認知の再構成

このセッションの目標

①認知の再構成について学びましょう
②MCC法を学び,使えるようになりましょう

前回までは,「認知の歪み」について学んできました。そこでリストにした「よくある認知の歪み」は,皆さんの中にも見つかったのではないでしょうか。

今回は,歪んだ認知を修正する具体的な方法について学びます。ある意味では,「歪んだ眼鏡を掛け替える」方法です。自分の中にある認知の歪みに気づき,それを修正する作業を始めていきましょう。

認知の再構成とは?

認知の再構成とは,認知を変化させることで行動を変化させる方法のことです。
認知の再構成は,次のような考え方を基本にしています。

  1. どのように認知するかが,その後の感情や行動を決定する
  2. 認知が変われば行動も変わる
  3. 認知は変えることが可能である

MCC法

MCC法は認知の再構成を行うための方法です。頭文字のM・C・Cは,それぞれ次のような意味です。

M・・・モニター(Monitor) 観察する
C・・・チャレンジ(Challenge) 挑戦する
C・・・チェンジ(Change) 取り替える,修正する

樹月カイン

MCC法とは,自分の認知をモニター(C)して,その認知が本当なのか疑問を持って挑戦し(C),認知を取り替える(C)方法なんですね。
ステップが分かれているから,自分の認知を確かめるには使いやすい方法だと思います!

MCC法を使ってみましょう

M・・・モニター:観察する

認知の歪みを見つけ,観察します。まだ自覚できていない認知の歪みを発見するためには,セルフトークを意識し,自分の頭の中にどんなフレーズが流れているか,モニターすることが有効です。

特にセルフトークを意識し,自分の考えをモニターしておきたい状況は,次の4つです。

  1. 自分の期待や予想通りに物事が進まなかったとき
  2. 好ましくない行動や,加害のリスクが増すような行動パターンに陥っているとき
  3. ストレスのある出来事や変化があるとき
  4. 不快な感情を経験しているとき

セルフトークを意識し,自分の考えをモニターするための最も簡単な方法は「自分は何を考えているんだろう?」「自分自身になんと言い聞かせているんだろう?」と自分自身に問いかけてみる方法です。

また,日記を書いたり,身近な人に自分の考えについての意見を求めることも有効な方法です。

自分はいまなにを考えているのかな?

自分になんて言い聞かせているだろう

C・・・チャレンジ:挑戦する,疑う

自分の認知を柔軟にし,考えの可能性を広げることが目的です。自分のセルフトークや考えに疑問を持ち,本当にそうなのか疑念の目で見て挑戦することが大切です。繰り返し練習することで,新たな認知が獲得できるようになっていきます。

自分の認知(セルフトーク・考え)に対し,次のように自分に問いかけてみましょう!

  • この考えは本当に正しいと言えるだろうか。その根拠はあるだろうか。
  • この考えに反する事実もあるのではないだろうか?
  • この考えを信じることのメリット(長所)は何だろう? デメリット(短所)は何だろう?
  • この考えは,自分の性加害リスクを高めはしないだろうか?
  • この考えは,誰かを傷つけていないだろうか?
  • この考えは自分に良い気分をもたらすだろうか? それとも悪い気分にさせるだろうか?
  • この考えは,後になって大きな問題を引き起こさないだろうか?
  • この考えは,どんなタイプの認知の歪みだろうか。認知の歪みに「名前」を付けてみよう。
  • もし友人がこのタイプの考えを持っていたら,どんな言葉をかけるだろうか?

このほかにも,他の人に「私が考えていることについてどう思いますか?」と聞いてみたり,自分が考えていることをノートなどに書き出してみるのもいいですね。

樹月カインさんの経験

樹月カイン

性加害の計画を練っているときは,やっぱり気分が高揚していました。確かにその時はいい気持ちになるし,他の嫌なことも忘れてしまえます。
でも,そんなときに上記のリストにあるような言葉を自分にかけ続けました。
やはりそういう考えは自分の再犯リスクを高めるし,被害者を傷つけることにもつながります。計画が行動に移っていく可能性も高い。確かにその時はいい気持ちになるけれど,よく考えたら,そんなくだらない考えをしている自分はとても醜い。友達が同じようなことを考えていたらやっぱり止めると思います。
そういうチャレンジを繰り返しているうちに,だんだん自分の考え方が変わってきたと思います。

C・・・チェンジ:取り替える,修正する

チャレンジによって獲得した新しい認知(セルフトーク)を用いて,歪んだ認知を修正したり,より現実適応的な認知に取り替えたりします。

いったん修正したり,取り替えたりしても,認知の歪みは何度も何度もぶり返して出てくるものです。ぶり返す度に,チャレンジとチェンジを繰り返します。MCC法を使うことが習慣になれば,厄介な認知の歪みのせいで失敗することは少なくなります。

効果を確認してみましょう!

MCC法をやってみた後は,その効果を確認してみましょう。効果の確認は主に次の2つの項目で行います。

  1. 問題となる認知の確信度(そのとおりだと思う程度)が,MCC法の実施前後でどのくらい変化したのかをチェックしてみます。
  2. 問題となる認知に伴う感情(怒りやいらだち,寂しさの程度など)が,MCC法の実施前後でどれくらい変化したかチェックする。

MCC法ワークシートを使ってみましょう

MCC法を練習するときに便利なMCCワークシートをダウンロードできます。MCCワークシートを用いれば,自分の認知について多角的に検証する作業が,とてもやりやすくなります。是非ご利用ください。