IOC のコロナ戦略は科学的根拠乏しい
権威のある米医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」は、7月1日付でオリンピック参加者たちをコロナウイルスから守るための「リスク・マネージメント・アプローチの必要性」と題する論文を掲載した。
筆者は、マウントサイナイ医科大学のアニー・スパロウ教授、ミネソタ大学のマイケル・オスターホルム教授ら4人の米公衆衛生学会の権威だ。
オンラインメディアの「アクシオス」が、「東京五輪はウイルスのスーパースプレッダー(超感染拡大者)になりうる」と題する記事で、この論文を取り上げた。
同論文を要約すると以下の通りだ。
【東京五輪前の現状】
一、7月には東京で開かれるオリンピックに200か国以上の国から選手約1万1000人、コーチら関係者約4000人が参加する。1か月後にはパラリンピックにさらに5000人の選手と関係者がやって来る。
一、国際オリンピック連盟(IOC)が作成したコロナウイルス戦略(Playbook)には、海外からの参加者とホスト国となる日本の国民を新型コロナウイルス感染から守るために、選手らにはマスクの着用、ワクチン接種(強制はしていない)、到着時のポリメラーゼ連鎖反応検査(PCR検査)などを義務づけている。
一、2020年3月、東京五輪開催が延期された時点では、日本でのコロナ感染者数は865人だった。世界規模の感染者は38万5000人に達していた。2021年にはパンデミックも下火になり、ワクチンも普及するとの見通しから東京五輪は1年延期になった。
一、その14か月後、日本での感染者数は7万人となり、日本政府は緊急事態宣言を発令した。同時点での世界の感染者数は1900万人になっていた。
【ワクチン接種の現状】
一、コロナウイルスの変種「デルタ株」は従来型よりも感染力が強く、悪性である。デルタ株は現在世界各地で蔓延し始めている。
ワクチンは一部の国で接種が進んでいるが、日本では全人口の5%*1しかワクチンを接種していない。これは経済協力開発機構(OECD)参加国の中でも最も低い接種率だ。
*1=7月15日時点の接種状況は、1回目接種者は4094万9434人で全人口に占める割合は32.21%、2回目接種者は2576万5094人で 20.27%(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/)。
一、ワクチンを開発・製造したファイザーとビオンテックはオリンピック参加選手全員にワクチンを提供すると申し出たが、東京五輪前にすべての選手にワクチンが行き渡る保証とはなっていない。
100か国以上の国ではワクチンは許可されていないか、入手困難だからだ。
一、さらに選手の一部は、ワクチンが身体に支障をきたしたり、倫理・道徳上の理由から接種を拒否する事態も生じており、IOCが強制することはしないことを決めている。
また国によっては、15歳から17歳の選手はワクチンを接種できない。逆に、体操、水泳、飛び込みなどの競技種目では12歳の選手もおり、接種を認める国も出ている。
一、ワクチン接種に関しての共通した基準がないことから、東京五輪参加選手の中からウイルスに感染するものが出てくるかもしれないし、感染した選手らが200か国に上る国にそれぞれ帰国する際にウイルスを持ち帰るリスクは避けられない。