人間関係の発展と維持
①健全な人間関係について学びましょう
②人間関係を解決・維持していくための方法を学びましょう
③男女の適切な人間関係を学びましょう
人間関係と性犯罪なんて,一見関係がないように見えるかもしれません。でも,人間関係を適切に持てるようになると,生きていくのがとても楽になります。ストレスが減るんです。
性加害をしなくても充足した生活を送るためには,周りに適切な人間関係を築き,その人間関係を維持していくことがとっても大切だと思います。
この記事では,子ども時代から現在に至るまでの人間関係から受けた影響を検討し,自分が人間関係に持ち込んでいる態度や価値観,信念,認知,行動,そしてそれらが自分の人生における人間関係に与えている影響について考えていきます。
人間関係とは?
- わたしたちを取り巻く人間関係には,どのような種類のものがあるでしょうか。
- どうして人は,人間関係を必要とするのでしょう。
- 不健全な人間関係には,どのような特徴や共通点があるでしょう。
- 不健全な人間関係には,どのような感情が伴いますか?
- 不健全な人間関係にいることを教えてくれる手がかりには,どのようなものがあるでしょうか?
- どうして不健全な人間関係を続けるのでしょうか?
- 健全な人間関係には,どのような特徴があるでしょうか?
人間関係の発展と維持
人間関係を始める
人は興味や魅力を感じたり,知り合いになりたいと思う人に出会ったとき,神経質になったり,恥ずかしがったりすることがあります。これは,その人に受け入れられることを重視するからです。しかし実際には,相手にされなかったり,断られたりする可能性もあるものです。これは,新しく出会った人と関係を始めようとするときにつきものです。誰もが一度や二度拒絶された経験を持つものです。
大切なのは,断られたときにどうすればよいかという方法を身につけていることです。特に,性加害あるいは性加害のリスクに結びつくような拒絶に対処する方法を身につけることが重要になります。
人間関係を始めることにも方法(スキル)があります。人間関係は,”自然に起こるもの”ではなく,関係を始める方法(やりかた)があって,それがうまくいったりうまくいかなかったりするのです。以下の人間関係を始める時の方法について,考えてみましょう。
- 会話を始め,続ける(最も基本的な形)
例えば,「今日は天気がいいですね」といった一般的な会話をすることです。それに続いて,個人的な話題に触れてみましょう。ただし,いきなり個人的すぎる話題は失礼にあたる場合があります。緊張をほぐす会話は「興味をもっていること」や「趣味」についてです。心から感心を示している相手には,自分のことを伝えたくなるものです。
- 強引にならないこと
偉そうにしたり,注目を引こうとしたり,相手を独り占めしようとしたり,自分の話したいことだけを話したり,質問ばかりすることを避けることです。相手があなたに質問し,目を合わせて笑ったり楽しそうにしているなら,会話を続けることができるでしょう。
- 人をうんざりさせる行動に気を付ける
自分の印象をよくしようとして自慢話をしたり,人をけなしたり,出しゃばったり,攻撃的になったりする態度は人をうんざりさせるものです。
- あなたの人生の問題を話すことから始めない
初めて会ったときには,すぐに自分の生い立ちや自分の抱えている悩みを語ることは適当でありません。関係が進めば,あなたの性加害について語ることもできるでしょうし,そのような関係が築けるように努力することは大変望ましいことです。
- 酒を飲み過ぎた状態は避ける
ろれつが回らなかったり,いつもの自分ではないような行動をしてしまっているときに,意味のある会話をすることができるかどうか,考えてみる必要があります。
- 早急すぎたり,積極的すぎる性的な振る舞いは避ける
相手があなたのことを十分知らない場合に v性急なアプローチをしてしまうと,これから性的なパートナーや親密な関係になる可能性のある人を怖がらせ,遠ざけることになるでしょう。
- よく知り合うための質問や時間が足りないこと
知り合う際には,十分時間を取って聞きたいことを質問しましょう。知らなかったことが,後々あなたを傷つける結果になる可能性があります。
- 問題になりそうなサインを見落とすこと
アルコールや薬物の乱用・依存,いつも後ろ向きだったり,いつも依存的だったりする傾向を見逃さないことも大切です。
- 軽率に次の行動に移ること
自分の価値観や信念と反することに安易に妥協し,行動することによって,犯罪につながる可能性のある行動(例:飲酒や薬物使用)に関与してしまうかもしれません。
- 自分の欲求充足ばかりを優先すること
欲求充足にとらわれてしまい,相手と会うことだけに夢中になると,健全な人間関係を築くために必要な点を見失う可能性が高くなります。
- 相手が自分にふさわしいかよく考えずに関係を深めること
相手が本当にあなたにとってふさわしい人なのかどうかはじっくり考える必要があります。あなたが一人でいる状況にうんざりしているとき,寂しさを感じているとき,人生のパートナーを得たいと切望しているような状況では,より気をつける必要があります。
新たな人間関係を築く上で,自分の犯罪歴を正直に話しておくべきでしょうか。あなたが逆の立場ならどう考えるでしょうか。
よく考えてみましょう。
人間関係を育む,親密さを維持する
人間関係は,お互いに育てて,維持していくものです。親密な人間関係とは,コミュニケーションにより相手を理解し,自分も理解してもらうことで維持されるものです。ここでは,親密な人間関係を育て,維持するために必要なポイントを紹介します。
お互いに尊重し合える関係,公平な関係を維持するには,以下の点に気を付ける必要があります。
- お互いに歩み寄れること
- お互いの気持ちや考えを一般化したり,一般化しすぎたりしないこと
- 小休止やちょっと時間を置くことを許すこと
- 相手に敬意を持つこと
- 自分自身と相手に正直になること
- 自分が悪いときには認めること
- 相手の言うことをきちんと聞き,話を遮らないこと
- 「いつもそうか」とか「ちっともしてくれない」など,相手を責めるようにすること
不公平な関係に陥ることを避けるためには,以下の点に気を付けることが必要です。
- 悪口を避けること
- 古傷を聞いたり,昔のことを蒸し返すのは避けること
- 仕返しをしようとしないこと
- おどさないこと
- 話し合いによる同意を得ないうちにルールを変えないこと
- 話し合いや喧嘩に勝ち負けがあると思わないこと
- 問題が起きたら,こじれさせずに解決すること
- 自分の気持ちや考えを言葉で伝えること
- 相手が自分のことをわかってくれていると思い込まないこと
- 相手の考えを先読みして行動しないこと
- まず相手に聞いてみて,答えを受けてから行動に移すこと
- 言うことを聞かせるためや,脅すための手段として性行為を使わないこと
- 相手を無視したり,無言の威圧行為(例:ドアを大きな音で閉める,拳でドンドンと音をたてるなど)で相手の感情を操作しようとしないこと
信頼は時間をかけて得ていくものです。信頼を得るためには,自分のことを相手に知ってもらう必要がありますが,それは同時に,自分の弱いところや恥ずかしいところも知られてしまうことでもあります。しかし,相手があなたの弱いところも含めて尊重してくれるとわかれば,あなたの安心感は高まり,不安も少なくなっていくでしょう。
信頼を得ていくために最も重要なことは,自分自身が誠実で,約束を守り,正直で誰かをいじめたりしない生き方をすることです。そして,そのようにして得られた信頼は,その先も維持していくための努力を続けることが大切です。
コミュニケーションは人間関係を維持していく上で極めて重要です。そこには,言葉や会話(言語的メッセージ)と表情や姿勢(非言語的メッセージ)の両方が含まれています。
時々人は,言葉で話していることと,表情や態度で表していることが合っていないということがあります。そのような矛盾するメッセージについて考えてみましょう。
「そりゃスゴイ」,「あなたは犯罪者だ」という言葉を,下記のような声の調子やポーズを変えて繰り返し表現してみましょう。受けとるメッセージに違いはありますか?
- 大げさに・・・
- 皮肉っぽく・・・
- 事実を淡々と伝えるように・・・
- 驚いた様子で・・・
あなたは犯罪者だ
あなたは犯罪者だ
あなたは犯罪者だ
あなたは犯罪者だ
人間関係を維持するための基本となる方法(スキル)のひとつは「話し合い」です。話し合うことは,難しく感じる面もあるかもしれませんが,他の方法と同じように「練習」によって上達することが可能です。話し合いを行うときに気を付けるポイントは次のとおりです。
- 問題を話し合うのに適した時期と時間を考えること。問題を早く解決したいと焦りがちですが,疲れているときや焦っているとき,不安を感じているときは話し合いを避けた方がいいかもしれません。また,話し合いをするときには,十分な時間を用意することも需要です。
- 話し合う前に,話し合いたいことを明確にしておくこと。
- 話し合いの場では,考えや気持ちを話す時間を,それぞれ等しくすること。
- 話し合いに勝とうとするのではなく,妥協点を見つけること。
- 暴力や脅しを用いないこと。
- 自分自身と相手に対して正直になること。
- 話し合いでは,あなたの気持ちや要求について,相手が納得できる理由を伝えること。
- 表に出てきた言葉だけではなく,言葉の向こうにある相手の意図(メッセージ)をわかろうとすること。
- 相手を責めないこと。
- どちらにとっても得になるような解決方法を考えること。
よいコミュニケーションは葛藤の解決を促します。コミュニケーションの方法が良好で,適切な自己開示ができているような関係では,問題が起きてもその場で解決され,葛藤はほとんど起こりません。
葛藤(問題)の解決には次のようなステップを踏む必要があります。
- 問題に気付くこと
- 問題の大きさと内容によって,合意(歩み寄り)の程度を決めること。お互いにそれを問題として認識しているだろうか?その問題の深刻さについて合意しているだろうか?
- できる範囲でお互いにとって最も得になる(損にならない)解決方法を考え出すこと。
- その解決方法を実行すること。
- その解決方法が実行できたかどうか,また効果的かどうかについて振り返ること。
- これらの段階を踏んでいて,効果的でなかった場合には第一段階に戻り,葛藤(問題)を見直すこと。
相手を許すことは,葛藤の解決にとってもうひとつの重要な側面です。
- パートナーがあなたを欺いて浮気をしたときに,あなたならどうしますか?許すことができますか?相手を再び信じることができるでしょうか?
- 他人を信じることは困難なことでしょうか?あなた自身を信じることはできますか?
- あなたにとって許すのが最も困難だと思うことは何ですか?
- 誰かを許した後に,どのように感じるでしょうか?
- 他人を許すことができることは,大切なことだと思いますか?それはなぜでしょう?
- 許すことができないと思うことはどんなことですか?
- 許すことは忘れることと同じでしょうか?
自分では「こうでないとならない」と考えてそのように実行しているけれども,実際の人間関係においては,それは必ずしもうまくいかなかったり,場にそぐわなかったりすることがあります。そうしたとき,自分の態度や思い込みが問題である可能性もあります。以下のテーマについて考えてみましょう。
- パートナーを変更してはならない(離婚してはならない)
- 自分のパートナーはいつでも楽しい気分でいなければいけない
- 意見の不一致は全ての人間関係にとって有害である
- 男性はいつも人間関係の重要な責任を負っている
- 男性と女性はあまりに違うので,全く同意できない
- 葛藤はいつでも避けなければならない
このような思い込みの多くは「白か黒か」というような認知の歪みの結果です。人間関係においては,なにも状況を変えられないのだという信念の結果として,このような思い込みが起こることもあります。
このテーマで自分たちの経験や考えを他の人たちと共有し,自分の中にある非現実的で不適切な思い込みと,そこに結びついている「認知の歪み」に気付きましょう。
常にパートナーと一緒に過ごすのではなく,それぞれが別々の趣味や活動を行うということも大切なことです。それは,パートナーと楽しく活動を共にすることと同じくらいに重要なことです。
お互い別々に楽しめる活動はなにかを考えてみましょう。