認知の歪み(前編)

このセッションの目標

①認知の歪みについて理解しましょう
②自分の認知の歪みについて考えてみましょう

認知の歪みとは?

認知の歪みとは,問題行動を後押しするような考えのことです。自分の問題行動に悪影響を与える認知の歪みを知っておくことは,再犯防止の手立てを考えるうえで非常に重要なことです。

まずは,多くの人に見られる認知の歪みの「あるある」から見て行きましょう。

よくある認知の歪み

認知の歪みには,多くの人に見られるものがあります。そのような認知のゆがみの「あるある」を知り,自分にも同じような認知の歪みがないか,チェックしてみましょう。

良くある認知の歪み①

白黒思考

ものごとを「良いか悪いか」,「可能か不可能か」など,どちらか一方に決めつけてしまおうとする考え方です。この考え方をする人は,白と黒との間にあるあいまいな部分(グレー部分)に目を向けようとしません。いろいろな考え方があり得ることが受け入れられないため,柔軟な対処ができなくなる傾向があります。

  • 世の中には敵と味方しかいない
  • 我慢するか殴るか以外に選択肢はない
良くある認知の歪み②

ダメ無理思考

自分が直面している問題や出来事などに,取り組む前から「自分にはできない」,「やってもうまくいかない」などといったセルフトークをし,新たらしい考えや行動に取り組まない考え方です。

  • 自分には普通の生活なんて望めない
  • どうせうまくいかないのだから,やっても無駄だ
  • 性犯罪の治療なんて,できるわけがない
  • 性加害を止められない,だってスイッチが入ったらもう止まらないのだから
良くある認知の歪み③

今さえ良ければ・・・

あとさきを考えず,「今ここで」の満足や喜びを第一する考え方です。これまでの自分自身を振り返ったり,将来に向けて長期的な計画を立てたり,努力したりすることをせず,「今さえ良ければ」と考えます。

  • これからのことなんてどうでもいい。俺は今遊びたいんだ
  • 終わったことをとやかく言ったって,しょうがないじゃないか
  • どうして,過去のことを振り返らなければいけないんだ
  • 先のことはどうにかなるさ
良くある認知の歪み④

”べき”思考

「〜すべきである」,「〜しなければならない」,「〜して当然だ」といった考えで,自分の意見や考えを強引に正当化する考え方です。

  • 男は女に従うべきだ
  • 性欲は性行為で発散しなくてはならない
  • 付き合っているのだからセックスして当然だ
良くある認知の歪み⑤

マインドリーディング

他者の考えを確かめることなく,勝手に決めつける考え方です。

  • あいつは,自分と同じように考えているに違いない
  • あの人は私のことを「負け犬」だと思っているんだ
  • どうせあいつも俺には協力してくれないのだろう
良くある認知の歪み⑥

過度の一般化

一度の経験や,見聞きして得た情報を,多くの場面に当てはめてしまう考え方です。

  • クラブに来る女は,みんなセックスの相手を求めている
  • 就職試験に落ちてしまった。この先も合格することはないだろう
良くある認知の歪み⑦

わかっているという思い込み

自分はすべての答えを知っている,という考え方です。こう考える人は,「自分はもう変わった」「治療の必要はない」などと考え,他人からの忠告に耳を貸さなかったり,将来失敗する可能性を過小に評価したりすることにつながります。

  • わたしはもう変わった。事件の頃とは別の人間になったのだから心配ない
  • そんなことは言われなくても,前からわかっているよ

よくある認知の歪み⑧

自分のもの思考

人のものや考えなどを自分の所有物であるかのように考え,自分の思い通りにコントロールしようとします。自分の目的達成のためなら,なにをしてもいいという考え方です。

  • お前は俺の女だから,俺の言うとおりにするんだ
  • あいつは俺の女だから,何をしようと他人からとやかく言われる筋合いはない
  • この辺りは俺の縄張りだ
よくある認知の歪み⑨

都合のよいクローズアップ

自分の都合に合わせて,出来事や他者の言動の一部だけを抜き出して利用する考え方です。

  • 彼女のために買ってあげた飲み物を受けとってくれた。彼女は俺に気があるに違いない
  • 僕が話していたとき,彼女はずっとうなずいていたから,賛成してくれるに決まっている。

よくある認知の歪み⑩

合理化

自分の都合が良いように理由付けをする考え方です。

  • 被害者の側にだって落ち度はあるじゃないか!
  • 強要なんてしていない。あれは,合意の上でのセックスだ。
  • 酒を飲んで判断が鈍っていたのだからやむを得ない

ここまで10の認知の歪みを見てきました。認知の歪みの種類の多さに,圧倒されるような感じがあるかもしれませんが,一つ一つを丁寧に検討し,自分に当てはまる部分がないか考えてみることは,非常に大切な回復のステップです。

認知の歪みがあること自体がおかしいことではありません。認知の歪みは,どんなひとにも多かれ少なかれあるものです。問題は,自分が持つ認知の歪みに気付いて,修正を図ることです。修正するためには,自分のなかにある認知の歪みに気付くことがスタートになりますね。

次回は,認知の歪みの後編です。