コラム1.将棋の起源

制作2000.4.3.最終更新2005.5.9.

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~インドのチャトランガ~

 日本の将棋をはじめ、世界中に数多くゲームとして存在する『将棋ゲーム』のほとんどが、古代インドの戦争ゲーム『チャトランガ(Chaturanga)チャツランガとも発音』から発展し、各地域の風土・文化性などに応じてその形を現在のものに変えていったと考えられています。

 さて、その『チャトランガ』ですが、その言葉のもつ意味はサンスクリット語で『四つの軍団』という意味で、そこからこのゲームはもともと4人制のゲームだったのが、後に2人制のゲームも考案されたとする従来の研究がありました。

 しかし、最近の研究では、もともと2人制で考案され、4人制が後に発展型として誕生したとする説が有力となっています。

 その2人制起源説として、ミュンヘン大学のR・ザイエット教授の研究によると、当時の古代インド文献には戦争の際、王と大臣(司令官)が必ず一対になって指揮しており、王または大臣の単独による戦争指揮は無かったと言うもので、そこから、王が単独に存在する4人制のチャトランガよりも、2人制のチャトランガの方がその時代に即している。とするものです。

 また、4人制のチャトランガに関する文献も10世紀ごろのものが現在のところ最古で、それ以前に4人制があったと確認するものは今のところ無いとする見解が、有力視されている理由です。

チャトランガ(二人制) 

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 さて、ここでは上の図『チャトランガ(2人制)』についての解説をします。

盤は8×8マスで、(ラージャ)と(これは貴族・マントリを示すようです)が中央に一対となって配置され、その左右に(ハスティ・またはガシャ)・騎兵(馬・アシュワ)・馬引き戦車(ラタ)が配置され、前列には歩兵(パダチ)が配置されています。

 形式としてはチェス、平安小将棋(コラム四で後述)と非常に共通性があり、まさに将棋ゲームのルーツと考えるに値するもののようです。

 で、各駒の動きですが、

ラージャ(RaJa 王)…全方向に1マス。(王将、キングと同じ機能)

マントリ(MANTRI 士)…ナナメ方向に1マス。(古代には全ての盤の端まで一気に動けた=チェスのクィーン以上の性能)

ハスティ、又はガジャ(HASTY,GAJAH 象)…ナナメ方向に2マス、間に駒があっても飛んで進める。(これも古代には盤面端まで一気に動けたそうです。)

アシュワ(ASHWA 騎兵)…チェスのナイトと同じで、八方向に桂馬の飛び方をする、いわゆる八方桂。

ラタ(RATHA 戦車)…縦横に走る。(将棋の飛車・チェスのルークと同様)

パダチ(PADATI 歩兵)…前に1マス。 ただし、最終列(敵陣の王がいる列)まで進むと、その列の役駒(例えば初期配置で象の前にいた歩兵は象)に「成る」ことができるそうです。

以上です。

チャトランガ(四人制)

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 四人制のチャトランガは二人ずつがペアになって戦います。(赤と黄色・緑と黒がパートナーを組む)

ラージャ(RaJa 王)…チェスのキングと同じ。

ハスティ(HASTY 象)…斜めに二マス進める。間に駒があっても飛んでいける。

アシュワ(ASHWA 馬)…チェスのナイトと同じ。八方桂。

ロカ、又はナウカ(ROCA,NAUKA 船)…チェスのルークと同じ。縦横に走る。

パダチ(PADATI 歩兵)…前に一マス。

 基本的な動き方まで紹介しましたが、成り方やその他のゲームルールについては割愛します。

 

 古代と現代とで、駒の動きが異なってくるのは、実際に「象」は古代では有力な兵器であったものが、時代と共に戦争で使われなくなり、その役割が低く見直されたからだと考えられます。どんなゲームでも長い年月の間にルールの改変がなされるのは仕方の無い事で、「士」も同様のようです。

 なお、インドの将棋ゲームについては、これ以外にチャトランジ(CHATRANG)とよばれるゲームも存在します。こちらはルール性でかなりチェスに近いものになってきており、このページで紹介したチャトランガはもっとも古い将棋の原型といえるものだそうです。

この『チャトランガ』が少なくとも紀元前3世紀ごろまでには発生しており、東西交易路を伝わってそれぞれの地域へ伝播していったと考えられていて、間違いの無いもののようです。続きは次節で。

 

…チャトランガの詳しいルール解説については『世界の将棋・改訂版』で紹介されています。