老後の不安につけ込んだ悪質極まりない商法だ。政官界との深い関わりも見える。
なぜここまで被害が広がったのか。巨額詐欺を巡る闇の解明に全力を挙げねばならない。
磁気ネックレスなどの預託商法を展開し、約2400億円の負債を抱えて破綻した「ジャパンライフ」の元会長山口隆祥容疑者と元幹部ら計14人が、顧客から資金をだまし取ったとして詐欺の疑いで逮捕された。
全国の高齢者ら延べ1万人から計2100億円もの金を違法に集めたとみられる。本県でも被害者が出ている。
預託商法の被害としては2011年に破綻した安愚楽牧場の約4300億円に次ぐ規模だ。
老後の蓄えを失った高齢者らの心痛を思うと言葉がない。
ジャパンライフは03年ごろから訪問販売で数百万円の磁気ネックレスやベストの購入を勧誘し、購入した商品を第三者に貸し出す形の「オーナー商法」を展開した。
購入者は年約6%の配当を得られるとしたが、実際は磁気商品はほとんど存在せず、新規契約の代金を配当に回す自転車操業状態だったとみられる。
山口容疑者は、捜査関係者の間で「マルチの帝王」と呼ばれていた。強引な手法で業績を伸ばし、批判されるたびにやり方を変えて延命を図ってきた。
捜査当局は、顧客を食い物にしてきた預託商法の仕組みや、資金の流れなど不透明な実態にメスを入れねばならない。
疑問を覚えるのは、なぜもっと早く被害を防ぐための対応ができなかったのかという点だ。
消費者庁は16年以降、特定商取引法違反に当たるなどとして計4回の一部業務停止命令を出した。しかし、遅くとも10年から被害相談が国民生活センターなどに多く寄せられていた。
行政処分の対処方針について消費者庁は14年に「政治的背景による余波懸念」と記した内部資料を作成していたことが明らかになっている。
山口容疑者は、政官界への食い込みも図り、政治家に多額な献金をしたり、元官僚らを会社顧問に迎えたりしていた。
政治家の関与があったのかも含め、消費者庁の対応をしっかり検証しなければならない。
安倍晋三前首相との関わりも徹底的な検証が必要だ。
野党は、山口容疑者が15年に安倍首相(当時)主催の「桜を見る会」に首相枠で招待された疑惑を国会で追及していた。招待状をチラシに印刷して勧誘に使い、それを見て会社を信用し被害に遭った人も少なくない。
招待客の推薦枠について、当時の菅義偉官房長官は、招待者名簿を廃棄したため不明と説明。再調査の考えもないとした。
加藤勝信官房長官も今回の逮捕を受けての再調査を「名簿が保存されていない」として否定的な考えを示したが、到底納得できない。
菅首相は、来年以降の桜を見る会は中止すると表明したが、それで疑惑を幕引きとするわけにはいかない。