認知の歪み(後編)

このセッションの目標

①認知の歪みについて理解しましょう
②自分の認知の歪みについて考えてみましょう

よくある認知の歪み(つづき)

認知の歪みには,多くの人に見られるものがあります。そのような認知のゆがみの「あるある」を知り,自分にも同じような認知の歪みがないか,チェックしてみましょう。

認知の歪み(前編)に引き続き,良くある認知の歪みを見て行きます。

良くある認知の歪み⑪

感情の正当化

自分の感情の悪さを,人のせいにする考え方です。

  • お前は本当に俺を怒らせるよな。
  • あんまりイライラさせるなよ
良くある認知の歪み⑫

否認(他人を傷つけていることを認めない)

事実を認めないことです。この考え方をすると,他人の苦痛に対する責任が明らかな場合でも,自分が他人を傷つけたという事実から目を背けてしまいます。

  • なぜ謝らなければいけないのだ
  • 被害者は傷ついていない
  • 傷ついたかもしれないが,それほどたいしたことはしていない
良くある認知の歪み⑬

悪いレッテル張り

自分自身や他者に悪いレッテルを貼り付け,それが正確で事実であるかのように思い込むことです。

  • あいつは本当に変なやつなんだ
  • あの女は誰とでもセックスするという話だから,どうってことないさ
  • 女は男の付属物なんだから,セックスを拒むなよ
  • 俺は何をやってもダメな人間だ
良くある認知の歪み⑭

マイナス面のクローズアップ

出来事に望ましい面があったとしても,それを重要なことではないと無視してしまい,マイナスの面にばかり目を向けることです。

  • 試合には勝ったが,途中でミスをしてしまった。最悪の一日だ!
  • 両親は自分になにひとつ与えてくれなかった
良くある認知の歪み⑮

体制批判

個人的な問題を社会や体制(政府や自治体,施設など)のせいにする考え方です。この考え方は,他者や社会全体に対する義務や責任の感覚を欠如させます。

  • 世の中が俺を追い詰めたから,俺は事件をおこしてしまったのだ。
  • 社会が悪いから犯罪が起きるのだ
  • 裁判所の決定は間違っている
良くある認知の歪み⑯

自意識過剰

他者の振るまいが,いつも自分に向けられたものだと思い込むことです。

  • みんなが自分をじろじろみてる。刑務所帰りなのを知っているんだ。
  • あいつがあくびしたのは,俺の話が面白くないからに決まってる
良くある認知の歪み⑰

他者不信

他者を信じずに,すぐに疑ってかかるような考え方です。この考え方は「人は自分を利用しようとしている」とか「苦しめようとしている」などといった,被害者的な態度ともつながっていきます。

  • あの人が親切にしてくれるのには,なにか下心があるに違いない
  • どうせ裏切られるのだから,人なんか信じてはいけない
  • この世で頼れるのは自分だけだ
良くある認知の歪み⑱

被害者的な態度

自分の不満や問題を人のせいにして,被害者的な態度をとることです。こうなると,自分の責任をみとめられなくなってしまいます。

  • 悪いのは俺じゃなくてあいつじゃないか!
  • あいつが誘ってきたのに裁判にかけられて,こっちこそ被害者だ
  • どうして私ばかりが不幸な目に遭うのだ
  • してはいけないと教えてくれれば,あんなことはしなかった
良くある認知の歪み⑲

わかってたまるか

誰にも自分のことは理解されないという考え方です。このような考え方をする人は,自分のことを率直に語ろうとせず,他者からの助言に耳を傾けようとしなくなりがちです。

  • 他人に俺の気持ちがわかってたまるか
  • どうせ自分の話など,誰も聞いてくれないに違いない
良くある認知の歪み⑳

強がりすぎ

弱さを見せることを怖がり,自分の中の不安や罪悪感,恥ずかしさなどを認めようとしない考え方です。

  • 他人がどう思おうと,俺は気にしない
  • 僕は人に助けてもらわなくてもうまくやれる

ここまで前編と後編を合わせて20種類の認知の歪みを見てきました。認知の歪みの種類の多さに,圧倒されるような感じがあるかもしれませんが,一つ一つを丁寧に検討し,自分に当てはまる部分がないか考えてみることは,非常に大切な回復のステップです。

また,詳細は今後のプログラムの中で解説しますが,自分の中の認知の歪みに気付いて,そのひとつひとつに「名前を付ける」ことは,認知の歪みを把握して修正していく上で,非常に有効な手段になります。自分の認知に「名前を付ける」ためにも,ここに記載した良くある認知の歪みを覚えておくことは重要です。

認知の歪みがあること自体がおかしいことではありません。認知の歪みは,どんなひとにも多かれ少なかれあるものです。問題は,自分が持つ認知の歪みに気付いて,修正を図ることです。修正するためには,自分のなかにある認知の歪みに気付くことがスタートになります。