なぜ女の子は10分の間に消えたのか
山梨県のキャンプ場で忽然と姿を消した7歳の女の子、小倉美咲ちゃん。
それは去年9月21日、午前7時頃のことだった。
美咲ちゃん、母・とも子さん、姉の3人は千葉県成田市の自宅を出発し山梨県道志村のキャンプ場へ向かった。
キャンプは同じ市内に住むママ友に誘われたもので、3連休を利用した2泊3日の計画。
父親はその日仕事があったため、翌日から遅れて参加する予定だった。
道志村は神奈川県との県境にあり、相模湖と山中湖を結ぶ413号線を少し外れた場所にキャンプ場はあった。
午前9時頃。
今回の目的地である椿壮オートキャンプ場は、首都圏から行きやすくキャンプの聖地と呼ばれるほど人気の場所。
この日は、40か所ほどある広場の半分ほどうまっていたという。
美咲ちゃん家族がキャンプ場に到着したのは正午過ぎ。
キャンプに参加していたのは7家族、計27人。
何度も一緒にキャンプをしたことがある気心が知れたメンバーだった。
午後1時。
昼食を食べ終えると、子どもたちは美咲ちゃんも含め、広場裏にある森の中で遊び始めた。
その様子を数人の大人が代わる代わる見ていたという。
午後3時過ぎ。
広場に戻っておやつの時間。甘くておいしいチョコバナナをジャンケンで勝った順に選ぶ事ができる…美咲ちゃんはジャンケンになかなか勝てなかったのか、他の子たちよりも食べ始めるのが遅かった。
午後3時35分頃。
美咲ちゃんの姉を含めた9人の子どもたちは、遊びに出かけた。
おやつを食べ終え、遅れることおよそ5分、美咲ちゃんは広場を出てT字路を左へ曲がった。
そして美咲ちゃんは姿を消した。
たった10分…少女はどこへ?
それからおよそ10分後。2人の父親が子どもたちの遊ぶ沢へ向かい声をかけた。
そして午後4時ごろ。みんなが広場に戻ってきた。
しかし…美咲ちゃんだけが見当たらない。
それほど広くないエリアだが、どこにも姿がなかった。
美咲ちゃんは遊んでいるとき着ていたチェックシャツを脱いでいて、黒のヒートテック一枚だった。
他の客にも声をかけるが…目撃者はいない。
美咲ちゃんは小さい頃からキャンプに何度も行っていた。
山には怖い生き物がいると思っていた為、自ら山の中へ入ることは考えられない。
午後5時、地元警察に通報。
そして、とも子さんは今回参加していなかった夫にも報告した。
5時を過ぎると、辺りは急速に暗くなり始める。
警察が到着したころにはもう辺りは真っ暗だった。
話を聞いた警察が疑ったのは沢に流された可能性。
しかし、この沢は深くなく、当日も流されるような水量はなかった。
1時間ほどして…数時間前まで着ていたチェックシャツを使い警察犬による捜索が始まった。
しかし、警察犬は反応を示さなかった。
その後、地元消防なども駆けつけ必死に捜索したがなんの手がかりもなく時間だけが過ぎていく。
そして午後10時…この日の捜索は打ち切られた。
午前1時30分頃、夫が合流。
子どもたちをテントに寝かせ、家族と友人たちは美咲ちゃんを探し続けた。
その夜、とも子さんはテントの外で美咲ちゃんの帰りを待ち、同じ状況でいれば美咲ちゃんの考えがわかるかもしれない…と美咲ちゃんと同じシャツ一枚で夜を明かした。
幸いこの日は、そこまで冷え込む寒さではなく、これなら山にいても夜を明かせただろうと希望が持てた。
2日目は早朝から山梨県警や地元消防団などおよそ80人態勢でキャンプ場周辺半径5kmの範囲を捜索。
しかし、なんの手がかりも見つからないまま夕方に雨が降り始め、気温は15℃程まで下がった。
美咲ちゃんが最後に目撃された3時40分頃から、2人の父親がT字路を左に曲がり沢の方に向かった3時50分までわずか10分。
7歳の少女が、歩いてそう遠くまでいけるとは思えない。
警察や消防は連日、のべ70人態勢で周辺の山や沢を捜索。
近隣住民への聞き込み、空き家や別荘不法投棄された車両などの確認が行われた。
さらにヘリコプターや熱感知センサーを搭載したドローンを使い上空からも探した。
行方不明になって5日目には村から要請を受けた陸上自衛隊が派遣され、4日間にわたり、のべ643人がキャンプ場周辺、東西およそ6kmを徹底的に調べた。
しかし…周辺からは靴一つすら見つからない。
美咲ちゃんは、わずか10分の間になんの痕跡も残さず、忽然と姿を消した。
娘の無事を信じ続ける家族
疑いが強くなるのは事件の可能性だった。
このキャンプ場には国道につながる道が一本通っていて誰でも通行することができる。
キャンプ客の車も多いため、別の車が通ってもそれを怪しむことはない。
そしてキャンプ場周辺に防犯カメラはない。
国道には自動車ナンバー自動読取装置、通称Nシステムがあるがそれを避けて山中湖方面にも、神奈川方面にも抜けることができる。
そのため警察は20kmも離れた隣村まで捜索範囲を広げていった。
一方、懸命の捜索を続ける母のとも子さんだったが一部の人からひどいバッシングを受ける。
親の自己責任…そういう声もあった。
職場から転送される鳴りやまない電話…しかし、重大な連絡があるかもしれないからと、とも子さんは電源を切るわけにはいかなかった。
行方不明になってから9日目。
家族は美咲ちゃんの写真をメディアに公開。とも子さんはキャンプ場で情報提供を呼び掛けた
しかし行方不明から16日。
山梨県警は大規模捜索の打ち切りを発表。
それでもボランティアと共にキャンプ場周辺を探し続けた両親だったが、台風の接近に伴い20日ぶりに帰宅した。
祖父母に預けていた姉は両親を見て泣きじゃくった。
そして美咲ちゃんが行方不明になってから1年以上。
わずか10分の間に、姿を消した美咲ちゃん。
何者かに連れ去られた可能性も…。
どこかで今も家に帰りたいと思っている美咲ちゃんを一刻も早く見つけてあげたい。
絶対にどこかで生きていると信じる母、とも子さん。
1日も早く、娘を抱きしめたい…その思いは今も変わらない。