認知の歪み(後編)
①認知の歪みについて理解しましょう
②自分の認知の歪みについて考えてみましょう
よくある認知の歪み(つづき)
認知の歪みには,多くの人に見られるものがあります。そのような認知のゆがみの「あるある」を知り,自分にも同じような認知の歪みがないか,チェックしてみましょう。
認知の歪み(前編)に引き続き,良くある認知の歪みを見て行きます。
感情の正当化
自分の感情の悪さを,人のせいにする考え方です。
- お前は本当に俺を怒らせるよな。
- あんまりイライラさせるなよ
否認(他人を傷つけていることを認めない)
事実を認めないことです。この考え方をすると,他人の苦痛に対する責任が明らかな場合でも,自分が他人を傷つけたという事実から目を背けてしまいます。
- なぜ謝らなければいけないのだ
- 被害者は傷ついていない
- 傷ついたかもしれないが,それほどたいしたことはしていない
悪いレッテル張り
自分自身や他者に悪いレッテルを貼り付け,それが正確で事実であるかのように思い込むことです。
- あいつは本当に変なやつなんだ
- あの女は誰とでもセックスするという話だから,どうってことないさ
- 女は男の付属物なんだから,セックスを拒むなよ
- 俺は何をやってもダメな人間だ
マイナス面のクローズアップ
出来事に望ましい面があったとしても,それを重要なことではないと無視してしまい,マイナスの面にばかり目を向けることです。
- 試合には勝ったが,途中でミスをしてしまった。最悪の一日だ!
- 両親は自分になにひとつ与えてくれなかった
体制批判
個人的な問題を社会や体制(政府や自治体,施設など)のせいにする考え方です。この考え方は,他者や社会全体に対する義務や責任の感覚を欠如させます。
- 世の中が俺を追い詰めたから,俺は事件をおこしてしまったのだ。
- 社会が悪いから犯罪が起きるのだ
- 裁判所の決定は間違っている
自意識過剰
他者の振るまいが,いつも自分に向けられたものだと思い込むことです。
- みんなが自分をじろじろみてる。刑務所帰りなのを知っているんだ。
- あいつがあくびしたのは,俺の話が面白くないからに決まってる
他者不信
他者を信じずに,すぐに疑ってかかるような考え方です。この考え方は「人は自分を利用しようとしている」とか「苦しめようとしている」などといった,被害者的な態度ともつながっていきます。
- あの人が親切にしてくれるのには,なにか下心があるに違いない
- どうせ裏切られるのだから,人なんか信じてはいけない
- この世で頼れるのは自分だけだ
被害者的な態度
自分の不満や問題を人のせいにして,被害者的な態度をとることです。こうなると,自分の責任をみとめられなくなってしまいます。
- 悪いのは俺じゃなくてあいつじゃないか!
- あいつが誘ってきたのに裁判にかけられて,こっちこそ被害者だ
- どうして私ばかりが不幸な目に遭うのだ
- してはいけないと教えてくれれば,あんなことはしなかった
わかってたまるか
誰にも自分のことは理解されないという考え方です。このような考え方をする人は,自分のことを率直に語ろうとせず,他者からの助言に耳を傾けようとしなくなりがちです。
- 他人に俺の気持ちがわかってたまるか
- どうせ自分の話など,誰も聞いてくれないに違いない
強がりすぎ
弱さを見せることを怖がり,自分の中の不安や罪悪感,恥ずかしさなどを認めようとしない考え方です。
- 他人がどう思おうと,俺は気にしない
- 僕は人に助けてもらわなくてもうまくやれる
ここまで前編と後編を合わせて20種類の認知の歪みを見てきました。認知の歪みの種類の多さに,圧倒されるような感じがあるかもしれませんが,一つ一つを丁寧に検討し,自分に当てはまる部分がないか考えてみることは,非常に大切な回復のステップです。
また,詳細は今後のプログラムの中で解説しますが,自分の中の認知の歪みに気付いて,そのひとつひとつに「名前を付ける」ことは,認知の歪みを把握して修正していく上で,非常に有効な手段になります。自分の認知に「名前を付ける」ためにも,ここに記載した良くある認知の歪みを覚えておくことは重要です。
認知の歪みがあること自体がおかしいことではありません。認知の歪みは,どんなひとにも多かれ少なかれあるものです。問題は,自分が持つ認知の歪みに気付いて,修正を図ることです。修正するためには,自分のなかにある認知の歪みに気付くことがスタートになります。