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1話完結
「カイン、挨拶を。お前の婚約者となるクレア・ファーレル嬢だ。」
美しく長い髪を持つ少女は、顔を俯かせたまま頭を下げた。
それを見てカインはため息を吐く。
「………いらない。」
「こら、カイン! すまないね、クレア嬢。」
「い、いいえ、お気になさらず。」
声が震えている。そりゃそうだ。
誰が好き好んでカインの、忌み嫌われた第二王子の婚約者になりたいものか。
「本当は凄く良い子なんだ。今は緊張しているだけなんだよ。」
「まぁ陛下。うちのクレアも昨日からずっと緊張しておりまして………。」
なんてくだらない。さっさと断れば良いものを。
それとも王家からの命だから断れないのだろうか。ならば断る理由を作ってやろう。
目の前で震えている少女が哀れでたまらない。
「俺は婚約者などいらない。とっとと失せろ。それともなんだ?」
カインが見せつけるようにして差し出した手の中から炎を見せ、近くにあった花を燃やした。カインは炎を操れるのだ。
「カイン!」
「こんな俺と、一生添い遂げる覚悟があるっていうのか?」
クレアははくはくと唇を動かし、絞り出すような声で呟いた。
「…む、無理です……、」
「クレア!?」
ほらな。とっととこんな茶番終わらせようとカイン口を開く。
「そういう事だ。だから、」
「あと1年、待ってください…!」
「…は?」
「カイン様の顔が良すぎて直視出来ないんです! 無理!」
クレアは相変わらず俯いているし、彼女の両親は頭を抱えた。
「クレア! 貴女喋るとボロが出るから黙ってなさいって言ったでしょう!」
「だっておかあさま! 婚約者という事はいずれ結婚してお側にいるという事でしょう!? 今のままだったら私、近いうちに出血多量で死にます。主に鼻血で。」
「すみません殿下、娘は極度の面食いでして……」
カインは少し唖然としながら、クレアに話しかける。
「お前…俺が、怖くないのか?」
「その恐ろしいまでに整ったお顔に見つめられたらドキドキしちゃって怖いですね。いつ死ぬかと。」
「そこじゃない。そこじゃなくて…さっきの魔法だ。」
「魔法?…ああ、料理や簡単に明かりを用意できて楽そうですね。」
「違う。」
「違う!?じゃあ…カッコ良かったのでもう一回見せてください。アやっぱり駄目です鼻血出そう。」
「手遅れよ、クレア。」
「冗談ですよ…おかあさまハンカチ。」
「おかあさまはハンカチじゃありません。」
母親からハンカチを受け取り、それで顔全体を覆ったクレアはキリッとした様子で宣言する。
「カイン様。婚約の話、有り難く頂戴いたします。しかし、今の私では務まりません。近いうちに心臓発作で死ぬでしょう。」
「死因変わってんぞ。」
「そこで、1年の猶予とカイン様のアルバムを頂きたく。不承ながらこのクレア、1年でカイン様のお隣に立てるよう精進いたします。主にカイン様の顔面力に慣れるよう。」
「顔に慣れるってどういう事だ……。」
「甘く見てはいけません!カイン様の美貌では簡単に人死にが出ます!」
「た、確かに…!カインはとても可愛い!」
「おい。」
父は乱心でもしたのか。それともこんな親バカだったのか。
「それでは御前を失礼いたします。カイン様、次にお会いするのは1年後でしょう。お手紙をお書きしますね。」
「ああ……。」
それから宣言通りカインが王宮に上がる事はなく、1年が過ぎた。
1年後。
「お久しゅうございます、カイン様。クレア・ファーレルです。」
そうして初めて、カインは婚約者の顔を見た。なんともまぁ、愛らしい娘であった。
つやつやとした肌で、目は空を写しとったかのように蒼い。
綺麗だと褒めてやると、クレアは恥ずかしげに俯く。
ただ1つ、気にかかっている事があった。
「なんでそんなに離れてる?」
「すみません、生カイン様の破壊力を舐めておりまして。」
その距離、およそ5メートル。婚約者同士にしてはいささか遠い距離である。
カインが一歩踏み出せば、クレアが一歩後ろに下がった。
「…へェ?」
近づく二歩、そしてまた離れる二歩。近づく三歩、離れる三歩。
先に駆け出したのはカインだった。
「逃げんじゃねェよ。」
「いやああ! 美が追いかけてくるありがとうございます! でもやめてくださいまし!」
「良いから大人しく捕まっとけ。」
「断ります!」
走り回っていても埒が明かない。
最短ルートで中庭に辿り着き窓から落ちてきたクレアを捕まえた。
「わあ、」
「ったく、手間かけさせやがって。」
「顔がいい……」
「テメェはいい加減俺の顔から離れろ。」
でもまぁ、楽しかったとクレアは笑う。こんなにも本気になったのは久しぶりだった。
「笑わないで、惚れます。」
「いいぜ。」
「惚れました。責任とって末永く幸せにしてください。」
気分が良かったので額に1つキスしてやると、クレアは安らかな顔で気絶した。
美しく長い髪を持つ少女は、顔を俯かせたまま頭を下げた。
それを見てカインはため息を吐く。
「………いらない。」
「こら、カイン! すまないね、クレア嬢。」
「い、いいえ、お気になさらず。」
声が震えている。そりゃそうだ。
誰が好き好んでカインの、忌み嫌われた第二王子の婚約者になりたいものか。
「本当は凄く良い子なんだ。今は緊張しているだけなんだよ。」
「まぁ陛下。うちのクレアも昨日からずっと緊張しておりまして………。」
なんてくだらない。さっさと断れば良いものを。
それとも王家からの命だから断れないのだろうか。ならば断る理由を作ってやろう。
目の前で震えている少女が哀れでたまらない。
「俺は婚約者などいらない。とっとと失せろ。それともなんだ?」
カインが見せつけるようにして差し出した手の中から炎を見せ、近くにあった花を燃やした。カインは炎を操れるのだ。
「カイン!」
「こんな俺と、一生添い遂げる覚悟があるっていうのか?」
クレアははくはくと唇を動かし、絞り出すような声で呟いた。
「…む、無理です……、」
「クレア!?」
ほらな。とっととこんな茶番終わらせようとカイン口を開く。
「そういう事だ。だから、」
「あと1年、待ってください…!」
「…は?」
「カイン様の顔が良すぎて直視出来ないんです! 無理!」
クレアは相変わらず俯いているし、彼女の両親は頭を抱えた。
「クレア! 貴女喋るとボロが出るから黙ってなさいって言ったでしょう!」
「だっておかあさま! 婚約者という事はいずれ結婚してお側にいるという事でしょう!? 今のままだったら私、近いうちに出血多量で死にます。主に鼻血で。」
「すみません殿下、娘は極度の面食いでして……」
カインは少し唖然としながら、クレアに話しかける。
「お前…俺が、怖くないのか?」
「その恐ろしいまでに整ったお顔に見つめられたらドキドキしちゃって怖いですね。いつ死ぬかと。」
「そこじゃない。そこじゃなくて…さっきの魔法だ。」
「魔法?…ああ、料理や簡単に明かりを用意できて楽そうですね。」
「違う。」
「違う!?じゃあ…カッコ良かったのでもう一回見せてください。アやっぱり駄目です鼻血出そう。」
「手遅れよ、クレア。」
「冗談ですよ…おかあさまハンカチ。」
「おかあさまはハンカチじゃありません。」
母親からハンカチを受け取り、それで顔全体を覆ったクレアはキリッとした様子で宣言する。
「カイン様。婚約の話、有り難く頂戴いたします。しかし、今の私では務まりません。近いうちに心臓発作で死ぬでしょう。」
「死因変わってんぞ。」
「そこで、1年の猶予とカイン様のアルバムを頂きたく。不承ながらこのクレア、1年でカイン様のお隣に立てるよう精進いたします。主にカイン様の顔面力に慣れるよう。」
「顔に慣れるってどういう事だ……。」
「甘く見てはいけません!カイン様の美貌では簡単に人死にが出ます!」
「た、確かに…!カインはとても可愛い!」
「おい。」
父は乱心でもしたのか。それともこんな親バカだったのか。
「それでは御前を失礼いたします。カイン様、次にお会いするのは1年後でしょう。お手紙をお書きしますね。」
「ああ……。」
それから宣言通りカインが王宮に上がる事はなく、1年が過ぎた。
1年後。
「お久しゅうございます、カイン様。クレア・ファーレルです。」
そうして初めて、カインは婚約者の顔を見た。なんともまぁ、愛らしい娘であった。
つやつやとした肌で、目は空を写しとったかのように蒼い。
綺麗だと褒めてやると、クレアは恥ずかしげに俯く。
ただ1つ、気にかかっている事があった。
「なんでそんなに離れてる?」
「すみません、生カイン様の破壊力を舐めておりまして。」
その距離、およそ5メートル。婚約者同士にしてはいささか遠い距離である。
カインが一歩踏み出せば、クレアが一歩後ろに下がった。
「…へェ?」
近づく二歩、そしてまた離れる二歩。近づく三歩、離れる三歩。
先に駆け出したのはカインだった。
「逃げんじゃねェよ。」
「いやああ! 美が追いかけてくるありがとうございます! でもやめてくださいまし!」
「良いから大人しく捕まっとけ。」
「断ります!」
走り回っていても埒が明かない。
最短ルートで中庭に辿り着き窓から落ちてきたクレアを捕まえた。
「わあ、」
「ったく、手間かけさせやがって。」
「顔がいい……」
「テメェはいい加減俺の顔から離れろ。」
でもまぁ、楽しかったとクレアは笑う。こんなにも本気になったのは久しぶりだった。
「笑わないで、惚れます。」
「いいぜ。」
「惚れました。責任とって末永く幸せにしてください。」
気分が良かったので額に1つキスしてやると、クレアは安らかな顔で気絶した。
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