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「いい匂いだなあ」

 腕いっぱいに抱えた花束に鼻を近づけて、私は鼻孔いっぱいに甘酸っぱくて、上品な香りを吸いこんだ。

 魔法学園の庭で、花柄つみを手伝ったところ、庭師から新鮮な花や蕾のついたものをいただいてしまった。

「是非お部屋にお飾り下さい、一段と華やかになりますよ」
 とは言われたものの。

 ベルベットのようなしっとりとした花弁。
 赤と白の美しい対比。
 茎もしっかりとしていて濃い緑色をしている。
 栄養が行き渡っているのが素人目にも分かる。
 代々、大切にされてきたのだろう。
 だからこそ、私の質素な部屋には勿体ないように感じる。
 気品のあるものにこそ似合うように思えた。

 常世の春であるこの庭に比べ、あまりにも拘りのない上に物を殆ど置かない私の部屋は寒々としている。

 手をすり合わせ、夜のキャンバスに白い吐息を弾ませながら歩いていると、女子寮の門の前に、よく知った人影を認めた。

「こんばんは、アッシュ」
 私は首が反り返るほど高く彼を見上げた。

「こんばんは」
 綺麗だけどどこか冷たい色をした瞳に私が映る。

 皆は怖いというけれど、どこか人離れした雰囲気で、鷹揚と構える彼の傍はせっかちな私にとって居心地が良く、夜のおしゃべりは密かな楽しみになっていた。
「待っていてくれたんですか? 女子寮の私の部屋の中に入っていても良かったのに。風邪ひきますよ」

 アッシュは、制服のまま、上着やコートを着ていなかった。
「そう簡単に招くのは俺だけなのだろうな……」
 アッシュは花束に目を止める。

「その薔薇は?」

「お手伝いのお礼に庭師の方からいただいたんです」

 綺麗でしょう? とアッシュに見せる。
「あ」
 こんな身近に相応しい人がいたではないか。
 せっかくの美しい薔薇だ。
 花だって自分に相応しい人の傍が幸せだろう。
 かといって、花束を丸ごとアッシュに贈って荷物になって迷惑をかけるのもしのびない。
 悩んだ末、花束の中から赤と白の薔薇を一輪ずつ引き抜いた。
 棘は庭師の方がが取り除いてくれていた。

「アッシュ、少し屈んでもらえますか」

 彼は素直に地面に片膝をついた。
 それでも視線の高さは私と同じくらいだ。

「良かったらもらってください」
 紅白の大輪を胸ポケットに差しこんだ。

「俺に――? お前が?」
 彼は胸を彩る赤と白を不思議そうに眺めていたが、ぱ、と頬を朱に染めた。
 目がきらきらと星の瞬きのように輝いている。
 喜んでもらえたのが分かると嬉しくなった。

「やっぱりアッシュが付けるとカッコイイね」
 ついみとれていると、
「……念の為聞くが、お前は薔薇の花言葉を知っているのか?」
 と、至極真顔で聞いてきたので、正直に、
「いや、全く」
 きっぱり答えると、彼は落胆したように長いまつ毛を伏せた。
「……なるほど、道理でな」
 その姿は寂しそうで、私は悪いことをしてしまった気がして後悔した。

「あ、あのこういうの嫌だった? ごめんね、勝手に押し付けて。やっぱり返して――」
 慌ててアッシュの胸ポケットから薔薇を回収しようと手を伸ばしたが、その手を取られた。
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