「台湾情勢の安定重要」 防衛白書に初明記
米中競争、安保への影響記述

岸信夫防衛相は13日の閣議で2021年版の防衛白書を報告した。中国の台湾周辺での軍事活動を挙げ「台湾をめぐる情勢の安定はわが国の安全保障にとって重要だ」と初めて明記した。米中の競争激化が「インド太平洋地域の平和と安定に影響を与えうる」と警鐘を鳴らした。
防衛省は白書を毎年作成し、日本を取り巻く安全保障環境や自衛隊の体制などを公表してきた。21年版は初めて米中関係を分析する項目を設けた。
米中の対立が日本の安保に与える影響に重点を置いた。地域情勢の客観的な説明が中心の例年の白書とは異なる記述ぶりといえる。
米国については「機微技術や重要技術で中国に対する警戒感を強めている」と記した。中国も妥協しない姿勢を示し「戦略的競争が一層顕在化していく」と指摘した。
台湾については米中の競争の文脈で詳述した。米国が20年以降、政府高官を相次ぎ台湾に派遣した動きや、中国軍機による台湾側への進入を取り上げた。
「(中国の)台湾に対する野心が今後6年以内に明らかになる」とした米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官の議会証言にも触れた。中国が経済成長を背景に軍事力を強化し、米中間の軍事バランスが変化したと明示した。
沖縄県・尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国海警局の活動については、初めて「国際法違反」と断じた。外務省が4月に閣議で報告した外交青書も同様の表現を盛り込んだ。
中国の海警局を準軍事組織に位置づける海警法については、白書に「国際法との整合性の観点から問題がある規定が含まれる」と記載した。
対中抑止を念頭に、白書は「自由で開かれたインド太平洋」の維持に向けた各国との防衛協力の重要性を示した。交流を推進する国に米国、オーストラリア、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州諸国を挙げた。
日米同盟の項目に載せた経緯の表で、4月の日米首脳会談の結果として台湾海峡の安定の重要性や「両岸(中台)問題の平和的解決を促す」と確認したことを紹介した。
北朝鮮については「重大かつ差し迫った脅威」との前年の表現を引き継いだ。低空や変則軌道で飛ぶ弾道ミサイルの開発状況を示し「技術や運用能力を極めて速いスピードで向上させている」と解説した。
韓国の軍備増強についても触れた。既に日本の防衛費を上回るとしたうえで「将来の日韓の防衛予算を試算すると25年に差は1.5倍に広がる」と説明した。
気候変動問題を安保上の課題として初めて位置づけた。土地や資源の不足が争いを誘発し、国家の安定を揺るがす可能性があるとの見方を示した。
温暖化で海氷が減る北極海で軍事態勢を強化する動きなどについて「重大な関心を持って注視する必要がある」と提起した。
日本の防衛力強化をめぐっては宇宙やサイバーなど新たな領域について最新の状況も取り上げた。人工衛星や宇宙ごみの動きを監視する部隊の体制、多数の小型衛星を使ってミサイルを探知するシステム研究の現状も盛り込んだ。
サイバーは組織を改め、共同部隊をつくって防衛体制を強化する方針を掲げた。
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- 渡部恒雄笹川平和財団 上席研究員分析・考察
台湾海峡の情勢が日本の安定に重要な影響を及ぼすことは、これまでも真実でした。なぜ、今まで記述しなかったといえば、これまでは記述することでむしろ中台の緊張を高めかねないという配慮が働いたからです。今回、あえて記述するのは、むしろ日本が台湾海峡を意識して米国や周辺諸国と安全保障協力を進めることで、中国の冒険的な軍事行動を抑止しようという意図があるからでしょう。日本が積極的な防衛姿勢を見せることが、むしろ地域の安定に寄与することもあるという現実を忘れてはいけないでしょう。
(更新) - 南川明インフォーマインテリジェンス シニアコンサルティングディレクタ別の視点
日本の周辺がきな臭くなっている。他のアジア諸国で今でも徴兵制度が残っている国は中国、韓国、北朝鮮、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムがあります。日本は第二次世界大戦後に徴兵制度を止めているため、自衛隊以外の民間人は戦闘経験などもちろん無いです。有事の際はひとたまりもないでしょう。それでは日本はどうすれば良いのだろう。半導体技術力で圧倒的な強さを持つことは軍事力を高めると同等の抑止力を持つことが米中摩擦禍のこの2年ではっきりしました。有事になる前の抑止力となる半導体技術が日本の持つべき武器ではないでしょうか。
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