呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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第六話  銃の産声

 

 

小学校の卒業式を終え、中学校の入学式も終えた。小学校の卒業式では泣くことは無かった。近くにある中学校に殆どの学生がそのまま入学するからである。それに親友達とは離れること無く、全員で一緒に同じ学校なので泣く要素が無かった。

 

中学校の入学式は特に何とも思わなかった。違う学校に通うようになっただけなのだから。今まではランドセルで通っていたが、今度は大きなエナメルのバッグを持って自転車に乗り登下校する。虎徹は普通の自転車を購入したが、術式を施してペダルが軽くなる効果を付与していた。龍已は買わなかった。走るからである。というか走った方が速い。

 

中学に上がって一番変わるのは、やはり部活だろう。放課後にそれぞれが選択した部活を行い、試合や大会に出て仲間達と青春をする。だが当然のこと、龍已は部活に入らなかった。虎徹の家に帰って術式や黒圓無躰流の鍛練を積まなければならないからだ。虎徹も呪具を造らなくてはならないので部活はパスした。

 

ケン達はサッカー部に入った。元々走るのは得意な方だし、小学校の頃にサッカーをして遊んだりもした。まあ最もたる理由は、ケンがサッカーをやってモテたいからである。モテる部活最上位にランクされているサッカーをやっていればモテるという寸法だ。だが悲しきかな、それは但し書きでイケメンに限るが入る。

 

小学校から殆どの学生がこの中学校に入学してきた。つまりはケンが気になっていた子達を悉く掻っ攫っていったイケメン達も来るということだ。しかも御丁寧に全員サッカー部ときた。ケンは泣いた。

 

入学してから少し経って6月。龍已に待ちに待った瞬間が訪れた。中学まで結局時間が掛かってしまったが、龍已専用の銃が出来上がったのだ。膨大な呪力と強大な呪力出力に負けて、普通の銃でも、少し特殊な金属を使っただけでは見るも無惨な姿に変えてきた龍已。だがこの日、虎徹は龍已が全力で使っても絶対に壊れない銃を造ることに成功したと言っていた。

 

 

 

「じゃじゃーん!これが僕の最高傑作『黒龍』だよ!」

 

「……これが」

 

 

 

いつもの地下空間に来てほしいと言われてやって来た。そこには既に虎徹が居て、近くの棚にアタッシュケースが開いた状態で置いてあった。近くに行って中を覗き込むと、二丁の真っ黒な銃が入っていた。精巧で完成度が完璧。そして見るからに今までの銃とは何かが違う。存在感とでも言うべきか。普通の銃が使われるための銃ならば、これは使わせないための銃とでも言おうか。

 

混じり気の無い真っ黒な色合いに、尋常では無い存在感を放つ異色の銃に見惚れていると、銃の違いを見破った龍已に気を良くしたのか、未だ美少女にしか見えない美しい顔に満面の笑みを浮かばせた。

 

 

「やっぱり龍已には分かるよね!これはね、宇宙から飛来した隕石の中にあった超極微量の特殊金属をふんだんに使った銃なんだ!構造は普通の銃と同じだけど、恐らくコレを扱えるのは世界広しといえど龍已くらいだと思うよ!」

 

「隕石の中に含まれていた特殊金属……?」

 

「ほら、映画のウルヴァリンに出て来たアダマンチウム(破壊不可能の特殊金属)ってあったよね?あんな感じだよっ。多分小さな部品一つすら壊せないと思うよ!」

 

「……アレか。だがあれはかなりの……まさか……」

 

「んふふー。さぁ──────持ち上げて()()()?」

 

 

 

虎徹の言わんとしている事を理解したのだろう。龍已は何故か嫌な予感が背筋を奔り抜けた。米神に嫌な汗が流れる。もし、もし仮に予想通りなのだとしたら、虎徹はまたとんでもない事をして、とんでもない代物を作り上げた事になる。

 

ごくりと喉を鳴らして、異色の存在感を露わにする黒銃に手を伸ばす。指先が触れた時の感触は、どこまでも硬い。鉄製の銃が柔らかく感じてしまう程の、そんな錯覚を起こしてしまう硬さ。小さく深呼吸をし、意を決してグリップを握り込んで持ち上げようとして……持ち上げられなかった。

 

普通の銃を持ち上げようとした感覚でやろうとしたのがいけなかったのだろう。全くビクともしなかった。珍しく少しだけ目を瞠目させた龍已は、今度は完全に持ち上げるつもりで強く握り込んだ。瞬間、有り得ないほどの重量が手と腕に掛かった。少しずつ持ち上げていく龍已に、虎徹は狂気の混じった歓喜の笑みを浮かべた。

 

 

 

「……っ……くッ」

 

「えへへ……にへへぇ……やっっぱり龍已は最高だよっ!!流石は龍已っ!!君になら出来ると信じて造った甲斐があったよっ!!普通の、そこら辺に居るような奴等じゃ触れることすら烏滸がましい、僕の最初の初代最高傑作っ!!隕石から、それも全ての隕石ではなく、選ばれた極少数の隕石の中にある極微量の金属を使用した超貴重にして超特殊金属をふんだんに使用した超重量姉妹銃『黒龍』っ!!他の奴が手にしても使える奴なんて居る訳が無いっ!!例え使えても使()()()()()()()()()()()()()()っ!!真の意味で使い熟せるのは君しか居ないよっ!!その一丁で──────重量120㎏もある『黒龍』を使い熟せるのはっ!!ふふふっ!あははっ!!」

 

「……とんでもなく異常な最高傑作を用意したものだ。最高だぞ、虎徹」

 

「んふふっ。どういたしましてっ」

 

 

 

龍已の専用銃『黒龍』。その特徴は普通の人類には扱えない程の超重量。見た目は黒い銃に思えるそれはしかし、100キロを越えるという化け物銃である。片手では持ち上げられない。両手でも無理だろう。こんな小さなものを持ち上げるのは。しかもこれは戦いで使用されることを前提とした代物だ。尚更無理だろう。出来るとしたら、神に愛された肉体を持つ『超人』だけだ。

 

一丁だけでも120㎏ある化け物は、残念なことに二丁で一つ。つまりもう一つ手に持たなければならない。龍已は冷や汗を流しながら、アタッシュケースに収まっているもう一丁の『黒龍』に触れてグリップを握り込み、ゆっくりと持ち上げた。それを見れば虎徹は蕩けそうな程の笑みを晒し、顔を赤らめてニッコリ笑う。創造主として狂気を孕んだ、悍ましい笑みだ。

 

 

 

「人間の括りから脱した、まさしく『超人』にしか扱えない、龍已専用の姉妹銃。さぁ……撃ってみて。そしてこの僕に見せて、聴かせて。最高の君が撃つ、最高傑作の産声をっ!!!!」

 

 

 

「──────最高の産声(一撃)を見せてやろう」

 

 

 

総重量240㎏ある姉妹銃を、龍已は振り上げた。床と水平になるように腕を伸ばしきる。一体それだけの動作にどれだけの荷重が掛かっているというのだろうか。最早人間ではないナニカ(ゴリラ)としか言いようのない筋肉を惜しげも無く使用して、今の状態を作っている。

 

向かいにある空間に向けて銃口が向けられた。黒き銃はその瞬間を静かに待ち、持ち主の肉体の内部からは膨大な力の源……負の感情から生まれる呪力が唸りを上げて這い上り、肩を通って腕を通過し、手首を渡って『黒龍』へと届けられた。呪力の青黒い光が集まり、空間がキシリと悲鳴を上げ……解放された。

 

並んだ姉妹銃から放たれたのは、これまで一発限りで実現したような()()()光線ではない。一撃必殺。当たれば即死。それを思わせる強大で巨大な、これこそ破壊光線と言わしめる光だった。高い天井いっぱいいっぱいまで使用した一撃は、遙か向こうにある地下空間の壁に到達し、爆音と地震を思わせる揺れを叩き出し、ドリル車で無理矢理開けたかのような二つの巨大な大穴を作り出した。

 

 

 

「──────見届けて聴き惚れたか?これこそお前が造り出した最高傑作の産声(一撃)だ」

 

 

 

「僕はね……こんなに感動したことが無いよ。ありがとう。本当にありがとう、僕の親友(天使様)

 

 

 

恍惚とした表情で見つめる先には、満足そうに『黒龍』を手に馴染ませている龍已の姿があった。そしてそんな龍已の手の中にある『黒龍』には、罅や損傷の欠片も存在しなかった。龍已は自身でも扱える武器(あいぼう)を手に入れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────お前が呪詛師抹殺の依頼を受けたいっていう奴か?」

 

「……そうだ」

 

 

 

ある日、太陽が沈んで真っ暗な闇が広がる深夜の時間帯。唯でさえ人が少ない時間帯にも拘わらず、人が滅多に立ち入らない山奥の廃家の前にて、2人の男が邂逅していた。一人は世に蔓延る呪詛師の抹殺を請け負おうとする者。一人はそんな抹殺を依頼という形で依頼者との仲介を請け負う仲介人である。

 

無論、仲介人と接触したのは黒圓龍已。手に入れた戦場の相棒との馴染ませが済んで直ぐに虎徹が選んだ仲介人との待ち合わせを行った。

 

 

 

「チッ……呪具師の名家の天切からの紹介だからっていうから来てみれば、まだ中坊のガキじゃねぇか」

 

「……中坊のガキだと不満か」

 

「あたりめぇだろうが。俺が仲介するのは殺しの仕事なんだぜ?それも唯の殺しじゃねぇ。呪術を扱う呪詛師の殺しだ!それだってのになんだ?名家が紹介するっつって居るのはガキだ!ふざけてんのか!?こいつは遊びじゃねぇんだよ!!」

 

「そうだな──────俺も遊ぶつもりは無い」

 

「おいおいおいっ!?あ゙ークソっ!!ここを指定したのはそういうことかよっ!!」

 

 

 

黒いフード付きのローブを身に纏った龍已に、失望したような視線を向けていたが、中から黒い銃が出て来て顔に照準を合わせられたことで、何故こんな所を待ち合わせ場所にしたのか察した男は、顔を歪めて苦々しい言葉を吐露した。人が居ない、来ない山奥の廃家。つまり誰かが撃たれて死んでも証拠隠滅がし易いところだ。

 

平気で銃を向けてくる龍已の、無表情で感情が読めない琥珀の瞳を初めて見て、心底ゾッとした。本当に何も感じられない。罪悪感も優越感も慢心も何もかも。だから解った。コイツは撃つ……と。依頼者は呪詛師に誰かしらを殺された者達で、呪詛師の目撃情報や身体的特徴、持っているだろう術式の情報を秘密裏に集める組織と繋がりを持っている仲介人。そしてこの仲介人こそが、依頼者が出した依頼を受けるに値するかを寝踏みする。

 

だからこの目の前で銃口を向けている中坊のガキは、言外に言っているのだ。呪詛師を抹殺する仕事を斡旋しなければ、用は無いからこの場で殺すと。

 

 

 

「この銃は俺専用の特別製だ。重く硬く強い。普通の銃では撃てない弾を撃てる。例えば──────炸裂徹甲弾とかな」

 

「は……?ふざっけんなよ……っ!?戦車の装甲をぶち抜ける代物ってか!!そんな銃で!?だとしたら反動でお前の手や腕は吹っ飛ぶぞ!!」

 

「生憎、肉体には恵まれている。呪力にもな。これと弾を造ったのは、俺が唯一信頼している技術者だ。試してみるか?但し、的はお前の頭だ。俺やこの銃を否定し易いようにもう一つ喋る口を作ってやろう」

 

「……っ…依頼が失敗すれば俺の信用もガタ落ちだってのにクソッ……っ!わーった!わーったよ!!お前に呪詛師殺しの依頼を仲介してやる!だが一度でも失敗したら二度とお前には依頼が来ることは無いからな!!」

 

「良いだろう。元より呪詛師を逃がすつもりは無い」

 

「……ったく!厄日だぜ」

 

 

 

男は悪態を付いて嫌そうな表情をした。しかし変な予感があった。このガキは何故かやってくれる……という、漠然とした予感が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭がイカレてるとしか思えない中学生のガキ……黒圓龍已と出会って3日後の土曜日。仲介した依頼の達成予定日だ。前日に依頼者からどんな手を使ってでも殺して欲しいと言われている呪詛師の情報を明け渡した。身長体重。目撃した時の似顔絵。使ったであろう術式。最後の目撃情報に、居るであろう場所。それらの全てを渡したのだ。本当に居るかは解らない。だが龍已は見つけ出して殺すと言っていた。

 

会って数日しか経っていない青二才のガキの言うことだ。信憑性は皆無と言っても良い。しかしこの日に必ず殺すと言った。それも日が完全に沈んだ夜に殺すという。何故なのか問えば、知る必要は無いし、そこまでの情報を教えてやる義理は無いと言った。確かに自身は所詮仲介人だ。依頼を持ってきて情報を与えるのが仕事だ。だが言わせて欲しい。向き不向きを吟味するのにある程度の情報が必要だろうがと。

 

殺し終えたら連絡すると言われたのは今朝方だ。夜までずっと待っている。しかし一向に連絡が来ない。今の時刻は夜中の10時半だ。外は人口灯が無ければ真っ暗闇の中だ。そんな中で目的の人物を捜し出して、術式を持って人を殺すような奴を殺せるというのか。たかだか10幾つのガキが?

 

仲介人として何人にも依頼を仲介してやったが、舞台は呪術界だ。人の死が非常に多い業界だ。呪詛師を殺す依頼を受けて殺された呪術師だっている。つまり不安なのだ。あれだけ大見得切ったクセして簡単にポックリ死なれるのが。自分の信用が無くなるし、若しかしたら未来あるガキかも知れないのが、自身の出した依頼で死なれると後味が悪いのだ。

 

本当に呪詛師を殺せるんだろうな?と、自問自答していると、仕事用の、予め龍已に渡しておいた携帯からの連絡が来た。心臓がドクリと波打ち、少し緊張しながら携帯を開いて受信ボタンを押した。

 

 

 

「で、どうした?見つけられなかったのか」

 

『……?もう殺した』

 

「──────は?」

 

『見つけ出して殺したと言った。遠くから狙ったもので、現場に着くまで少し時間が掛かった。証拠はこのあと写真で送る。本人かどうかはそっちで確認しろ』

 

「は、おいちょっ……切りやがった……。んん、メールか」

 

 

 

あっけらかんと言われたことを理解するのに数秒掛かり、その間に電話は切られてしまった。未だ半信半疑な男を裏切るように、直ぐに手に持つ携帯へとメールが届いた。受信したメールのアイコンを押してメール履歴の一番上を見ると、件名のところに『呪詛師の抹殺を完了』と書かれており、本文を開くと写真が添付されている。

 

携帯が添付された写真をダウンロードし、全体が映し出された。そこには、前側が完全に弾け飛び、内臓が全て無くなった状態の空となった胴体。光を写していない瞳を晒している死体の顔。その顔は似顔絵と酷似しており、完全に死んでいる事が窺える。

 

何をどうやったら、胴体が中身ごと完全に弾け飛ぶんだと言いたいし、遠くから狙ってそれはどういう手口だと、色々言いたいことがあるが、問うたところで教えないと言われるだけだろう。何せこっちは黒圓龍已という名前をどんな理由があろうと他言しないという『縛り』を結ばされているのだ。手口を晒すのが嫌なのだろう。解っているのは、あの時見せた銃を使うだろうことと、言動からして依頼は夜に行うということだけだ。

 

 

 

「ははっ──────本当に依頼達成しやがった」

 

 

 

与えた依頼の難易度は決して低くは無い。それを静かに遣り遂げた。これは案外レアを引き当てたんじゃないのか?と、肩にのし掛かっていた重しを幾らか軽くした仲介人は、懐から煙草を取り出して火をつけ、煙を吸い込む。肺に貯めた人体に有害な煙を口から吐き出して一息つき、写真の下の本文の所に書かれた口座を確認した。

 

電話を掛ける。相手は仲介している組織だ。依頼の達成と証拠を確認した事を告げ、口頭で口座を教える。振り込まれるのはかなりの大金だ。依頼者が必死に掻き集めた全財産だ。総額はうん千万である。普通はここまでの報酬は出ない。初めての仕事にしては高額だ。一人殺すだけで割の良い仕事と割り切るか、結局は人殺しと場数を踏むごとに悩み始めるかは本人次第だが、あのガキは悩まねぇだろうなと思う。

 

 

 

 

 

 

 

呪術師は何かしらでイカレている奴等とは良く言ったものだ。アレは確かに……イカレてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






超重量姉妹銃『黒龍』

人間の域を越えた『超人(ゴリラ)』にのみ使用可能な専用武器。私達……それぞれ120㎏あります♡きゃっ、言っちゃった☆
どこの暗殺者一家のヨーヨーだ?

二丁合わせて40億くらい。超特殊金属に金が掛かった。絶対金は返すことを誓っている。

龍已が全力で使っても「ん?今何かした?」って感じのクソ硬銃。

何でこんなに銃を重くしたの?

ガン=カタって知ってますか??





依頼に出された呪詛師

とある弱い呪術師家系の夫婦の妻を犯してビデオに取り、夫に送りつけた後、精神的に参っていた妻を再び襲って夫の前で殺した強姦と殺人を行った呪詛師。触れた相手の意識を少しだけ混濁させる術式。

どうやってかは解らないが腹の中身をぶちまけて即死。これは普通に龍已が威力調整ミスった。本当は腹を破ってぶちまけるつもりは無かった。


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