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ハラスメントの二次被害「セカンドハラスメント」を考える

記事公開日:2018年06月13日

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社会問題になっている職場でのセクハラやパワハラ。最近では、被害を受けた人たちが声を上げるようになりました。しかし、そんな勇気ある人たちが周囲からバッシングされたり、協力を得られなかったりする二次被害が後を絶ちません。この二次被害「セカンドハラスメント」で体も心も病み、声を上げたことを後悔する人もいるのが現実です。セカンドハラスメントの被害・加害を防ぐための解決法を考えます。

セクハラ以上に苦痛なセカンドハラスメント

セクハラやパワハラなどにあい、声を上げた人たちがその後周りの対応によって、さらに傷つけられる。セカンドハラスメントは私たちの身近な職場でも深刻化しています。

「上司からセクハラを受けました。社内のセクハラ相談窓口を担当していた女性の上司に相談しましたが、私の話した内容はあっという間に社内に言いふらされてしまったのです。同僚に『あれ本当なの?』と言われるのがどんなに苦しかったか。それはある意味でセクハラそのものより苦痛だったかもしれません」(cocoさん・女性・20代)

自身が受けたセクハラを公表して、現在は被害者の支援にも取り組んでいる知乃さん。
この声を受けて、次のように体験を語ります。

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「私もセクハラを公表した後に、仕事がとれなかったからやっかみだという記事など、いろんなコメントを見ました。今でこそ何でもないですが、告発はすごく精神的にも負担なことです。告発自体が負担になったのに、そのような心ないコメントを見て、傷ついてへこんでいましたね。」(知乃さん)

勇気を持って被害を訴えたり相談したりしても、それが理解されず、それどころか逆に非難されてしまうセカンドハラスメント。長年、職場でのハラスメントの相談にあたっている職場のハラスメント研究所所長の金子雅臣さんは、現状の問題点を指摘します。

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「社会でハラスメントが話題になっているし、男女雇用機会均等法でも企業の中にきちんと相談窓口を作るようにと定められています。それで企業もにわか作りで窓口を作ったり、行政の方も相談のなかにいれたり、いろいろと動いています。しかし、相談を受ける側がセカンドハラスメントについての考え方や受け止め方を理解していないまま、相談窓口だけが広がっているのが問題です。」(金子さん)

職場でのセクハラ問題を多く扱う弁護士の太田啓子さんも、セカンドハラスメントに潜む深刻な問題点を懸念します。

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「セカンドハラスメントがなぜ問題かというと、当該被害者に対してさらなる追い打ちをかけることに加えて、将来の被害者の口を封じる効果があることです。“被害の声を上げるとこんな嫌な目に遭ってしまう”ということを学ばせてしまって、将来もしも被害に遭ったときに、声を上げづらい気持ちにさせてしまう。このような効果があるのが一番罪深いと思います。」(太田さん)

セクハラ被害者を救済できない相談窓口の現状

セカンドハラスメントはどのようにして起こるのか。職場でセクハラの後に二次被害を受けた2人のケースを見ていきます。

主婦の佐藤さん(仮名)は、10年前まで銀行員として働いていました。
当時、職場の飲み会で上司にお酒を勧められ、酩酊状態になった佐藤さん。そのまま上司にホテルに連れ込まれ、慌てて逃げ帰りました。次の日は会社を休みましたが、忘れようと思い、それ以上はとくに何もしませんでした。

しかし、記憶が消せなかった佐藤さんは、1年後に転職することを機に会社の相談窓口に電話をします。対応した男性社員はセクハラをした上司と仲のいい人物でした。そこで、思わぬ言葉を投げかけられます。

「『合意の上だったんじゃないの?』と言われました。そんな若い女の子がおじさんと2人でお酒なんて飲むもんじゃないよと説教されて終わった。大変な思いをしたということを受け止めてくれるはずの部署に連絡して、『お前が悪い』と言われたのですごく傷ついた。」(佐藤さん)

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一方、会社が対応したものの、本人が望まない状況に陥ってしまうこともあります。IT企業で働く鈴木さん(仮名)は、男性ばかりの会議の席でいつも過激な下ネタを言う部長に悩んでいました。その会議がある曜日が憂鬱で、意を決して人事部に相談。

すると、担当者は会社のルールに従って部長を、「懲罰委員会にかける」か「口頭注意で済ませる」か選択するよう迫りました。セクハラ発言を止めてもらいたいだけで、大ごとにしたくなかった鈴木さんは口頭注意を選びます。

これで事態は収まるかと思いましたが、予期せぬ出来事が起こりました。突然、別の部署に異動するよう命じられたのです。

「異動を希望したわけではなく、『次の部署は部長も女性だし、課長も女性だし、メンバーも女性だから、嫌な思いをすることはないと思うよ』とセクハラ発言をした部長から直接言われて。すごくやり場のない気持ちと、なんでこんなことになってしまったのかなという悲しい気持ちでいっぱいでした。人事部に相談したことで、結局自分が社内のキャリアを棒に振ってしまったかなと正直思うところはあります。相談するなら、もう会社を辞めるくらいの覚悟と準備がないと、自分が追いつめられるし困る。」(鈴木さん)

太田さんは、この2つのケースは法的にも問題があると指摘します。

「事業主は男女雇用機会均等法上、セクハラに対処すべき義務を負っています。厚生労働大臣の指針もあり、事業主は雇用管理上講じるべき措置として被害者に対する配慮をしっかりとするべきです。このケースは相談を受けてもきちんと対応していないので、被害相談窓口の対応自体が法的に問題になる可能性があります。過去に違法になり、賠償を命じられた裁判例もあります。」(太田さん)

自殺未遂にまで追い込む上司のパワハラ

会社の相談窓口による対応だけでなく、身近な上司や同僚など、周囲の人から追いつめられることもあります。5年前まで不動産会社に勤めていた田中さんのケースです。

長く正社員として働いてきた40代の田中さん(仮名)の生活は、突然、始まった社長のパワハラで一変しました。

「なんでこんなこともできないのかと言われ、机をドンドンたたきながら『ここから飛び降りて死ね』と・・・。」(田中さん)

叱責は毎日のように続きます。心と体に不調をきたした田中さんは、病院で不安障害と診断されました。上司に相談したところ、「そんなこと、どこの会社に行っても起こるんだから耐えろ。」と、追い打ちをかけるようなことを言われます。

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他に相談することができない田中さんは、薬を服用して働き続けましたが、同僚の対応にも追いつめられたと言います。

「周囲はパワハラのことには触れない状態だったと思います。『気にするなよ』とか、そう言ってくれる人はほとんどいなかったです。」(田中さん)

さらに上司に休職を迫られ、3か月後、そのまま退職に追い込まれます。妻とも離婚し、自暴自棄に陥り、生きていても仕方がないという気持ちになって自殺未遂を繰り返しました。現在はアルバイトで生計をたてている田中さん。5年経ってもときおり当時の記憶が蘇り、苦しくなるとのことです。

会社がパワハラと認めたケースはわずか1割

本人は真剣にSOSを出しているのに、周囲の人がそれに触れないという職場の風潮。その裏付けとして、職場でパワハラが起きても、会社が認めたケースはごくわずかというデータがあります。厚生労働省が企業に勤める従業員など1万人に行った調査では、勤務先で受けたパワハラについて会社側が認めたケースは1割ほどしかありません。

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さらに、パワハラの予防、解決のための取り組みを進めることで「権利ばかり主張する者が増える懸念がある」と回答した企業が6割近くにものぼります。このことについて、職場のハラスメント研究所所長の金子さんは次のように解説します。

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「パワハラの研修をするときに一番皆さんが戸惑われるのは、熱血指導かパワハラかというボーダーラインです。本人のためにしている指導だけど、受ける側はここまでは言われたくないという意識ギャップ。それを見ている周りも、少しくらいやりすぎても、本人のためにしてあげてるのだから、いいんだというのが今までの企業の文化です。利益を上げるためにみんなで頑張ろう、仲間で力を合わせて頑張ろう、お前はそんなことで文句を言うな、という流れが組織の理屈としてあるのが一番きびしいところです。」(金子さん)

被害者を孤立させないことが大事

会社がパワハラを認めていないなかで、どこに相談すればいいのか、多くの人が悩んでいます。
「社内のパワハラ相談窓口がまだまだ機能していないのが現状のため、労働行政に相談したところ、セカンドハラスメントを受けてしまった」という声も寄せられました。

一体どうすればいいのか、難しい問題があると金子さんは言います。

「労働行政は、まだまだこの問題についてきちんと理解をして相談にあたるというトレーニングができていません。弁護士に相談するとか、いろいろな手段があると思いますが、今はとりあえず法律を作り、サポートするシステムを作らないと、なかなか相談する人たちも動きが取れません。」(金子さん)

職場のセクハラ問題を扱う弁護士の太田さんは、日本は国際的にもハラスメントとの取り組みが遅れていて、国を挙げて整備すべきだと主張します。

「とくに零細なところとか、個々の事業所が取り組むのは限界があると思います。やはり国を挙げてやらなくてはいけない。ILO(国際労働機関)の年次総会のテーマが『職場のハラスメントの撲滅』で、国際的な潮流になっています。個々の事業所や個人に任せないで、従業員へのハラスメントをしてはいけないということを、国が正面から取り組むべきです。」(太田さん)

職場でのハラスメント対策が遅れているなか、今できることは何か。大事なのは、無関心にならないことだと自らのセクハラ被害を公表した俳優の知乃さんは言います。

「今の環境は、セクハラをされた被害者が異端扱いされていると思います。そのようなときに、職場内で周りがなるべく気にかけて、『最近どう?』と声をかけてあげたり、『その後何もない?』と話しかけてあげたり、それだけでいいんです。とくにどこに相談して解決しようとかではなくて、無関心にならないことが大事じゃないかなと思います。」(知乃さん)

社会全体としてもサポート体制が整っていない中、職場で声をあげた場合には、まだまだ二次被害にあいやすい状況があります。それでも、被害者を孤立させないこと、そして声を上げた人に対して自分は味方だと示すこと。そんな風に一人ひとりが小さな動きをすることで、少しずつでも、ハラスメントのない働きやすい職場になっていくのではないでしょうか。

※この記事はハートネットTV 2018年5月31日放送「ハラスメント二次被害“セカンドハラスメント”を考える」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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