ひとり情シスとは?背景・課題・転職事情と離職率・リスクと対策
一人や兼任のIT担当者が、社内の情報システム管理を担当する状態が「ひとり情シス」です。IT導入やシステム管理・運用の重要性がますなか、少人数のための業務過多や離職発生時のリスクも心配されています。
この記事では、そんな「ひとり情シス」の生まれる背景や課題、採用・転職などの事情について紹介します。個人や企業の対策についてもみてきましょう。
ひとり情シスとは
ひとり情シスとは、その組織のなかに「情報システム」の担当者が1人きりの状態であることを指します。情報システム部門が業務で対応する範囲は広く、通常は複数の人員で回すことが一般的です。しかしながら、従業員数の少ない中小企業やベンチャー・スタートアップにおいては、この「ひとり情シス」のスタイルもよく見られ、2~3人といったごく少数の担当者しか所属していないという状況も多く存在します。場合によっては、数百名規模の中堅企業においても、全社のシステム管理・運用をひとりで担当するケースがあり、リスクを懸念する声も高まっています。
そもそも「情シス」とは、情報システムを管理する部署やIT部門に所属する担当者のことを指す言葉です。情シスの仕事は非常に幅が広く、社内のIT環境やネットワークなどを稼働させるインフラ構築とその運用・保守、システム導入や開発の企画、PCやハードウェアの管理、ソフトやOSのインストールなど多岐にわたります。
ひとり情シスは、専門知識をもとに日常業務の遂行に必要なシステムの運用・管理をおこないつつ、ヘルプデスクといった問い合わせ窓口業務を担当することもあります。社内からすると、仕事でパソコンを使っていてわからないこと、困ったことが起きたときにも頼りになる存在です。
ひとり情シスが発生する背景
本来複数人で運用すべき情報システム部門の担当者がひとりに依存してしまうことがあるのはなぜなのか、ここからは「ひとり情シス」が増えている背景について解説します。
経営層の理解不足
新しいシステムを構築したり導入したりするだけでなく、運用・管理、あるいは社内での円滑な利用を維持していくにはコストがかかります。しかし経営層のITに対する理解が不足している場合、この部分への人的コストを軽視してしまい、できるだけ人員を絞ろうとした結果、ひとりの担当者に落ち着いてしまうことがあります。
最初はひとりで始めて、ゆくゆくは人を増やすという計画だったとしても、そもそもITに割く予算が少ないと人員の追加もできません。ひとり情シスでもそれなりに業務が回ってしまえば、経営層は問題意識を持つこともなく、そのままになってしまいがちです。
また、ITに疎い経営層はどんな作業にどれだけの工数がかかるのかもわからず、適正なコストをはじき出すことができません。一方ひとり情シスの方も決して万能ではないため、なかなか上層部に理解を求めることができないという悪循環があります。
人材の確保が難しい
さらには、経営層がITを理解して人材を確保しようと動いたとしても、求人の募集に対して相応しい人が集まらないという現状もあります。そもそも専門知識を持ったIT技術者が不足しているうえに、社内にIT部門がなかったり、弱い会社に飛び込んで一から部署を立ち上げることを希望する人材が少ないからです。
最初は複数いた情シス担当者が退職し、後任を探そうと募集をかけてもなかなか見つからず、欠員が埋まらないまま結果的にひとり情シスとなってしまうということもよくあります。
小規模な企業ではそもそも募集すら行わず、既存の社員の中で多少でもITの知識がありそうな人を情シスに仕立ててしまうこともあるようです。この場合他の業務と兼任することも多く、かなりのハードワークになりますし、業務に必要な新しい知識の習得も困難です。
業務負荷が高く人が定着しない
多くの仕事を抱える情報システム部門の仕事を少人数で遂行する際は、どうしても過剰な負荷がかかってしまいます。日常業務でのシステム管理や運用に加え、セキュリティには常に目を光らせていなくてはなりませんし、何かトラブルがあれば解決するまで現場を離れることができません。
さらに他の社員へのITサポートという側面もあります。テレワークが始まりクラウドサービスを導入するなど社会の変化にも対応していかなくてはならず、業務は増える一方です。
こうした業務負荷に耐えかね、また将来を悲観して退職するなどの離職が発生してしまいます。それでいて前述のとおり人員の補充が困難なため、最終的に残った人がひとり情シスとなってしまうわけです。
ひとり情シスの課題
このように様々な要因から発生してしまう「ひとり情シス」ですが、そこにはどんな課題があるのでしょうか。
担当者の負担が大きい
大企業では情報システム部門やIT部門に複数名を配置することも珍しくありませんが、それは単に会社の規模が大きいからというだけではありません。情シスの業務範囲はとても広く、本来それぞれの業務に担当者を置くべきなのです。
例えば既存のインフラの管理・運用と、新たなシステムを導入する際の計画立案や実際の導入・運用、さらにトラブル対応や社員へのサポートなどをすべて一人で行うというのは至難の業です。すべてを円滑に回すためにはそれなりの人員を配置する必要があります。
ひとり情シスではこれらの業務を一人で担うことになるためオーバーワークとなりがちですし、その結果何か問題が起きたときに迅速に対応できなくなる恐れもあります。
新しい技術を習得する余裕がない
日進月歩のITの世界では、常に新しい技術を取り入れていく必要があります。ところが日々の膨大な業務に忙殺されるひとり情シスには、勉強をする時間がありません。新たな技術を導入できないため社会から立ち遅れていくリスクもありますが、より深刻なのはセキュリティに関する問題です。
企業からの情報漏洩というニュースが世間を騒がせることもありますが、企業にとって情報セキュリティは自社の信頼に関わる重要な問題です。しかしサイバー攻撃などの手段は巧妙化する一方ですし、24時間いつ起きるかわかりません。
そうした事態に備えるために、そもそもスキルを持った人材のマンパワーが不足しているのはもちろん、最新技術を習得していないことで問題を認識できないということにもつながります。
相談相手がなく、ノウハウが共有されない
ひとり情シスは何かあっても相談できる相手がなく、すべて一人で判断しなくてはなりません。それでいて最新技術の習得はできておらず、中には他の業務と兼任というケースもあって、問題解決に十分な知識があるとはいえない状態です。そんな中でもし判断を間違えれば泥沼にはまり、通常業務にまで支障が出てしまうかもしれません。
また、ワンオペとも呼ばれるひとり情シスは、社内に一人だけでシステム管理・運用の仕事をしているので、普段の仕事に関する知識や情報を人と共有する必要がありません。
自分だけがわかっていれば良いので手順書やマニュアルを作成せずに仕事をしているケースもあり、社内で情報システムに関する知識が共有されません。その結果、退職や移動などでその人がいなくなった場合に、引き継ぎが円滑に行かなくなる恐れもあります。
ひとり情シスの転職事情
ハードワークのため定着しにくい一方、人材不足で採用が難しい「ひとり情シス」ですが、その転職事情はどうなっているのでしょうか。
ひとり情シスの転職率は高い
IT業界全体での離職率は10~15%となっており、他の業種と比べても際立って高いとはいえません。しかしながら、マイナビニュースのTECH+によると「ひとり情シス」の転職率は32%と全体の転職率に比べても高い数値が示されています。
自分一人で何でもこなさなくてはならず、頼りにされている割には評価されていないと感じ、また業務そのものの負担も大きいことから転職を考える人が多くなっているようです。
ひとりであることが転職を後押し
転職を考えるのは今の職場への不満もさることながら、一人ですべて行ってきたことが他社からは高く評価され、即戦力として期待されるということもあるようです。また、ひとり情シスは助けてくれる人がいないので、何もかも自分で解決しなくてはなりません。
そのために情報を調べ実践してきたことが、結果として自身のスキルになっているという側面があります。つまり一人だったからこそスキルアップでき、ある程度自信をもって転職を考えることができるというわけです。
転職元の半数はITベンダー
ひとり情シスの転職パターンはITベンダーからユーザー系企業へというものが多く、全体の約半数を占めています。これはITの高度化やデジタルニーズの高まりによる影響で、対応を迫られた中堅企業が人材を求めることが多くなっているためです。
ITベンダーで勤務経験のあるシステムエンジニアやプログラマーは系統立った広範な知識を持っており、人脈も豊富でかつ営業に対する気遣いもあるなど、技術者としてのスキルに加えビジネスマンとしての素養の高さも評価されているようです。
ひとり情シスのリスク
ひとり情シスでも、業務が正常に回っていれば誰も問題を感じないかもしれません。しかし、企業活動を継続していく視点からみると、何かの折に危うい点が露呈する可能性があります。そうなってから慌てないよう、ひとり情シスを放置することで、企業にはどのようなリスクがあるのか知っておくことが必要です。
業務の属人化
一人で行う業務には属人化のリスクがあり、その人がいなければ業務が遂行できなくなる恐れがあります。これはどのような職種にもあるリスクですが、ひとり情シスの場合特に専門性が高いため、その危険性も高いといえます。例えばひとり情シスが急に体調を崩して休んだ場合、代わりを務められる人はまずいないでしょう。そんなときにシステム障害でも起きれば、対応する人がいないため社内の全業務がストップしてしまい、会社に甚大な被害をもたらしてしまいます。
これだけ重要な職務であるにもかかわらず、すべてを一人に任せている状態では担当者は疲弊してしまいます。一人で頑張っていることが「一人で十分」という認識を生み、状況が改善されなければ最悪担当者は辞めてしまうことになるでしょう。ナレッジが共有されていない状態で退職すれば、業務の引き継ぎは容易なことではありません。
障害復旧が遅れてしまう
会社の業務を支えるシステムやサービス運営に関する機能障害など、情シスの人数が少ないことで、そもそもエラーの検知が遅れてしまったり、復旧のための手立てが足りないことが起こりえます。障害が起きた際には、即座に原因を究明して、迅速な復旧作業をおこなうことが必要ですが、ひとりだけで実施できる調査には限界がありますし、対応に遅れが出てしまうことも考えられます。
技術者の人手が絶対的に足りないということに加え、相談相手がいないことも大きなネックです。システム障害は原因を特定するのが難しいことがありますが、担当者が複数人いれば意見を出し合って進められるところ、一人でやっているためどうしても原因究明に時間がかかってしまうのです。
IT企画の遅れ
最新のIT技術を取り入れて商品開発や新たなビジネスモデルの創造に役立てる「DX(デジタル変革)」が話題となっています。こういった情報をいち早くキャッチし、自社の経営戦略に役立てるべく企画・提案するのも情シスの重要な役目です。しかしひとり情シスの場合は日々の雑多な業務に追われ、とてもそこまで手を付ける余裕がありません。
単なるITの便利屋ではなく、ITの専門家として会社の将来を見据え、戦略を立て意思決定を行うのが情報システム担当者の本来の役割です。それを果たすことができないというのは会社にとって大きな損失となります。
企業がとる対策
ここまでひとり情シスに関する様々な問題を見てきました。ここからは、そうした問題に対し企業はどのような対策を取るべきなのかを解説します。
労働環境の改善
情シスの仕事を一人に任せるのはあまりにも負担が大きく、担当者を疲弊させ退職につながってしまうこともあります。それを防ぐためには労働環境の改善が必要です。まず他の業務との兼任は避け情報システムの専任担当者を任命すること、そして予算をきちんと確保して人員を増やし、チームで運用する体制を構築し、ひとりひとり個人が担う負荷を軽くします。教育体制も整え、ITスキルの向上や最新技術の導入が容易になるようにしましょう。
業務のアウトソーシング
増員や教育といった体制をすぐに整えるのが難しい場合は、情報システム部門が担う業務のいくつかをアウトソーシングするという方法もあります。アウトソーシングを専門に行っている会社はノウハウも豊富で、システムの保守管理からサポートまで情シスの業務範囲をすべてカバーできます。他社の事例も多く知っているので、自社の課題を相談することもできるでしょう。24時間365日の監視体制もあり、セキュリティの面でも安心です。
業務の可視化
経営層がITに疎い場合、システム担当者の業務内容をよく理解していないことがあります。属人化を防ぎ、情シスの業務を可視化することは現状の問題解決に大いに役立つでしょう。増員するにしても業務の見直しをするにしても、まずは現状を知ることです。情シスが日々どんな問題に直面しどのように解決しているのか、あるいはどういった作業をどれだけの時間をかけて行っているのかなどを明らかにし、業務をマニュアル化することができれば移動や退職の際の引き継ぎもスムーズになります。
個人がとる対策
ひとり情シスが抱える様々な問題を解決するため、個人でできることにはどんなものがあるのでしょうか。
勉強会・セミナーに参加する
情シスの仕事に最新情報は欠かせませんが、一人で学ぶとなると限界があります。そこでおすすめなのが、勉強会やセミナーへの参加です。豊富な知識を蓄えることができれば、万一のトラブルへの対処も自信をもってできるようになるでしょう。
また、こうした場で社外の人と交流を持ち、相談ができるようになれば問題を一人で抱え込むストレスも軽減することができます。ただし、多忙な中で勉強会などに参加するには上司の理解が必須です。
転職する
ひとり情シスに過大な負荷がかかるのは、上司や経営層の無理解によるところも大きいものです。業務を改善したい、勉強会にも出たいと思っても会社の理解が得られないというのであれば、転職を考えてみても良いでしょう。
IT業界では慢性的な人手不足が続いており、情シス経験者ならば受け入れてくれる会社を見つけるのはそう難しいことではありません。無理をして健康を害してしまう前にぜひ検討してみましょう。
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