最高評価をして下さった、いむら Takumi. ジョジョ大好きハーミットパープル ムー173 狂った卵 提灯アナゴ 通りすがりの食いしん坊 雪音 切歌 グルタミン酸素 ナハァト レーザー投げナイフ 叫ぶビーバー の、皆さん。
好評価をして下さった、ryo777 huraurosu takeFD バカきゅー 戦う弟子 とりにく@胸ササミ 高崎 チャーチルダウンズ PorkMan【ポークマン】 アローレイン ハル116 じるむ? 暁棗 蓋が開かない缶 風呂場の猫 チカゲサァン Rellik ゲートルーラーの絶傑 阿部大晟
の、皆さん。ありがとうございます。とても嬉しく思います。
私の息抜き作品で楽しんで貰えたようで本当に感激しています。
「妃ちゃん!今日の放課後ってヒマ?だったら俺とデートしよっ?昨日のお礼にご飯食ーべよっ!」
「おい龍已、コイツ私から離せ。じゃねーと同級生は私とお前の2人きりになるぞ」
「えっ!?妃ちゃん黒圓と2人っきりになるの!?ダメだよ!!男はオオカミなんだから、妃ちゃんみたいな美人と2人っきりになったら襲われちゃうよ!」
「私がそこら辺のカスに襲われると思ってンのか?3級にも勝てねークソザコが。龍已見習えよ。お前が手こずってた雑魚を……」
「巌斎は先程、放課後何しようかとぼやいていたな」
「ホント!?やったぁ!妃ちゃん放課後は俺とデートだねっ!何処に行こうか!?」
「おい龍已!私を使うンじゃねぇッ!!」
廃ビルに居る低級の呪霊を祓った後は、夜蛾が報告書を書くということで解散となった。慧汰は助けてもらった(と思い込んでいる)妃伽に引っ付いて離れず、妃伽はそれに苛つき、龍已は早々に退散した。矛先を向けられても面倒だと思ったからだ。そしてターゲットを妃伽に絞らせた龍已は寮の自室に戻って黒圓無躰流の型の稽古をした。
1人には広すぎる部屋を与えられているので、室内で稽古が出来るのは嬉しいものだ。激しめのものや、武器を使った型までは出来ないが、徒手空拳部分のものなら出来る。それに風呂が備え付けられているので、汗をかいたら流すことが出来る。ただ、もの寂しい。何時もの気配が無いのが気になる。
チラリと、型の途中でベッドの上に放り投げられた携帯を見て、手を伸ばしたが、触れる寸前で手を引っ込めた。今連絡したら、これから先自分一人でやっていく時にすぐ心の拠り所を求めてしまう、弱い自分が形成されてしまう。これから送るのは険しい未来という道だ。そこに心の弱さが有ったら、漬け込まれる。
一人は寂しい。無表情で、呪詛師殺しをしている依頼達成率100%の男が何を……と思うだろうか。だが忘れてはいないだろうか。黒圓龍已とて歴とした人間だ。普通の中学校に通って、仲の良い友達と遊ぶ。仕事は夜にだけ。それだけの生活を送っていたのだ。その仲の良い者達との交流を断たれた。心の拠り所が消失した。だから……寂しい。
龍已は生まれてから毎日必ずやっていた稽古を一応全てやり終え、風呂に入って着替え、何もする気が起きなくてベッドに体を倒す。倒れ込んだ事で携帯が少し宙を舞い、ぼふりと落ちる。寝るには早すぎる。だが、今は何もしたくなくて、龍已はそのまま眠りについた。そんな彼を、武器庫呪霊のクロがジッと見ていた。
翌朝は早く寝たことで早く起き、型の稽古をさっとやって制服に着替え、レッグホルスターと『黒龍』を身に付け部屋を出る。鍵を掛けて食堂に行き、パンの気分なので適当にパンで朝食を作り、黙々と食べて教室に向かった。誰も居らず、パズルをやりたい気分だったのでお馴染みのルービックキューブを弄っていた。
そして同級生がそれぞれやって来て、すぐに先の会話をしていた。人知れずはぁ……と、溜め息を吐く。片方は女に目がなさ過ぎ。もう片方は興味なさすぎ。自身とは似ても似つかない故に、全く系統の違う2人。まだ出会って2日目だが、これから仲良くやっていけるかは分からない。まあ、無理矢理仲良くなるつもりは毛頭無いのだが。
「全員揃っているな、おはよう。今日は早速だが3年との合同訓練だ」
「センセー!その3年って女の人居ますかー?」
「二人居るが、どちらも女子生徒だ」
「マジ!?うっわ超楽しみ!!」
「コイツ任務先で死なねーかな」
「まあ?俺の本命は妃ちゃんだけだけど!!」
「コイツ任務先でマジで死なねーかな」
「はぁ……グラウンドに行けば良いんですよね。俺は先に行きます」
「はぁ……あぁ。3年もすぐに合流するだろうから、準備体操でもして待っていろ」
「分かりました」
じゃれ合っている?妃伽と慧汰を置いて先に教室を出る龍已。その背中を見て手が掛からないな……と思っている夜蛾。出会いがどう考えても最悪だが、教師と生徒という立場上、龍已はしっかりと敬語を使う。意外?失礼だな。
朝から激しく体を動かす事になりそうだと思いつつ、ジャージに着替えて外へ出る。広大なグラウンドにはまだ誰も居らず、屈伸や腕を曲げたりと準備体操をしていれば、慧汰を引っ付けた妃伽がやって来た。教室に居ても慧汰が面倒だから着替えて外に出ようと思えば、また引っ付いてきたといった感じだろう。
最早何も言葉を返さなくなった妃伽に、ずっと笑顔で話し掛けている慧汰。二人を見ているとゲンナリする。無論無表情でだが。どれだけアレに恩を感じているんだと思う一方で、あそこで先に外へ出て来て妃伽に擦り付けてなければ、あそこに居たのは自分かも知れないと考えると、あの時のは実に英断だった。
「あら、もう来てたの。早いのね!良い心がけだと思うわよ?」
「ふふ。面白い子が少なくとも一人居るからね。ガラにも無く楽しみにしていたよ」
「わー!先輩めっちゃ美人!?ねー先輩!良かったら今度俺とご飯にでも行きません!?俺奢りますよ!」
「あ゙ー。やっとマジで邪魔なひっつき虫が離れた。つーか分かってンだから助けろよ龍已」
「お前と話したくて付いていたんだろう。邪険にするのは酷だと思うが」
「何とも思ってねーこと言うンじゃねーよ」
妃伽と慧汰の後からやって来たのは、巫女服のようなものを着ている女子生徒と、ジャージを着て長ものの棒を持っている女子生徒だった。どちらも顔立ちが整っているので、早速慧汰が食いついて擦り寄っていった。妃伽は解放された事で溜め息を吐きながら、助けに入らなかった龍已に文句を言いながら腕を小突いた。
巫女服の女子生徒には断られ、もう一人の棒を持った女子生徒には奢りならば行かせてもらうよと言われて嬉しがっている慧汰を尻目に、龍已は棒を持っている女子生徒のことを少し目を向けた。記憶の中にある髪色。顔立ち。立ち姿。呪力。気配。やはりあの生徒は冥冥だ。烏を操って龍已の移動速度にも離されず監視の目を光らせていた、戦斧を武器に使う女。
ふと見られていたのを感じ取ったのだろう。冥冥は慧汰に言い寄られながら龍已に向けて目線を送った。何を考えているか分からない微笑みを更に深くして、龍已を見ていた。確実に、あの時に撒いた男だと気付いているようだ。そして目線は龍已の目から下に降ろし、脚に向けられた。やはり狙いはこの『黒龍』かと察する。どうやらこれの価値が分かるようだ。
「待たせたな。今回の目的はあくまで訓練。お前達の先輩である3年から助言を貰いながらやってみろ」
「私は庵歌姫よ、よろしくね。名前は夜蛾先生から聞いているから大丈夫よ」
「私は冥冥。程々に頼むよ」
「こんな美人な先輩に手取り足取り教えてもらえるのは感激デッス!よろしくお願いしまーすっ!!」
「ケッ。つまんねーと思ったらもうやらねーからな」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、冥冥さん。相手はどうしましょうか?」
「そうだね。歌姫は巌斎君と黒圓君の相手をお願いしようかね。音無君は私とだよ」
「……すみません。お願いします」
「いいさ。やり辛そうだったからね。その代わりに二対一だからね。黒圓君とやってみてもいいが……今は少し様子見かな」
「……?分かりました」
とても言い寄ってきてやり辛そうにしている歌姫に冥冥がフォローを入れた。どうやら人間的に慧汰は警戒されているようだ。まあそれは仕方ない。自業自得だと思うことにしよう。冥冥が歌姫の嫌がる相手との訓練をやるから、その代わりに二人を頼まれた歌姫はホッと息を吐いていた。
訓練内容は単純な近接格闘の訓練。術式は無しで呪力による強化はあり。相手が降参するか、戦闘不能になったら終了である。最初のペアは冥冥と慧汰だが、そんなものは直ぐに終わる。一応長い棒を持っている冥冥が武器は必要か問えば、慧汰は要らないと答えた。少しは自信があるのかなと思う歌姫だが、逆だ。持っても意味ないのだ。
夜蛾の始めという合図と共に冥冥が駆け出した。長い棒を体の周りで振り回して何処から出すか分からないようにフェイントを入れ、腰を落として構えている慧汰に突きを入れた。ほんの牽制を籠めた一撃は……見事に慧汰の額を打ち抜いた。スローモーションのように背中から倒れる慧汰に、流石の冥冥も目を丸くし、妃伽は指を指して大爆笑している。
歌姫も、まさかここまでとは思わず信じられないような顔をして背中から倒れた慧汰を見て、龍已はやっぱりなと心の中で思った。恐らく慧汰は一般家庭で生まれ、最近まで普通に生きていたのだろう。そんな人間に何年も鍛練を積んでいる人間の一撃は速く重すぎた。妃伽?殴って祓ってるの見つかったんじゃね。
目を回して倒れていた慧汰はハッとして気が付いて起き上がり、土が付いたジャージを叩いて冥冥に向き直った。その顔はとても決まっていて、頭がキマっていた。
「──────どうですか、俺」
「……実に、何とも言えないね」
「フッ……俺は女性には絶対手を上げないと決めているんですよ」
「見えてなかったろ。調子乗ンじゃねーよドカス」
「あれはね、やられたように見せ掛けて死んだふりをしていただけだよ!それで隙を見せたらカウンターを叩き込む!」
「これ以上ねぇ程気絶してたし、一回やられてンだからカウンターもクソもあるかよ、バカだろお前」
「もぉ!妃ちゃんはどっちの味方なの!?」
「少なくともテメェじゃねぇっつーのは自覚しろよボケ」
「えーっと、とりあえず次は私と巌斎さんね」
「あいよー」
「ちょっ…!私先輩なんだけど!口の利き方!」
「めんっどクセーな。だったら──────拳で改めさせろよ」
どうしても圧倒的に負けて気絶したことを、手加減して負けたという方向に持っていきたい慧汰と、クソほども興味が無い妃伽。というか、どちらにせよダサいという認識は無いのだろうか。
さて、次は歌姫と妃伽の番になったが、先輩相手に適当な返事をしている事に咎める歌姫だが、妃伽はつまらなそうに歌姫を見た。そして口調を改めさせたいというのであれば、力尽くでやってみろと挑発する。入学してきたばかりの1年に舐められると分かった歌姫は、望み通りにしてやると息巻いた。
普通ならば入学し立ての妃伽が3年の鍛練を積んできた歌姫に勝つのはかなり難しいと思うが、龍已はそう思わなかった。校舎から向かってくる時に歌姫の歩く姿を見たが、確かに出来る方ではあるがそこまで特出して強いという訳では無いことは分かっている。それに対して妃伽は武術を納めている訳では無いが、素の身体能力が高く、そこに呪力を上乗せする、シンプルな強さがある。
「やあ、黒圓君。
「……やはり気付いていたんですね、冥冥先輩」
「そう固くならなくても、私のことは冥冥でいいよ。初めましてでは無いし、あんなに熱い時を送った仲じゃないか」
「では冥冥さん……と。それに俺は、放って置いて欲しかったんですよ。あなたの烏を撒くのに苦労しました。結局切れなかったですがね」
「だけど、実に良い射撃の腕の持ち主だよ、君は。ところで、後で私と二人っきりで話さないかい?何か飲み物でも奢るよ」
「それが本題でしょう。それに結構。冥冥さんは『黒龍』やレッグホルスター、あの時の戦鎚等の呪具に興味があるようですが、生憎と教えるつもりはありません」
「おやおや、つれない子だねぇ。それに私は君の呪具にも興味があるが……君にも興味があるんだよ」
「……なるほど──────冥冥さんは呪術師の家系のようですね」
「ふふ。物わかりが良い子は好きだよ」
隣にやって来た冥冥に、内心面倒だなと思いながら対応する。冥冥が興味あるのは呪具についてだろうと当たりを付けてみれば正解だった。明らかに高性能の呪具。それを手に入れたラインに探りを入れようとしているのだ。だがそれは許さない。行き着くのは虎徹。天切家の天才児だ。何処でボロが出るか分からないし、冥冥には情報を渡してはいけないと勘が言っていた。
そして龍已自身にも興味が有ると言っているが、正確には黒圓に興味があるのだろう。黒圓無躰流を修める最後の生き残り。一般人からしてみれば、単なる武術だと思うだろうが、呪術界からしてみれば、呪術全盛の時代から絶えること無く残っている近接最強と謳われた武術だ。中身を知りたいと思うものは決して少なくはないのだ。
冥冥は黒圓無躰流の中身を知りたがっている。つまりは黒圓をよく知る呪術家系の生まれということだ。だが、どちらにせよ喋るつもりは無い。何故なら、黒圓無躰流は全てが一子相伝の超閉鎖的武術。教えることは禁忌である。それに、龍已はもう……
「──────オラオラッ!!改めさせるンじゃなかったのかよオイッ!!こんなんじゃ準備運動にすらなんねーンだよッ!!」
「ぐっ……くッ……っ!!」
「巌斎君は随分と激しいアタッカーのようだね」
「術式が身体能力を増大させる類のものなので、必然的にそうなったのだと思います」
「呪力も申し分ないし、元の身体能力も高い。中々強いね。歌姫が負けてしまいそうだよ」
既に始まっている歌姫と妃伽の対戦を見守る。見るからに近接タイプである妃伽は、冥冥と歌姫の予想通り殴って蹴ってがメインの戦い方をする。そこには武術の技術は無く、近付いて休ませる暇を与えない猛攻を叩き込む。
素の高い身体能力に合わせて籠められる呪力は、実に近接戦に於いて厄介だ。一撃一撃が異様に重く、真面に食らえば簡単に吹き飛ばされて終わるだろう。それが常に息づく暇も無く浴びせてくるのだ。近接戦にそこまでの自信があるわけではない歌姫は、顔の横を通り過ぎる殴打に冷や汗を流しながら対抗している。
しかし3年の先輩は伊達ではない。隙を生み出して妃伽に一撃を叩き込む事に成功した。掌底が妃伽の頬に打ち込まれた。音もいい音がした。それなりの呪力も籠めた。これならばどうだと思った歌姫を裏切り、掌底を打ち込まれて頬が歪んでいる妃伽は、掌底が頬に食い込んだまま目は一切逸らさず、口の端から一条の血を流しながら口の端を持ち上げて獰猛な笑みを浮かべた。
「フハッ……──────次は私だぜェッ!!!!」
「えっ──────ぐぶッ……!?」
掌底を打ち込んだ歌姫の腕を首の筋肉だけで押し返し、無理矢理距離を詰めた妃伽の固く握り込んだ、人や呪霊を殴り慣れた拳が、歌姫のガラ空きとなった鳩尾に抉り込むように叩き込まれた。先の戦闘で当たれば終わりとヒヤヒヤしていた一撃が、よりにもよって鳩尾に打ち込まれた。
喉奥まで何かが迫り上がってくるのをどうにか堪えると、歌姫は後ろへ跳んで距離を取る。しかし背中に何かがぶつかった。こんな近くで観戦しているのは誰だと文句を言いたくなった歌姫だったが、前に居た筈の妃伽が見えない。まさかと思いながら振り返ろうとする前に、背中へ重い衝撃が訪れた。
「が……ぁっ!?」
「吐きそうか!?だがまだ終わってねーんだよコッチはよォッ!!」
強化された身体能力で背後へ回っていた妃伽に、背中へ問答無用の蹴りを入れられた。本当に人間が蹴ったのかと思いたくなる衝撃が突き抜け、歌姫は逆くの字になりながら吹き飛ばされそうになるが、その前に腕を掴まれ、地面に叩き付けられた。
吹き飛ぶ前に腕を掴むとか、一体どんだけの反射速度なのよ……と、遠くなりそうな意識で考えながら、仰向けに倒された歌姫は、妃伽に馬乗りに乗られた。左手で首を絞められ、右手は腕ごと大きく振りかぶっている。姿を現している眩しい太陽の所為で見えづらいが、妃伽は舌舐めずりをしながら笑っていた。
先輩としての威厳もクソも無いと思いながら、歌姫は最後の一撃を受け入れようとして瞼を閉じる。しかし衝撃は一向にやって来ず、片目の瞼を開けて見てみると、振り下ろされる筈だった妃伽の腕は、此処へ来た時からずっと無表情の一年生である龍已に掴まれていた。二人が何かを話している。それだけは分かったが、後は意識が持たず暗闇へと落ちていった。
「おいおい、何で止めンだよ。良いとこだったろ」
「それ以上は訓練では無くなる。庵先輩は既に意識を手放している以上殴打する必要は無い筈だ。結果はお前の勝ち。十分だろう」
「ハッ。夜蛾が合図もしてねーし、降参っつー声も聞いてねぇ。なら続行だろうがよ。それとも……お前が私のこの火照りを鎮めてくれンのかよ?あ?」
「そうしなければ鎮まらないというのであれば、致し方ない」
「──────上等だ」
振り下ろさんとしている妃伽の腕の手首を掴んで止めている龍已は、それ以上は必要無いと判断している。もう歌姫は気絶した。そこに一撃を入れるのは違うし、これはあくまで訓練だ。殺し合いなんかでは無い。歌姫に一撃入れられて昂ぶっている妃伽は、手懐けられていない猛獣と同じだ。
腕を無理矢理引き剥がして立ち上がり、180センチある龍已と殆ど同じ目線の妃伽が睨み合う。一応この戦いは妃伽の勝ちである。夜蛾からも改めて言われた。そして龍已は歌姫の元まで行くと、背中と膝裏に腕を入れて横抱きに持ち上げた。
妃伽はこれから直ぐにやろうとしていたのに、如何にも気絶した歌姫を医務室に連れて行こうとしている龍已に青筋を浮かべた。怒鳴りつけてやろうと一歩踏み出すと、全く関係無かった慧汰が歌姫を抱き抱える龍已に詰め寄った。
「なんで黒圓が歌姫ちゃんのことお姫様抱っこしてんの!?俺がするから貸して!!」
「お前が持てる訳が無いだろう。大人しく俺が戻るまで巌斎の相手をしていろ」
「ズルいズルい!俺も歌姫ちゃんをお姫様抱っこしたい!女の子に触りたい!」
「……今巌斎は体が火照って仕方ないらしい。発散させてやったらどうだ」
「えっ!?ほんと!?妃ちゃーん!俺と熱い日を過ごそっ?忘れられない日にしてあ・げ・る♡」
「本気でぶち殺されてェみてェだなクソザコが……ッ!!」
後ろでギャーッ!という悲鳴を聞きながら、龍已は歌姫を抱き抱えたまま医務室へと向かっていった。連れて行くのは冥冥でも良かったのだが、さっさと連れて行きたかったので足が速い自身の方が良いだろうと判断した。慧汰?セクハラかましそうだから任せるわけが無い。
震動を与えないように最小限の揺れで済むように走りながら医務室へ向かう。足で器用にドアを開けて、医務室の先生が居ないようなので適当なベッドの上に歌姫を寝かせ、布団を被せておいた。倒された時に付いた土以外は汚れが無いようなので放っておき、顔に付いた土は濡れたタオルを持ってきて優しく拭いた。
呼吸も安定しているし、骨が折れている訳でも無さそうだと確認し終えた龍已は、ベッドのカーテンを絞めて医務室から出て行った。走ってグラウンドに戻ると、顔がボコボコになっている慧汰と、腕を組み、爪先で地面を何度も叩いて苛つきを抑えていない妃伽が居た。冥冥その光景を面白そうに眺めているだけで、夜蛾は頭が痛そうに額を抑えながら溜め息を吐いていた。
「おっせーンだよ。つーかこのクソザコ私に嗾けさせるンじゃねーよ。準備運動以下だわ」
「……まだ気は鎮まらないのか」
「──────さっさとヤろうぜェ?」
「──────多少の負傷は覚悟するんだな」
「ん、んん……ここは……」
「起きましたか。庵先輩」
「あんたは……」
歌姫が目を覚ました。殴られた腹部がズキズキと痛み、咄嗟に手で押さえてしまった。痛みがあることを自覚したら、なんだか叩き付けられたときの背中も痛いような気がした。そこで声を掛けられた。横を見ると丸椅子に座って足を組んでいる龍已が居た。一年生の中に居た、常に無表情の男子だ。
制服にレッグホルスターと真っ黒な銃を納めているという不思議な格好をしている龍已。そして全く動かない表情筋。愛想が悪い子だなと、ひっそりと思っていると、龍已が背後から細くて小さいナイフを取り出した。あれ、考えている事がバレて殺される?と思った歌姫が少し顔色を悪くしていると、左手には林檎が握られていた。
「動物と言われて何を思い浮かべますか?」
「え?……そうね、今は猫……かしら」
「分かりました」
「……?えっと……授業はどうなったの?私、巌斎さんにやられちゃって……」
「巌斎ならば
「え、えぇ!?どうしたのよ!?何かあったの!?」
「……巌斎が暴走したので
「……そう」
ナイフを使って林檎を切り始めたのを視界に収めながら、歌姫は気まずかった。先輩だから敬えと言って、意気揚々と向かっていったら年下の後輩にコテンパンにやられたのだ。先輩なのに。後輩に見せる顔が無くて恥ずかしくて、不甲斐なくて仕方ない。
しかし龍已は何も言わなかった。弱いですねとも、ご愁傷様ですとも、何も言わず林檎を切っていた。話し掛ければ答えは返ってくる。喋る事が出来ないという訳でも無いし、冷たいという訳でも無い。
ショリショリという林檎を切っている音だけが響く。何となく居心地が悪いと思った歌姫は、布団を鼻の位置まで持ち上げて言いにくそうに龍已へ問い掛けた。
「私、格好悪かったわよね。あんな事言っておきながら、巌斎さんには手も足も出なくて……ほんと、私って弱い」
「アレは巌斎が悪いと思いますが。それに人には向き不向きがあります。確かに庵先輩は特出して近接戦が出来るという印象はありませんが、冷静な判断力があると思います。怒りで優先順位が狂うのは、良くは無いと思いますが」
「うぐっ……でも、冷静な判断力っていうのはどこを見て言ったの?私はあなたとさっき会ったばかりなのよ?」
「巌斎との戦闘中のやり取りですよ。庵先輩からすれば一撃必殺の殴打や蹴りの応酬の中で、少し隙があっても飛び込まず、明らかな隙が生まれるまで粘っていましたよね。やろうと思っても意外と先を急ぐものです。なので、俺は現時点で庵先輩のことを冷静な判断力を持つ先輩と認識しています」
「だけど……私、入学し立ての巌斎さんに負けたわよ?」
「純粋な『強さ』が生かされる業界では無いと思いますが。その時その時の状況によって幾らでも戦況は変わります。それに負けることは決して悪いことでは無いですよ。事実を受け止め次に活かす。それが人間がこれまで重ねてきた『生きる』という行為です。悔しい気持ちが有るのは仕方ないですが、それを活かし、次に同じ失敗が無いようにすればいいんじゃないでしょうか。俺は父以外の人に近接戦で負けた事はありませんが、人並みには失敗を重ねています。1つのことを気にしすぎると……これから先やっていけませんよ、庵先輩」
「……………………。」
何だか、異様に説得力のある言葉だと思った。年下で、まだ会って数時間しか経っていないというのに、まるで見てきたかのような物言い。なのに、そんな言葉を無表情で淡々と話しているのだから可笑しくなってしまう。
最近依頼が何度も入ったりしていてナーバスになっていたのかも知れない。ウジウジ悩むのは性に合っていない。バチンッと頬を両手で叩いて気合いを入れ直すと、何時もの庵歌姫が目を覚ました。
後輩に元気付けられるのは、先輩として思うことがあるけれど、それよりもこの言葉遣いもちゃんと出来ている後輩は良い子だという事が分かった。一人は女の子に目が無い、少し苦手なタイプで、もう一人は敬う?なにそれ殴れる?という感じの子。つまり、あの中でも一番良い子なのだ。こうして見舞にも来てくれているし。
「では、庵先輩が起きたので、俺は教室に戻ります。巌斎が失礼しました。良かったら林檎、切ったので食べて下さい」
「えぇ。ありがたくいただ……え?ナニコレ??」
「……?庵先輩が猫を思い浮かべると言われたので、切りました」
「どこの芸術作品なのよこれ?」
皿の上に8等分された林檎の皮の部分には、本物か?と思えるくらいには精巧に掘られた猫の姿があった。なんかさっきからずっと切ってるなとは思っていたが、話している傍ら、とんでもない作品生み出していたと思うと唖然とした。だから動物のことなんか聞いてきたのか。
というか、聞いてリクエストを求めるってことは、他の動物のも出来るの?林檎の皮で?どうしよう、普通に見たい。マジマジと見つめていた歌姫を尻目に、龍已は立ち上がってカーテンに手を掛けていた。歌姫は、龍已にまだお礼を言ってないので急いで待ったを掛けた。
「それではお大事に、庵先輩」
「待って!……ありがとう黒圓。元気が出たわ。それと林檎も。とても凄いわね。あと、私のことは歌姫でいいわよ。私もあなたのことは龍已と呼ばせてもらうわ。これからよろしくね」
「……えぇ。よろしくお願いします。林檎、機会があればまた掘りますよ。その位は簡単に出来ますから」
「本当っ!?なら楽しみにしているわ!」
今度こそ出て行った龍已は、しっかり最後はカーテンを閉めて医務室から出て行った。歌姫は手元にある皿の上に乗った芸術作品のような彫刻をされた林檎見下ろす。これを簡単に。スゴい器用だなと思いながら、ウィンクしている猫の皮が付いた林檎を手に取って一口齧った。
もったいないと思いながら食べた林檎は、何だか前に食べ時よりも甘く、美味しく感じた。
冥冥。
嘗て会った事のある戦斧を振り回していた女性。龍已が歌姫を抱き抱えた時、おぉ……やるねぇと思いつつ見てただけの人。その場の空気を存分に楽しんで任務行った。
龍已の呪具の出所を虎視眈々と狙いつつ、黒圓無躰流に目を光らせている超守銭奴。
庵歌姫。
先輩。五条達の3つ上らしいので、龍已の2つ上。
近接戦そこまでだと勝手に思い、一年生のメスゴリラに殴られてもらった。直ぐにメンタル回復するくらいにはメンタル強い。
ここだと冥冥と同い年にしたけど、若しかしたら設定だと違うかもしれない。冥冥とは別に仲悪くないけど、特別良くも無く、ビジネスライクみないな?雰囲気的に敬語使ってる……みたいな?何かそう言う関係。伝わらない……かなぁ。
林檎……全部食べちゃった……もっかいやって……。
巌斎妃伽。
2つ上の先輩ボコった。
なんで医務室に居たの?まあ……
なんて凶暴で獰猛なメスゴリラなんだ……。
音無慧汰
ナンパしてボコられただけの子。
冥冥とはデート出来たけど、クソほど金使わされた。
冥冥先輩……(他人の金だと)容赦なさ過ぎ……もう誘わない……。
それが正しいと思う。
龍已
先輩のお見舞い行けるの俺しか居ない……行くか。
あ、林檎剥こう……リクエストは……猫か。ヨユーヨユー。
え?どうやったらそんなに上手く剥けるのか?
スッとやってサクッ……かな。え?分からない?センスね~。