地球の平均気温が上がると世界の死者は減る

権威ある医学誌The Lancet Planetary Healthに、気候変動による死亡率の調査結果が出た。大規模な国際研究チームが世界各地で2000~2019年の地球の平均気温と超過死亡の関連を調査した結果は、次の通りである。
  1. 「最適でない気温」によって、全世界で毎年508万人の超過死亡が出た。
  2. このうち寒さによる死者は459万人で、全死者の9.43%にあたる。
  3. 暑さによる死者は49万人で、0.91%である。
  4. 20年間に寒さによる超過死亡率は0.51%減り、暑さによる超過死亡率は0.21%増えた。
  5. 合計すると、気候変動で世界の超過死亡率は0.3%減った。
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長期金利>名目成長率という「ブラックスワン」

WSJが気になるコラムを書いている。アメリカの物価連動国債インデックスの利回りが8%を超えたというのだ。これは1990年代以来だという。

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物価連動国債というのは「インフレ投機」である。物価が上がれば元本が上がり、インフレになればなるほどもうかる。現実のCPIは5%を超えたので、債券市場はインフレがさらに加速するとみているわけだ。FRBは「インフレは一時的な現象だ」としているが、このように当局とマーケットの意見が食い違う場合は、たいていマーケットが正しい。

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日本では誰も(日銀も)インフレを予想していないが、上の図のように日本の予想インフレ率(BEI)も、ゆるやかに上がり始めている。この背景には唐鎌大輔氏の指摘するようにISバランスが極端な貯蓄過剰になり、インフレのマグマが貯まっている状況がある。これもアメリカと似ている。

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この10年の世界経済(この20年の日本経済)の前提は長期金利r<名目成長率gだったが、それを提唱したサマーズでさえ、バイデン政権のインフレ政策は危険だと警告している。r>gの世界は、マクロ政策のすべての前提がくつがえる「ブラックスワン」なのだ。

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国民皆保険という「国のかたち」が崩れる

教養としての社会保障
日本の社会保障は年金も医療も、ほぼ国民皆保険である。これは珍しいことで、アメリカでは公的医療保険がほとんど機能していない。ヨーロッパでも年金は企業中心(日本でいう厚生年金)で、国民年金や国民健保のような全国民が保険に加入する制度は少ない。

国民年金をつくったのは岸信介である。その動機は一種の国家社会主義だったようだが、このときつくらないとできなかっただろう。賦課方式の社会保障は、負担と給付が「助け合い」だという擬制がないと維持できないからだ。アメリカのように所得格差が大きいと、負担が給付よりはるかに大きい富裕層の反対が強く、皆保険にはできない。

国民年金のできた1959年の就業人口は4000万人だったが、そのうち厚生年金に入っていたのは1200万人だけだった。中小企業の労働者は無年金で健康保険もなかったので、そのセーフティネットとして国民年金と国民健保がつくられ、1961年からサービスが始まった。

そのころはみんな貧しく、若者が多かったから、負担が少なかった。それまで大家族で養っていた老人を政府が養う方式は、都市化を進める上で役に立った。核家族化によって、戦前にはほとんど減らなかった農村の人口が急速に減った。この人口移動が、戦後の高度成長のエンジンだった。

それが今、大きな曲がり角にさしかかっている。当初は農民が主な被保険者だった国民年金は、今では非正社員のものになったが、彼らの捕捉率は低く、国民年金の未納率は48%にのぼる。1990年代から増えてきた非正社員は、最高齢で50代になり、「高齢フリーター」が増えている。国民皆保険という「国のかたち」が崩れ始めているのだ。

続きは7月19日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

フェアな政府かアンフェアな政府か

西村大臣の事件は、日本社会の意外に大きな変化を示していると思う。今までだったら、役所が行政指導で銀行を使って飲食店をいじめるという話は、ありふれていてニュースにもならなかっただろう(初期にはマスコミも取り上げなかった)。

それが玉木雄一郎氏と山尾志桜里氏がツイッターで取り上げたら、ネット民の怒りが爆発し、政府は全面撤回に追い込まれた。これは役所が許認可権や補助金を脅しに使って業界を締め上げる伝統的な行政指導がきかなくなったことを示している。



これはきのう日本維新の会の2人と話したベーシックインカムとも関係する。BIには二つの考え方がある。一つは1960年代にフリードマンが提案した負の所得税で、もう一つは1970年代に新左翼の提案した平等主義的なBIだが、両者は算術的には同じである

このように政治的には両極の思想から、同じ提案が出てくるのは偶然ではない。すべての個人に一律に最低所得を保障するという考え方が、今の社会保障とは根本的に異なるからだ。

初期の社会保障の対象になったのは成年男子の労働者で、年金も医療も世帯が単位である。女性や子供は「被扶養者」としてしかカウントされていなかったが、これでは単身世帯や母子家庭などの貧困層が救済できないので、生活保護などの裁量的な給付が建て増しされ、複雑で不公平な社会保障制度ができた。

しかし超高齢化で、現役世代の負担は大きくなる一方だ。これは世代間格差だけではなく、もっと根深い対立を生んでいる。これからは「小さな政府か大きな政府か」ではなく、フェアな政府かアンフェアな政府かという問題が大きくなるだろう。

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西村大臣のあおる「緊急事態」は本当か

何かと話題の西村大臣が「東京は緊急事態だ」とツイートしている。

ここで彼が引用している東京都の新型コロナモニタリング会議の資料の全体を見てみよう。

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インテリジェンスなき組織

日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか (講談社選書メチエ)
西村大臣のドタバタ劇をみると、日本の官僚機構には大局的な意思決定をする中枢が機能していないとあらためて感じる。これは日本の大組織がタコツボ的な小集団の集合体で、組織内の調整が属人的なすり合わせで行われているためだ。

こういう組織は、緊急事態や戦争には向いていない。特に前線と後方の連絡が悪く、作戦がバラバラになってしまう。日本軍が「情報軽視」だったとよくいわれるが、情報部門の暗号解読能力は高く、米軍のもっとも高度な「ストリップ暗号」まで解読していた。問題は、こうして収集された情報がほとんど戦略決定に生かされなかったことだ。

敵がどこで何をしているかというインフォメーションは単なる事実の集積で、軍事的に重要なのは戦略に応じてそれを分析し、情勢を判断するインテリジェンスである。欧米ではインテリジェンスの地位は高く、エリートの職業とされているが、日本軍における情報部門の地位は低く、その収集した情報を分析するのは作戦部門だった。

日本軍は作戦部門が意思決定を行い、情報部門はそれに応じて情報収集する特異な構造になっていた。これは日清・日露のような局地戦で相手に一撃を与えて和平を結ぶ戦争に適応した組織で、兵站を計算に入れていなかったので、第2次大戦のような総力戦では補給や後方支援が途絶し、餓死者が戦死者を上回る結果になった。

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ワクチンの配分にオークションを

河野ワクチン担当相のブログが話題になっている。これは(名指しを避けているが)中島岳志氏の一連のツイートに反論したものだ。河野氏は、さっそく昨夜の報道ステーションに出演して「これは計画経済と自由経済の違いだ」と説明した。

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この図の赤い線が予定の供給数だったが、政府が「1日100万回」と号令をかけたおかげで、自治体の接種が予想以上に進んで青い線のように供給を超え、大阪や北海道などでは不足している。国はその「調整枠」を設けて過不足を解消する方針だというが、これも計画経済では限界がある。

ワクチンは無料なので、自治体は過大申告して余っても困らない。他方で過少申告して不足すると困るので、過大申告するバイアスがある。これを避けるために調整枠のワクチンに価格をつけ、国がオークションをやるのだ。

これには中島氏のように「ネオリベだ」といちゃもんをつける人がいるかもしれないが、目的は国がもうけることではなく、ワクチンの最適配分である。すべてのワクチンに価格をつけるわけではなく、調整枠以外は無料とする。この価格は最終ユーザーに転嫁できないことにすれば、自治体は財政負担になるので、それほど高い価格はつかないだろう。

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西村大臣を更迭してコロナ対策を一新せよ


最初は西村康稔経済再生相(コロナ担当)の失言と思われていた飲食店に圧力をかける行政指導は、内閣官房コロナ対策室長から金融庁・財務省・経産省に出された「事務連絡」によるものであることが明らかになった。

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「人流」を規制する緊急事態宣言には意味がない

きょうからまた緊急事態宣言が始まるが、もう誰もその効果は信じていない。しかしBuzzfeedで、国立感染症研究所の感染症疫学センター長、鈴木基氏は「前回の緊急事態宣言の効果はあった」という。それは本当か。

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地球温暖化を防ぐ「グローバルな気候契約」

The Spirit of Green: The Economics of Collisions and Contagions in a Crowded World (English Edition)
気候変動は、錯覚のデパートである。地球の平均気温を一定に保つことが絶対の目的だと思い込んでいる人が多いが、これは誤解である。目的は人間が快適に生活することであり、気温はその条件の一つに過ぎない。地球温暖化は経済問題なのだ

だが快適な環境は、価格で正しく計測できない。たとえばガソリンの価格が安いのは、大気汚染やCO2排出などの外部性が反映されていないためだ。図のように炭素税(横軸)をかけると化石燃料の消費が減り、名目所得は減るが、環境が改善されて本当の所得(true income)は増える。それが最大になる点が、最適な炭素税率である。

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これ以外に、排出量などの数値目標を設定することは望ましくない。国連で1.5℃目標や「2050年カーボンニュートラル」などの非現実的な目標が出てくるのは、それが法的拘束力のない努力目標なので、いくらでも美辞麗句がいえるからだ。損するのはそれをまじめに実行する日本のような国で、利益を得るのは中国のようなフリーライダーである。

それに対してノードハウスが提案するのは、グローバルな気候契約(climate compact)である。これは参加国に同率の炭素税を適用して排出量を削減するもので、法的拘束力のある条約だ。違反した国には懲罰関税などの罰則を設ける代わり、炭素税は40ドルぐらいの実現可能な率とする。続きを読む
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