。ちょっとホーキング入ってる。
■(小山田と)対談してもらえませんか?
「(沈黙……お母さんのほうを見る)」
■小山田さんとは、仲良かったですか?
「ウン」
数日後、お母さんから「対談はお断りする」という電話が来た。
(引用元 同書67ページ)
村田さんの消息を聞かされた小山田圭吾は、次のように言っています。
でもパチンコ屋の店員って、すっげー合ってるような気がするな。いわゆる……根本(敬)さんで言う「いい顔のオヤジ」みたいなのに絶対なるタイプっていうかさ。
■もし対談できてたら、何話してますか?
別に、話す事ないっスけどねえ(笑)。でも分かんないけど、今とか会っても、絶対昔みたいに話しちゃうような気がするなあ。なんか分かんないけど。別にいじめるとかはないと思うけど。
「今何やってんの?」みたいな(笑)。「パチンコ屋でバイトやってんの?」なんて(笑)。「玉拾ってんの?」とか(笑)。きっと、そうなっちゃうと思うんだけど。
(同書68ページ)
沢田さんの消息を知った小山田圭吾は、次のように言っています。
重いわ。ショック。
■だから、小山田さんと対談してもらって、当時の会話がもし戻ったら、すっごい美しい対談っていうか……。
いや~(笑)。でも、俺ちょっと怖いな。そういうの聞くと。でも…そんなんなっちゃったんだ……。
■沢田さんに何か言うとしたら……。
でも、しゃべるほうじゃなかったんですよ。聞いたことには答えるけど。
■他の生徒より聞いてた方なんですよね? 小山田さんは。
ファンだったから。ファンっていうか、アレなんだけど。どっちかっていうとね、やっぱ気になるっていうかさ。なんかやっぱ、小学校中学校の頃は「コイツはおかしい」っていう認識しかなくて。
で、だからいろいろ試したりしてたけどね、高校くらいになると「なんでコイツはこうなんだ?」って、考える方に変わっちゃったからさ。
だから、ストレートな聞き方とかそんなしなかったけどさ、「オマエ、バカの世界って、どんな感じなの?」みたいなことが気になったから、なんかそういうことを色々と知りたかった感じで、で、いろいろ聞いたんだけど、なんかちゃんとした答えが返ってこないんですよね。
■どんな答えを?
「病気なんだ」とかね。
■言ってたんだ。
ウン。……とか、あといろんな噂があって。「なんであいつがバカか?」っていうことに関して、子供の時に、なんか日の当たらない部屋にずっといた、とか。あとなんか「お母さんの薬がなんか」とか。そんなんじゃないと思うけど(笑い)。
■今会ったとすれば?
だから結局、その深いとこまでは聞けなかったし。聞けなかったっていうのは、なんか悪くて聞けなかったっていうよりも、僕がそこまで聞くまでの興味がなかったのかもしれないし。そこまでの好奇心がなかったのかも。(略)。
■沢田さんが「仲良かった」って言ってたのが、すごい救いっていう……
ウン、よかったねえ。
■よかったですよね。
うれしいよ。沢田はだからね、キャラ的(キャラクター)にも、そういう人の中でも僕好みのキャラなんですよね。なんか、母ちゃんにチクったり、クラスの女の子に逃げたりしないしね。(略)。
■街で会っちゃったりしたら、声はかけますか?
はーん……分かるかな?
■沢田さんは。覚えてますよ。
覚えてるかな?
■ええ、すっごい覚えていると思うな、僕の会った感触では。
そうですね……。沢田とはちゃんと話したいな、もう一回。でも結局一緒のような気もするんだけどね。「結局のところどうよ?」ってとこまでは聞いてないから。聞いても答えは出ないだろうし。「実はさ……」なんて言われても困っちゃうしさ(笑)。でも、いっつも僕はその答えを期待してたの。「実はさあ……」って言ってくれるのを期待したんですよね、沢田に関してはね、特に。
卒業式の日に、一応沢田にはサヨナラの挨拶はしたんですけどね、個人的に(笑)。そんな別に沢田にサヨナラの挨拶をする奴なんていないんだけどさ。ぼくは一応付き合いが長かったから、「おまえ、どうすんの?」とか言ったらなんか「ボランティアをやりたい」とか言ってて(笑)。
「おまえ、ボランティアされる側だろ」とか言って(笑)。でも「なりたい」とか言って。「へー」とかって言ってたんだけど。高校生の時に、いい話なんですけど。
でも、やってないんですねえ。
(引用元 同書69-71ページ)
ここで小山田圭吾と村上清が口にする「美しい対談」や「救い」や「いい話」というのは、あくまで彼らにとってのものであり、いじめを受けた障害者の感情など全く考慮されていない。差別であるのは、明らかである。これほど根深い差別意識は、そう簡単には変わるまい。
オリンピック・パラリンピックへの参加が問題となった小山田圭吾は、コーネリアスの公式Twitterで7月16日に謝罪文を発表した。
学生当時、私が傷付けてしまったご本人に対しましては、大変今更ではありますが、連絡を取れる手段を探し、受け入れてもらえるのであれば、直接謝罪をしたいと思っております。
まさに「大変今更」である。これまでに直接謝罪する機会は何度もあった。この雑誌掲載時に謝罪することもできたはずだ。ところが村上清は、ここで小山田圭吾に謝罪の場を与えようとするのではなく、いじめ加害者と被害者の「対談」を実現させようとするのである。それが「美しい対談」になると考えるのである。
つまり、これが障害者差別だと思っていない、いや、障害者差別だとわかっていながらそれを悪いと思っていないのである。
病気が進行し、家族ともコミュニケーションが取れなくなった人に対し、今更どんな謝罪ができるのか。
これは断じて、「いい話」などではない。
小山田圭吾は、取り返しのつかないことをしたのである。
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