JR佐世保線の大町―高橋駅間で進む複線化の工事=武雄市北方町

 九州新幹線長崎ルートの武雄温泉-長崎間の建設を巡り、事業主体の鉄道・運輸機構が2月、佐賀県内のJR佐世保線の複線化区間を縮小する計画変更を申請したことに県が反発している。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームの検討委員会が7日、未整備区間(新鳥栖-武雄温泉)の見直し論議を再開させるのを前に、背景や関係団体・機関の見解をまとめた。

Q県なぜ反発 「全線で」合意から逸脱

 Q 鉄道・運輸機構が計画変更を申請した理由は。

 A 建設中の武雄温泉-長崎間の事業費が当初より上振れしたことを受けて見直した。与党が決定したフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の導入断念も反映させた。在来線の複線化工事の区間についても、肥前山口-武雄温泉間(12・8キロ)だった従来の計画を大町-高橋間(6・9キロ)に変更している。申請は国土交通省が審査し、最終的に認可する。

 Q 申請の際、複線化区間を短縮したわけは?

 A 県や国交省、鉄道・運輸機構など関係6者で2016年3月に結んだ合意(6者合意)では、武雄温泉駅で在来線特急と新幹線を乗り換えるリレー方式で2022年度に暫定開業するまでに大町-高橋間を整備するとしていた。残りは順次実施する合意になっているが、国交省は今回、暫定開業までの工事や事業費など必要なものだけが計画に盛り込まれたと説明する。

 Q それに対し、佐賀県はなぜ反発しているのか。

 A 大町-高橋以外の区間の複線化工事がこのまま実施されない可能性があると問題視している。複線化はそもそも県の要望で計画に加えられ、6者合意にも盛り込まれた経緯がある。計画変更が認められれば、大町-高橋間以外の区間を複線化する担保を失ってしまう恐れがあり、「合意の順守」を強く求めている。

 Q 国交省は県の訴えをどう受け止めているのか。

 A 計画は暫定開業までの工事内容を示しているため「6者合意とは矛盾しない」として静観している。ただ、複線化を巡っては県と国とで温度差がある。国交省が6者合意の過程でリレー方式を提案した際、大町-高橋間は在来線の利便性を確保するため、複線化が必要な区間という見解を示したが、残りの区間については触れていない。裏を返せば、必要性が乏しいという認識が透けて見える。

 

Q予定通り実施か フリーゲージ断念見通せず

 Q 大町-高橋間以外は複線化されないのか。

 A はっきりと見通せない。関係者はいずれも「6者合意は今も生きている」という認識は示す。しかし、FGTの導入断念で合意の前提は崩れており、見送られる可能性はある。

 Q 未整備区間のフル規格化の議論と複線化短縮問題は関係があるのか。

 A 仮にフル規格で整備する場合、在来線は活用しないため、複線化の必要性は低下する。国交省や与党検討委からは「フル規格になれば二重投資になる」として、全線複線化の整備に慎重な声が既に上がっている。複線化区間の短縮に向けた動きは、その布石を打っているようにも映る。

 Q フル規格に反対している県はどう対応する?

 A 新幹線の整備方針の動向に関わらず、在来線を活用し、沿線地域の交流促進や振興に複線化が欠かせないと考えている。FGTの断念に追い打ちを掛けるように複線化区間が短縮されれば、ますます態度を硬化させるのは必至だ。