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名作モンスターワールドシリーズを手掛けた方の業界黎明期からゲーム業界復帰までを語り尽くした面白いインタビュー。僕もメガドラ時代モンスターワールドIV買って楽しくプレイしました。アーシャとペペログゥがかわいい、難易度高くないアクションゲームです。
今回気になったのはインタビューのここ。
──今回の『アーシャ』に対して、海外の反響はどのようなものだったのですか?
西澤氏:
1年ぐらい前に最初に発表した時は、めちゃめちゃネガティブな反応でした。「なんで3Dにしたんだ。こんなの『モンスターワールド』じゃない」と、アート面にすごく怒っている人が多かったんです。
今は見慣れたせいなのか、あんまり怒っている人を見ないんですけど。でも最初のPVを出した時はなんでそんなに怒るのか、我々には理解できなかったですね。『アーシャ』について海外のインタビューを6社ぐらい答えたんですけど、どのメディアも「なんで3Dにしたんだ?」って質問があるんですよ。それを聞かれても、すごく困るのね(笑)。
なるべく一生懸命、丁寧に説明しようとしているんですけど、毎回同じことを聞かれるので、もう「メガドライブ版の開発当時も、積極的に2Dを選択したわけじゃない」って言いたくなってしまうんですが、大人なのでグッとこらえてます(笑)。──3D化に対して拒否反応を過剰に示すのは、海外のレトロゲームファンには「あるある」な反応ですね。でもやっぱり、そういった反響を巻き起こすだけの注目度が、海外にはあるんですね。
元のモンスターワールドIVがこちら。
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最新3Dリメイクがこちら。
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3D化とドット絵ファンのすれ違いは、あまり言語化されてないと思います。開発者からしたら3Dの方ができる演出や表現の幅が増えるんだから3Dの方が絶対いいじゃんとなるんですが、3D化、高解像度化で失われるものもあるんですよね。
3D化するメリットはたくさんあって
・カメラの引きやアップ、回り込みなどたくさんの演出が使えるようになる。
・でかいキャラを作りやすくなる。でかいキャラはドット絵の方がメモリ食って制作コ ストも高くなる。特にボスの表現。
・頭身を上げやすくなり、頭身の高いキャラも作りやすくなる。ドット絵はでかいキャラ動かすとメモリ食いすぎる。
・頭身高いキャラでもアクションのモーションが作りやすくなる。
・カメラが使え、頭身が上がることで演技もつけやすくなる。ドラマが重用なRPGでは特に重宝される。(ドラクエ6がコストかけて8や11になるような。)
・今じゃドット絵職人より3D職人の方が確保しやすい。
対してドット絵のメリットも多くあります。
・ゲームハードのリアルタイム性能ではモデリングやテクスチャがのっぺりとしやすく、むしろドット絵の低解像度を脳内補完する方が密度高い高解像度に錯覚する。
・低解像度なドット絵の方が「箱庭感」「ミニチュア感」があって「誰でも簡単にできそう」と思える。2DでもドットからアニメイラストのようなHD化すると「ミニチュア感」が失われる。
・すべての点が意思と意味を持って打たれてるので妥協感が見えない。3Dモーションは細部まで作り込むのがドット絵と比べやたら高コストで妥協しがち。
特に頭身が上がった時、ドット絵は記号で済んでたものもきちんとモーション作らなければならないくなる。戦闘シーンにはコストかけるが、記号で済んでたなにげない(日常)シーンほど難しく、3Dだと手抜きになりがち。
・背景の建物やオブジェクトも記号として置くことができる。3Dは空間に嘘がないようちゃんと作らないといけない。
完成されたミニチュアである盆栽と、手入れされてない大きな森の違いと言ったらいいんでしょうか。ドット絵の紙芝居で許されてた嘘が、3Dはよほどクオリティ上げないと作品の世界観から覚める感じ。3Dにするならピクサーぐらいお金かけて森の葉っぱ1枚1枚まで作り込んでほしいと思ったり。そんなコストかけれるのは大手メーカーのAAA作品ぐらいなので、であればドット絵のミニチュアで覚めない世界観を作り込んでくれたほうがレトロゲームファンには喜ばれる。
例えばメガドラ版のOPは一枚絵のスライドから目を開けますが、
リメイク版OPはプレイキャラモデルをそのまま使って、ちょっと目の開き方がロボっぽいです。あとゲーム中、ポニーテールが物理演算でちょっと動きすぎとか。元がデフォルメな動きなんで慣性のない軽快なターンに物理演算が無理してるような。とはいえ物理演算使わず、アクションやシーンや風ごとに髪の動きを手付けして管理するのは大変すぎます。
メガドラ版はカセット容量の都合上、ゲーム内に1枚絵のようなカットシーンあるわけじゃないですが、OPのようなシーンはもっと見たいですよね。
記号でなくなるというのは、塔内の天井にサーキュレーターが設置されたりしましたが、
この記号サイズのまま3Dに持ってくると背景として違和感が。この頭身や背景だともう少し横に大きくないと、これ何?って思われそう。この辺は重箱の隅をつつくようなもんですけど。
モンスターワールドIVは宝箱開ける時に4コマループぐらいのお尻を振るかわいい演出が入ります。
4頭身になって、よりこだわってクオリティアップした、自然でかわいい腰振りモーションとなりました。ただこれ、宝箱開けるたび毎回あるんですよね。このゲームの欠かせない特徴ではあるんですが、ドット絵のときの「記号性」は薄れたので重用アイテムとそうじゃないときで使い分けたいところ。
www.youtube.comリメイクが悪いというわけではないです。というかドット絵ならメガドライブミニや、Wii PS3 のバーチャルコンソール版で遊べばいいのでリメイクの必要はない。プレイ動画みると背景の描画はより美しく雲の表現もとてもよい。
2頭身が4頭身になり、カメラのアップが可能になったことでかわいい表情が演出できるようになってます。床も段差ごとにカメラが上がって広く奥行ある床に。3Dならではのカットシーンやボス演出の数々を考えると、昔のドット絵にこだわらない初見さんにはリメイクのほうが満足度高いでしょう。
たぶんレトロゲームファンは、新作のモンスターワールド5をドット絵で箱庭ミニチュア感のままやってほしかったんでしょうね。ドット絵のままでも4頭身や、奥行ある表現は可能ですから。
ちなみに94年で一旦途絶えたモンスターワールドの遺伝子を引き継いだのは、アメリカインディーデベロッパーの、Wayforwardと思われます。
www.youtube.comあえてHD化する前のドット絵第3作目を貼ります。ポニーテールと、ペペログゥぽいアクションもありますが、アクションスピードは速くメタルスラッグのような制作者が好きなもの全部突っ込んだ感じがあります。モンスターワールドIV好きな人はシャンティシリーズもオススメ。ドット絵ファンが望む方向はこっちなんだろうなと思わせる1作。
ドット絵に話を戻します。
www.youtube.com例えばR-TYPE。こちらオリジナルのドット絵。
www.youtube.comプレステ版のR-TYPE DELTA。
3D化してますが使えるポリゴン数やテクスチャメモリに限りがあることもあり、敵や背景にのっぺりした面が目立ちます。
www.youtube.comPS4 Switchの最新作。 R-TYPE FINAL2。3Dでもここまで描き込まれてると画面密度の説得力は充分で、3Dモーションやテクスチャによる手抜き感がなくなります。ただ、ここまでリアルだとザコ敵がフォースに向かって突撃してあっけなく壊れたり、自機が飛んでるのではなく浮いてて上下左右自由に動けることに違和感ないでしょうか? 僕ら古いゲーマーはシューティングゲームとはそういうものだという概念があるからいいのですが、ドット絵で許されてた「記号性」がリアルになるほど不自然な「記号」では済まなくなるかもしれません。
www.youtube.comFF6 はスーパーファミコンドット絵でひとつの完成形ですね。
www.youtube.comFF7 になると当初キャラクターにテクスチャをほとんど貼らず(制約上貼れず?) のっぺりとした感じがありました。しかし作り込んだ背景レンダリングとの融合やゲームとしては最大のコストをかけた当時画期的な3DRPGは世界で1000万本以上の大ヒット。最近PS4でフルリメイクシリーズがスタートしましたが、いつかスーパーファミコン版FF7-9というドット絵版リメイクがあっても売れそうですね。
ファイナルファンタジー8以降のスクウェアRRGは、テクスチャをめちゃくちゃ細かく描き込むことで画面密度を確保しています。
www.youtube.comベイグラントストーリーはPS1じゃ難しいフル3Dでこの表現力を実現してます。テクスチャの色と解像度抑え、ぼかしまで利用してメモリ節約した描き込みでしょうか?
ピクサーのような映画ならレイトレーシングの環境光で画面密度を上げることもできますが、リアルタイムでやるならPS5でも難しい話。
PS3 のソニックワールドアドベンチャーですが、こちらは予め膨大なPCでレイトレーシング計算した結果のテクスチャを焼き付けることで質感を実現し画面密度の説得力をアップ。リアルタイムレイトレーシングじゃないので光源は動かさない条件ですが、PS3時代になると予算あるタイトルはこういう手法も使えるようになりました。
www.youtube.com格闘ゲームはカセットでもキャラ一人一人に容量を使う事ができるので、ドット絵でもキャラ大型化したままアクションの豊かさが表現できるようになりました。
この時代はRGB3つの信号を黄色ケーブルのひとつにまとめて劣化してしまうコンポジット端子が使われていたのがよい滲みを生み出し、ドット絵でも高解像度に見えました。PS2あたりまでは使われてましたね。
ひとつのケーブルで輝度と色の信号を送ることができたS端子はPS1のブラウン管でもドットがくっきりしました。小さすぎる数字読むのには良かったですが、煙の表現が砂嵐ぐらいになるクッキリさなのでドット表現としては微妙。その後RGB端子、HDMIと色を3つにちゃんと分けれるようになってドットの生き残りは難しくなりましたね。
前にこの方のTweetが話題になりましたが、当事はみんなコンポジット端子ありきでした。アップにすると劣化した滲みが高解像度に見える不思議。
www.gamecast-blog.com 今の液晶HDMI時代ではあえて滲みを出すフィルターも作られてるようです。
www.youtube.comストリートファイターIIは後年の次世代機でHDリミックスなども発売され、ドット感のない綺麗なイラスト表現として発売されたこともありますが、これじゃない感が半端なかったです。
HD高解像度化して情報量増えたはずなのに、逆に見た目の「スカスカ感」が増えて情報量が減少するという逆転現象が起きてます。低解像度のドット絵の方が情報密度高い。ゲームを3D化するときののっぺり感と同じ現象です。画面に説得力を持たせるには高解像度化した分スクウェアのようにより描き込んだり、モーションフレームを描き増やさねばなりません。
www.youtube.comこちらはストリートファイターIII。これまでの6頭身キャラがドット絵で8頭身となり、かつアニメーションの中割りが細かく2D格闘表現の頂点とまで言われました。カプコンのドッターは大変だったでしょう。
www.youtube.comArikaが開発した名作ストリートファイターEX2 plus。
PS1の名作ですが、まだ2Dの細かい表現には追いついてない。
www.youtube.comハードがPS2になったEX3。
PS2ロンチにどうしても間に合わせるため、バグや調整不足の目立つ作品でしたが、まだ画面密度がドット絵に追いついてない感じがあります。
ではストリートファイターの3D化はどうしたらいいかというと10年以上ブランクを待つ必要があって、、
PS3 XBOX360で3Dのストリートファイター4発売。
ここまで作り込むならドット絵の表現を超えたといっていいでしょう。画面からまったく妥協感が感じられません。
格ゲーでもう一つ例を出すとKOFシリーズ。
ネオジオで当初から8頭身で作られ、カッコイイキャラがたくさん登場しゲーセンで大人気のゲームでした。
www.youtube.com動画はKOF13ですが、KOF12からHD化も達成。これはスト2のHDと比べるときっちり描き込んで、中割も増えてるのでとても良い出来です。大量の中割HDドットをどう作ったかというと、一度3Dで素体とモーションを作りそれを人力でドット絵に落とし込んだそうで。
HD化され、中割増えて、表情もつけやすくなり、ちょっとしたアップにも耐えられていいことづくめだね…とまではいかないのが難しいところ。悪くないんですがシリーズで特別人気というわけでもないんです。HD化はきれいなアニメーションに落とし込んだようで、ネオジオフォーマットの、ドット感のほうがミニチュア的な密度感と完成度が高い絵に思えてしまうんですね。格闘ゲームは、はたしてHD化する意義があったのかどうか問われるぐらいドット絵恐るべし。半透明も使えないネオジオというハードは2Dフォーマットとして完成されすぎてましたね。メタルスラッグも産んでるし。
では問題の3D化したKOF14です。
なんだろう、、PS4時代の作品なんですが、とても3D特有の「のっぺり感」があります。特に女性キャラ。もともと中二病設定みたいなキャラが多かったですが、画面の描き込み密度が下がったせいでオリジナルキャラなのにコスプレして戦ってる感じありますね。
KOFのドット絵はコントラストはっきりしてて硬質感があり、それでも顔や肌はアニメ調という独特のテイスト。キャラ選択イラストも森気楼氏だったりその後のアニメ調だったりで、雰囲気変わります。それをどう3Dに落とし込んでいくのかで失敗したのか、オールド2Dファンからはとても不評でした。スト4のようにジャンプアップできてないんですね。
www.youtube.comしかし2021発売予定されてるKOF15はこの辺クリアしてそうです。
モデリングの枠線、描線など、線の描き込みが重視されぐんと表現力アップしました。PS3時代カプコンができてたことをPS5時代にやっとかと言われそうですが、まあSNKはいろいろ建て直すまで大変でしたしね。3Dはここまで作り込んでなお進化し続けないといけない。低解像度ドット絵の最後が2005年のKOF11ですが、KOF2002が何度もリメイクされるあたり、わりとそのままのドット絵フォーマットで新作出しても16年戦えたかもしれないですね。
www.youtube.com最近凄かったのがFC版月風魔伝。
ファミコンはドット絵と言っても、4色(抜き1色で3色)しか使えないので表現に限界があります。*1
それをインディーデベロッパーがフル3Dで作った月風魔伝がこちら。
ゲームは2Dアクションですが、現代に合わせて3Dグラフィックを描き込むとはこういうことかと魅せつけられた作品でした。ここまでやられるとドット絵じゃ勝てない気はしますね。
www.youtube.comそして、スーパーファミコンのRPGがそのまま進化してたらどうなったかという仮設から作られたのがオクトパストラベラー。
ドット絵ベースで作られた3Dフィールド。あくまでキャラはデフォルメのドット絵。今どきのエフェクトや、カメラに被写界深度まで設定されて最高にミニチュア感が出ています。この方向性の作品は今後も期待したいです。
スクエニはこれを「HD-2D」と呼んでて近くドラゴンクエスト3をこの技術でリメイクするそうです。
SFC版のリメイク画像が流れて、これも素晴らしいドット絵。
ちょっとオクトパストラベラーとは違いますね。まず背景にドット感がなく精細なフル3Dといった感じ。そのためかまだ調整不足なのかドットキャラクターが舞台を歩いてるのではなく、浮いて滑ってるように見えるんですね。制作初期だからかと思うんですが3頭身のドット絵が仮で魂が入ってないような。その舞台にいて馴染んでる感じがしません。3D空間の広がりはとてもよく、オクトパストラベラーという良い前例があるのでかなり惜しい気はします。まだ製作開始段階なので今後に期待。
スクエニではもう一つ「FFピクセルリマスター」というプロジェクトが進んでます。
ファミコン版も映像にこだわった作品でしたが
ファミコン版だった1-3はスーファミ版以上のレベルに描き直されるようです。
1-6までがリマスターされるようですが、6なんてすでに究極に煮詰めてるレベルだったのでスーファミ版の4-6はどうなるのでしょうか?
ドット絵と3D表現の融合でインディーデベロッパーが開発してる期待のサイバーパンクが2作「ANNO」「The Last Night」あるのですが。
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どちらも何年も開発中で一向に発売される気配がありません^^;
ドット絵でもこんなに凄い表現が可能なんだと思わせるPVなんですが、作りきるのは難しそうですね。
僕らがなぜドット絵にこだわるか、まとめ。
ドット絵だけで完成される盆栽のようなミニチュア感。そこではいろんなデフォルメやアニメーションの省略、記号性が許される。プレイヤーの脳内補完で高解像度化される。今求められる「3D表現」の作り込みハードルは高く、何気ない省略や日常の動作、背景の作り込みでの妥協が世界観から覚めさせてしまうリスクもある。限られた開発コストでどっちが突き抜けれるか。
ゲームプロデューサーがやりがちな失敗は、社内の開発段階で比較して「ドット絵よりHD化したほうが見栄え良い」「2Dより3Dの方が見栄え良い」など開発素材で比べたり、雑誌の写真映りにも気を配ってしまうことです。でも「凄い」や「綺麗」と人を驚かせるというのは、ゲーム内でのギャップや演出によるところであってプレイヤーはゲーム中に開発素材と比べて映像が凄い! なんて言わないんですよね。モノクロ映画じゃ綺麗な絵は作れないなんて事は演出上なく、声や色のあるアニメじゃないとダメで、表現に限界があるマンガでは「驚き」や「感動」を伝えられないなんて事もないわけで。
「盆栽」より「庭園」の方がいいよね。「庭園」より「森」の方がいいよね、というのは分かりやすいのですが「森」をテーマパークとして完成させるのは大変なんで、「庭園」や「盆栽」を「森」より価値高く売る方法はないか、ドット絵の名作はドット絵のまま進化したほうが面白いんじゃないかとレトロゲームファンは思います。
*1:スプライトを重ねればもう少し色使えますが少しスプライト横に並べるだけでちらつくファミコンだと、アクションゲームでそれをやるには現実的ではありません。